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JRRCマガジン No.458 2026/2/26
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◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」⑧
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日2月26日は「2.26事件の日」
1936(昭和11)年のこの日、2.26事件が発生しました。
陸軍の皇道派の青年将校が、対立していた統制派の打倒と国家改造を目指し、約1500名の部隊を率いて首相官邸等を襲撃した。内大臣・大蔵大臣等が殺害され、永田町一帯が占拠されたそうです。
さて、今回は大和先生の著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)についてです。
大和先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/yamato/
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【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」⑧
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千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳
【承前】
前回は,高等教育における著作権教育の課題について述べた後,企業・行政機関等における著作権教育について触れました。企業等ではコンプライアンスの観点から職員研修に取り組まれることが多く,その中のテーマのひとつとして著作権が取り上げられるようですが,「コンプライアンス」を「法令遵守」ととらえて「こんなことをしてはダメ」といった「べからず集」的な研修になりがちという話を聞くことがあります。この点について,「コンプライアンス」を「社会的要請に適合すること」ととらえ,なぜそのような規定や基準があるのか,どうすればそのような要請や期待に応えることができるのかを考えてはどうかということを述べました。
【企業等における著作権教育で押さえておきたい点】
企業等における著作権教育への取組といっても,業種や職種によって必要とされる知識や資質が異なります。業種で見ると,コンテンツを制作する活動を中心とする事業,できあがったコンテンツを流通させる活動を中心とする事業,コンテンツの利用は中心としないものの,社内の活動で情報のひとつとしてコンテンツを利用する場合がある事業などに分類できます。職種で見ると,商品やサービスの企画開発担当,営業担当,広報担当,法務担当などに分類できます(総務や経理担当であっても,業務の実情によっては著作権に関する知識が必要な場合もあるでしょう。)。
このような多様なポジションにある従業員に対する教育としての著作権教育はどうあればよいのでしょう。
例えば,新聞・書籍・雑誌の出版,テレビやラジオ番組の放送・有線放送,レコード製作,映画製作などのコンテンツビジネスの現場で,まさしく著作権契約のど真ん中で業務を担当している人にとっては,いまさら著作権教育という議論は必要ないかもしれません。
しかし,そのような従業員は別としても,企業等における様々な業種・職種に共通して必要な内容は,(実態が多様であるだけに一概には言えませんが,)必ずしも高度なものである必要はないのではないかと思います。これは,初等中等教育や高等教育における著作権教育の課題として,すべての学習者に共通する最低限の内容が何かということが必ずしも明確でないことにも起因しています。
最近であれば,生成AIと著作権の問題をテーマにした研修が増えているようですが,研修会での質疑応答を聴いていると,「業務上,どこまでなら生成AIを使っても問題ないですか」というような質問がしばしばあります。これに対して,講師が権利制限規定の適用の可能性にグラデーションがあることを説明するのですが,横から聞いていると,どうも噛み合っていません。おそらく質問者には,他者が創作した著作物を利用するに当たっては原則として許諾を得ることが必要という前提知識が稀薄だったのではないかと思われます。このような質問に対して,文化審議会著作権分科会が整理した「AIと著作権に関する考え方」を説明してもなかなか理解は進まないような気がします。
企業等での著作物利用を巡っては,中央省庁において職場のLANを用いて所掌事務に関する新聞や雑誌の記事を関係者で共有したことについて,裁判になったり,裁判外で損害賠償をしたりする事案が生じていることで分かるとおり,細かい権利制限規定を気にするあまり原則を見失ってしまっているきらいはなくもありません。
最近は,企業向けのオンライン・ビジネス・セミナーの開催も活発で,有償のもの・無償のもの,ライブのもの・オンデマンドのものなど多様なスタイルにより,弁護士や大学教員が専門的内容を解説する番組を視聴することができます。その中には著作権に関連する内容を解説するものもあり,筆者も時折視聴しています。それらを視聴していると,すべてとは言いませんが,かなり多くのものは著作権法や制度に関する系統的な解説が中心になっているような気がします。定義や構成要件の説明や,裁判例の比較や分析を平易に解説してくれるようなものもあり,法務担当者に対する研修コンテンツには適しているかもしれませんが,その他の多くの者(特に,法律を専門としない人)にはどうでしょうか。
もちろん,多くの企業において「パクリはダメ」という意識がないはずはありません。ただ,「ICTの発達・普及によって著作物を含む情報の複製・加工・送信が劇的に容易になったこと」と,「著作物の利用には著作者へのリスペクトが重要であること」とがうまくつながっていないため,専門家の常識と一般従業員の常識との間に大きな乖離が生じているような気がします。
「どこまでならいいんですか」という質問に対しては,「ここからここまで」というような線を第三者が引く回答はできません。それは著作権が私権だからです。学生にも「アウトかセーフかについては,著作者ではない私には答えられない。回答は,相手(作者)と相談して決めるもの」という説明をします。おそらく企業等の従業員に対する著作権教育(研修)でもそのようなことをベースにするような発想が必要ではないかと思います。その上で,「ただし,このような場合には例外的に…」という権利制限規定を説明することによって,原則と例外の関係がより明確に意識できるのではないかと思います。
もちろん,企業等の業務内容の実態により職員の意識のもち方にも違いがあり,先ほど述べた専門家によるオンライン・セミナーのようなものが有効な職場もあるでしょう。ただ,大多数の中小事業者等の従業員に向けた研修では,「利用に関する契約」を強調した内容も重要ではないかと思います。
【「利用に関する契約」についての生活の知恵】
「著作権は私権であり,その著作物をどのように利用できるかは,権利者と利用者との間の契約によって決められる」ということは,当たり前といえば当たり前のことですが,著作権教育が必要な人にとっては,なかなか具体的なイメージができません(法で決められていると考えている人ほどその傾向は強いかもしれません。)。
ある音楽を利用したい場合,「利用しようとする者が作詞家や作曲家から許諾を得ましょう」というのは理屈上の解説にすぎません。実社会での音楽利用の場面では,そのようなことをやっていられない場合の方が多いはずです。法的な知識しかない人であれば,同時に大量の音楽を利用する場合に直面すると,そこで思考停止してしまうかもしれません。このときに権利の集中的な管理によって契約事務を効率化しようという知恵を働かすことができれば,理屈と実践がつながります。
あるいは1曲利用するごとに契約するというのは手間がかかって仕方がないという問題に直面したときには,年間のまとめ払いにできないかという知恵を働かせることができれば便利になります。
このように,そもそも著作権法では「著作物の利用に当たってはどのような契約をせよ」などとは一切規定されておらず,当事者間の契約に委ねられています。権利の集中的な管理もそうですし(管理業務を行う者の組織運営に関しては,著作権等管理事業法による規制がありますが),包括的な使用料の支払いについてもそうです。著作物の利用者にとっては,管理事業者が(一方的に)決めたものに従っているという意識が高いため,法規制のように映ってしまいがちですが,著作物の利用に関するそのようなルールは(利用者団体等の機能も活用しながら)当事者間の話し合いによって「生活の知恵」として生み出されたものがほとんどです。
著作物を利用する頻度が一定程度高い分野の事業者関係者に対する著作権教育では,「決められたものを吞まされる」という受け身ではなく,自分たちもルールを作る当事者の一人という意識をもたせるような学ばせ方もあるかもしれません。
今ちょうど,ミラノ・コルティナ冬季オリンピックが開催されています(記事公開時には閉幕しているでしょうが)。フィギュアスケートでは,2014~2015年のシーズンからボーカル入り楽曲の使用が解禁され,国際スケート連盟の規定で,音楽利用の著作権処理は選手とその関係者の責任で行うことと定められましたが,選手側の一部ではそれが徹底されておらず,問題となっているようです。選手側に著作権に関する意識が稀薄だったことは確かに問題かもしれませんが,このような場合については競技団体が個々の選手に委ねるのではなく,競技団体と著作権者の団体とが協力して,選手にとっても音楽の著作権者にとっても納得できるような簡便で合理的な仕組みを協議し,「生活の知恵」を編み出していくようなこと,そして競技団体がそれを選手に伝えて理解を深めさせることが著作権教育としても大切なのではないかと思います。
このフィギュアスケートの例は特殊のように見えますが,どのような業種・職種でも他者が創作した著作物を利用する場面は多かれ少なかれあるはずで,それを適法に,かつ合理的に権利処理するにはどうすればよいかという「生活の知恵」を考える発想は,それほど突飛なものではないと思うのですが,いかがでしょうか。
(団体間で対価を決定し,それを守るよう構成員を拘束することはカルテルに当たり,独占禁止法上問題なので,対価の額を決定するのではなく,算定方法の例を示すなどの工夫が必要かもしれません。)
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