JRRCマガジンNo.312 最新著作権裁判例解説6

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JRRCマガジン No.312    2023/3/16
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】3/2配信メルマガについてのお詫びと訂正
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皆さま、こんにちは。

季節外れのあたたかさが続いております。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
【1】最新著作権裁判例解説(その6)
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               横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

  第6回の今回は、最近出たての東京地判令和4年9月15日(令和4年(ワ)第14375号)〔ツイッタースクリーンショット事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、原告(ツイッター上で、アカウント名を「B」、ユーザー名を「@(省略)」とするアカウントを利用)が、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」で特定のアカウントの利用者が原告のツイートのスクリーンショットを添付して投稿したツイートについて、原告のツイートに係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであることが明らかであると主張して、同アカウントへのログインに係る経由プロバイダである被告に対し、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」4条1項に基づき、被告が保有する上記利用者に係る氏名又は名称、住所、電話番号及びメールアドレスの開示を求める事案です。
 本事案における具体的なツイート内容については以下の通りです。
・原告ツイートの本文には、「私の謎/休憩・仮眠・宿泊目的について国交省は 7,8 時間寝てもそれは10 休憩、夜から朝まで寝ても仮眠と見解。/活動反対派は、その行為をしたら宿泊目
的で車中泊はダメ!日本語や常識でわかる。国交省の Q&A に記載されている!/えっと、だからその行為や Q&A の見解を国交省は休憩仮眠と言っているのだが」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)と記載されている。
・氏名不詳者が、ツイッター上で、アカウント名を「C」、ユーザー名を「@(省略)」とするアカウントを用いて投稿した本件ツイートには、本文に「国交省担当者が 7、8 時間寝ても良いと言ったのはあくまで「仮眠」ならばという前提で話をしてたでしょ?/貴方の支持者の D さんが国交省に確認した結果、宿泊と受け取れる車中泊は一泊でもご遠慮と回答を貰ってます/宿泊目的の車中泊はご遠慮で結果は出てますので間違った情報は流さないように」との記載があると共に、原告ツイートの本文全文、原告のプロフィール画像、原告のアカウント名の一部が省略された「B…」の記載等が表示されたスクリーンショット(以下「本件添付画像」という。)が添付されている。

<判旨>
 原告敗訴(原告の請求は棄却)。
「原告ツイートは、車中泊につき原告が得たとする国土交通省の見解及び原告の活動に批判的な者の原告に対する意見を示した上で、この批判的意見に対する原告の見解を示したものである。これらの内容が 1 ツイート当たり 140 文字という文字数制限内に収まるように、原告は、独特の言い回し等を選択して表現したものといえる。このことに鑑みると、原告ツイートは、原告の思想又は感情を創作的に表現したものといってよく、言語の著作物(著作権法 10 条 1 号)に該当する。」
「(1) 本件添付画像部分は、本件ツイートの形式上、本文部分と客観的に明瞭に区別して認識し得る態様で利用されている。また、本件ツイートの内容から、本件投稿者は、国土交通省の見解に関する原告ツイートにおける要約が誤りないし不正確であることを指摘することなどを意図して本件ツイートをしたものと理解されるところ、本件添付画像は、指摘対象である原告ツイートの内容を正確に摘示することを目的として添付されたものと見られる。
これらの事情を踏まえると、本件ツイートにおける本件添付画像の添付という形での原告ツイートの引用は、本件投稿者が本件ツイートによって自らの思想又は感情を表現するにあたって必要かつ合理的な範囲内で行われたものといえる。また、本件添付画像の添付という方法についても、ツイッター上では、他のツイートを引用しつつ自身のツイートを投稿する方法として、引用リツイート機能がツイッター社により提供されているものの、他のツイートのスクリーンショットを自己のツイートに画像として添付して投稿することで他のツイートを引用することも多くの利用者によって行われていること、にもかかわらず、このような利用態様がツイッター社により削除その他の方法で具体的に規制されていることをうかがわせる事情はないこと(弁論の全趣旨)に鑑みると、なお公正な慣行に合致する範囲内にあるといえる。
以上の事情を総合的に考慮すると、本件ツイートが本件添付画像を添付することにより原告ツイートを引用して利用したことについては、その方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内にあるものといえる。
したがって、本件ツイートによる原告ツイートの引用は、著作権法 32 条 1 項に基づき適法なものと認められる。」

<解説>
 著作権関係の訴訟では、近時のネットワーク化の進展の影響を受け、今回のようないわゆる「プロバイダ責任制限法」(プロ責法)に基づく発信者情報の開示請求に関する訴訟が多くなっていますが(注1)、今回は引用利用について取り上げたいと思います。
 自分の文章などを創作するに当たって既存作品の表現を引用して利用することは日常的に行われている行為であり、殊更に著作権法を持ち出すよりも、常識に従って処理しているというのが世情の感覚でしょう。著作権法の視点に引き戻してみると、多様な文化表現は先人の業績の上に成立するものであり、そうした文化表現の創作過程や既存表現の利用の必要性等に鑑み、著作権法においては著作物の引用利用について一定の要件の下に著作権を制限することとしたものであると整理できます(注2)。
 このような引用利用に係る著作権制限規定は、旧著作権法(明治32年法律第39号)の時代から整備されており、第30条(第1項第2号)において次のように規定されていました。
「第三十条 既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作と看做サス
  第二 自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」
 当時の「複製」は現在のそれと異なり明確な定義規定を欠いたものであり、学説上は無形的な再製も含むものと解されていたところであって(注3)、他人が著作権を有する著作物を自分の創作する著作物に正当な範囲内で節録引用する行為は著作権侵害とはせず適法行為として取り扱うこととされていました。
 この引用利用に係る著作権制限規定については条文の規定ぶりはある程度の変更が加えられたものの、現行著作権法(昭和45年法律第48号)に基本的に引き継がれ、第32条第1項で「(引用)」の見出しの下、以下の通りに規定されています(注4)。
「第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲で行なわれなければならない。」
 この第32条第1項の解釈・運用については、裁判実務上、一定期間、主として①「明瞭区別性」(=新たに創作される著作物(A)を見る等した場合において、引用される既存著作物(B)と、その著作物を取り込んで新たに創作される著作物(A)とが明瞭の区別されていることが必要。例えば引用部分を「  」で括って明示するなど)、②「主従関係性」(=Aが主で、Bが従となっている関係性が必要)の二つの要件によって判断するという「二要件説」に沿って行われてきました(注5)。この「二要件説」の元になったのは最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁〔パロディ・モンタージュ写真事件〕でした。
これは旧著作権法下の事件であり(かつ、著作者人格権の侵害に関わる事件であったところ)、その詳細は省きますが、上述の第30条第1項第2号の節録引用につき「三〇条一項第二は、すでに発行された他人の著作物を正当の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認しているが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示されたことに端を発するものであり、また、同判決に関する最高裁調査官解説(注6)において「なお、本判決は、法(旧著作権法)についてのものであるが、現行著作権法の解釈についてもそのまま参考になる。」とされたことも二要件説を大きく後押ししたものと思われます。
 ところが2000年前後になってくると、二要件説に対する「ゆらぎ」が学会や裁判実務上でも種々顕在化してきます。その問題意識をごくごく荒くいってしまえば「各著作権制限規定が丁寧に規定されている中で、現行法第32条第1項の文言のどこで二要件を読み取ることができるのかが不明。多様な事案に対しての実効的な処理方法について条文との関係で敢えて言えば、主従関係性の要件を「正当な範囲内で」の文言内に読み込んで妥当な解決を図ることになろうが、裁判例上は無理が生じてきている。そうであれば、引用利用の適法性に関しては、条文に即して、目的・効果・採録方法・利用態様等によって判断すべき」というような趣旨の主張です(注7)。
 その後、東京地判平成13年6月13日判時1757号138頁〔絶対音感事件(1審)〕において「〔1〕本件書籍の目的、主題、構成、性質、〔2〕引用複製された原告翻訳部分の内容、性質、位置づけ、〔3〕利用の態様、原告翻訳部分の本件書籍に占める分量等を総合的に考慮すると、著作者である原告の許諾を得ないで原告翻訳部分を複製して掲載することが、公正な慣行に合致しているということもできないし、また、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるということもできない」と判示されたことを嚆矢として、これ以降は総合考慮説によって引用利用に係る適法性を判断する裁判例が多数発生することとなりました(注8)。

 今回の裁判例も最近のトレンドに従い、このような総合考慮説に沿って判断された事例となっています。他人のツイート等スクリーンショットの形で引っ張ってくることが著作権法第32条第1項の引用利用に該当するか否かを巡っては近時も度々訴訟になっており(注9)、他人の言論に対する批判等をする文脈でこれらのスクリーンショットを用いることの是非に関しては議論のありえるところですが、私見としても今回の判断内容について異議を唱えるものではありません。その上で、引用利用に関して少しコメントを追加しておきたいと思います。
 第一点は、二要件はどうなったのかという点です。前述の通り、総合考慮説は従来の二要件説への疑問の文脈で提唱されるに至った見解ですが、両説は必ずしも相矛盾するというものではなく、諸々の要素を総合考慮する立場からすれば「現行条文との関係性が不明確な二要件だけで引用利用の適法性を判断するのは可笑しい」ということですので、考慮される諸要素の中に従来の二要件が含まれ得ることになります(注10)。実際、今回の判旨でも掲載したように、明瞭区分性の点が指摘されているところですので(注11)、二要件自体が全く考慮されなくなったという訳ではない点は注意ポイントです。
 もう一つは、総合考慮説が持つ実質的意義の点です。総合考慮説は現行法第32条第1項の条文との乖離を解消する点では説得性を持つ考え方ですが、その一方で「諸要素を総合的に考慮して適法性を判断する」となると、実務上の予見可能性の点では二要件説の方が使いやすいことは明らかです。そうであっても総合考慮説が有力に主張・展開されることには条文との乖離の点以外にも一定の背景が存在しているものと思われます。前述の通り、現行法第32条第1項の文言は抽象度が非常に高い規定ぶりとなっています。この条文はベルヌ条約における引用利用の規定ぶりに影響を受けていると思われるのですが(注12)、逆にいえばその分だけ多様な事象への適用可能性に関する汎用度が高くなっているとも言えます。
著作権制限規定については、今でこそ第30条の4(著作物に表現された思想・感情の享受を目的としない利用)などの汎用性の一定程度ある条文も整備されるようになってはいますが、抑々は個別のケースに応じて著作権を制限する「個別的制限規定」で構成されており、著作物の公正利用を全般的に許容する「一般的制限規定」は設けられては来ませんでした。現行著作権法の制定時(昭和45年)は顕在化していませんでしたが、近時のデジタル化・ネットワーク化の進展により著作権制度が国民生活により密着したものとなってきた時代にあって個別的制限規定の厳格解釈のみでは合法化・救済されない事象に対応しうる一般的制限規定の必要性が主張されるようになってきたところであり(注13)、第32条第1項の総合考慮説は、そうした背景にあって、一般的制限規定に近似する効果を発揮しうる役割・意義を担っている見解である点にも留意が必要だと思われます。
今回は以上です。

(注1)小川暁・講演録「最近の著作権裁判例について」コピライト743号(2023年)3~4頁。
(注2)例えば島並良=横山久芳=上野達弘『著作権法入門(第3版)』191頁[島並良]では、「この適法引用制度は,既存作品についてその内容(アイデア)だけでなく表現に関しても一定程度の自由な利用を認めることで,新たな表現活動を実効的に保護・支援する必要性があること,また公正な観光や正当な範囲という一定の枠内での利用であれば,著作権者への経済的打撃が些少であることから認められたものである」とされている。
(注3)萼優美『条解著作権』71~72頁では「複製はこれを有形的複製と無形的複製の二種に分つことができる。・・・無形的複製とは、無形的な表現形式により原著作物を再製する場合をいう。たとえば、原著作物を上演、上映、演奏、歌唱又は演述の形式で表現する場合がこれに当る。」とされている。
(注4)引用の場面で通常想定されるのは既存著作物を自分の作品内に取り込み複製を行う行為であるが、第32条第1項は「引用して利用することができる」と規定されており、ここでいう「利用」は第21条以下の各支分権で規定される法定利用行為全般を指すものである。加戸守行『著作権法逐条講義(七訂新版)』301頁。
(注5)典型例として、東京地判昭和59年8月31日無体裁集16巻2号547頁〔レオナール・フジタ事件(1審)〕、東京高判昭和60年10月17日無体裁集17巻3号462頁〔同事件(2審)〕。
(注6)小酒禮「一 旧著作権法(明治三二年法律第三九号)三〇条一項二号にいう引用の意義 二 他人が著作した写真を改変して利用することによりモンタージュ写真を作成して発行した場合と著作者人格権の侵害」『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和五十五年度』154頁。
(注7)飯村敏明「裁判例における引用の基準について」著作権法学会『著作権研究第26号』91頁以下。
(注8)代表的な裁判例として、知財高判平成22年10月13日判時2092号136頁〔美術品鑑定証書事件〕。なお、その後の引用利用をめぐる裁判例の状況については、平澤卓人「美術鑑定書事件以降における引用の裁判例に関する総合的研究」田村善之編『知財とパブリック・ドメイン第2巻:著作権法篇』289頁以降を参照。
(注9)発信者情報開示請求事件につき、例えば、東京地判令和3年12月10日(令和3年(ワ)第15819号)、東京地判令和3年12月23日(令和2年(ワ)第24492号)・知財高判令和4年10月19日(令和4年(ネ)第10019号)〔同事件2審〕など。全体的な傾向としては、適法引用利用が認められる傾向になってきている。
(注10)二要件を第32条第1項の文言中で読み込む部分については種々学説があり、その状況については上野達弘「引用をめぐる要件論の再構成」『著作権法と民法の現代的課題 半田正夫先生古稀記念論集』307頁以下を参照。また、二要件を「引用」の文言自体に読み込む見解として、例えば、高林龍『標準著作権法(第5版)』183頁。
(注11)これとは別に、主従関係性に言及する裁判例として、例えば東京地判平成30年6月19日(平成28年(ワ)第32742号)〔一竹辻が花事件〕。
(注12)現行著作権法の立案時のブラッセル改正・ストックホルム改正を含め、ベルヌ条約における数次の改正内容については省くが、現行のパリ改正条約(1971年作成)を見ると、第10条(1)において「既に適法に公衆に提供された著作物からの引用(新聞雑誌の要約の形で行う新聞紙及び定期刊行物の記事からの引用を含む。)は、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、その目的上正当な範囲内で行われることを条件として、適法とされる。」と規定されている。引用規定の来歴の詳細については、茶園成樹・講演録「「引用」の要件について」コピライト565号(2008年)2頁以下を参照。
(注13)例えば、中山信弘=金子敏哉編『しなやかな著作権制度に向けて』所収の各論考を参照。また、本文記載の第30条の4など平成30年著作権法一部改正において整備された著作権制規定は、文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第30条の4,第47条の4及び第47条の5関係)」(令和元年10月24日)として公表されているように、平成20年代初頭(に一部改正がされているものの、それ)以来の、米国フェアユースの日本版規定の導入論にシンクロする(政府の知的財産推進計画2015~2017に盛り込まれた)「柔軟性の高い/柔軟性のある権利制限規定」の検討論等に対応して整備されたものである。

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【2】3/2配信メルマガについてのお詫びと訂正
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3/2に配信いたしました、『No.310今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)12』の
「2.5.2(2)ある書籍の複製物が」の段落の最後の文に誤りがございました。

誤:「イギリスでの輸入と販売は基本的に頒布権を侵害しません。」
正:「イギリスでの輸入と販売は基本的に頒布権を侵害します。」

なお、HP上のバックナンバーにつきましては 3/10 18:43 に訂正済です。

バックナンバー↓
https://jrrc.or.jp/no310/

読者の皆様にはご迷惑おかけいたしましたことを
深くお詫び申し上げますとともに、訂正させていただきます。

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