JRRCマガジンNo.454 著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた7

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JRRCマガジン  No.454 2026/1/29
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◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」⑦
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日1月29日は「昭和基地開設記念日」

1957年(昭和32年)のこの日、日本の南極観測隊が南極・オングル島に上陸し、「昭和基地」を開設した上陸式が行われたことに由来しているそうです。

さて、今回は大和先生の著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)についてです。
大和先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/yamato/

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【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」⑦
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              千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳

【承前】
高等教育における著作権教育について,前回までに提案したアイディアが高等教育現場で採用されるかどうかは,個々の大学等でというよりは,国公私立を横断した高等教育関係者全体で検討される必要があります。
それは,高等教育機関に共通的に活用できるコンテンツを開発する立場とそれを実際に採用する立場があるからですが,それ以前に,前々回で述べた教育内容の考え方について高等教育全体の共通認識としてよいかどうかの議論が必要だからです。

【高等教育における著作権教育に関するその他の課題】
大学等の高等教育機関において「教育する側」の課題として,著作権教育の内容の問題とその指導体制の問題を解決する必要があることについて述べましたが,それ以外の課題として,「学修する側」の意識の問題が考えられます。
それは,初等中等教育から高等教育までを通じた系統的な著作権教育の内容・方法の研究開発が進んでいないことも一因ですが,やはり今日の時代性から考えると,教育機関外からの情報によって与えられる影響が大きいのではないかと考えています。インターネットを通じた情報はもちろんですが,従来型のテレビ・ラジオ,新聞・雑誌といったメディアからの情報で学ぶことにも少なくない意義があります。
この連載の第4回でも,初等中等教育の教員が著作権に関連する指導計画を立てる際,報道などで見聞きする事例(特にトラブル事例)から指導のポイントを発想するのではないかという例を紹介しましたが,学生の場合でも,教室外での学び(SNSやマスコミからの情報など)を教室での学びにつなげていくことは自然に行われています。それらのメディアで伝えられる著作権に関する情報の多くは,内容としては決して間違っているわけではありません。
しかし,教材として考えた場合には,それが潜在的な意識の中にどのように定着していくのかを考えると,筆者としては疑問符が付きます。情報モラル教育では,情報自体の怪しさを見分ける力が必要だということが言われますが,著作権を考えた場合,間違った情報ではない場合でもそれを唯一の正解(結論)とすることが適切とは限らないという考え方も重要です。
例えば,いくつかの著作物を同時に利用しようとして著作権者に利用の許諾を求めた場合,ある著作物の著作権者にはその利用を拒まれても,他の著作物の著作権者は許諾してくれるというケースはよくあります(さらに,同じ許諾をする場合であっても,無償で許諾をしてくれる著作権者もいれば,一定の使用料の支払いを条件に許諾してくれる著作権者もいます。)。
このように著作物の利用とは私権の行使の結果であって,法律によって規制されているものではありません。
SNSやマスコミを通じて学生が見聞きすることができる情報の中には,この点を意識したうえでメッセージ(“許諾を得ずに”利用することは権利侵害に当たるという趣旨)を発信しているものもあれば,紙幅等の関係からかシンプルに「○○はやってはいけません」とか「○○は著作権法により禁じられています」とかいった必ずしも正確とはいえない情報もあります。
もちろん,著作物の種類などによってその権利者の私権の行使に対する考え方が異なる場合も多いので,一律にどのような表示をすべきだといった考え方をとることはできません。例えば,音楽の著作物の場合,複製にせよ,演奏にせよ,放送にせよ,「使われてナンボ」といった性質が強いので,許諾をすることについて比較的積極的ですが,出版物や映画ソフトになる著作物などの場合,商品化されたものを購入してほしい(商品化したもののコストを回収したい)という意識が働きやすいため,当該作品を商品化(利用を許諾)した利用者以外に許諾することには比較的消極的になるのも当然です。
筆者は,いくつかの授業で著作権に触れるとき,(著作権法は民法の特別法のような性質をもっており,多くの規定は任意規定であるため,)「著作権法の規定は当事者間に何の契約もない場合のデフォルトのルールであり,契約が成立すればそれによる様々な利用ができる」ので,自分が利用したい方法がある場合には,契約のための交渉によって相手に納得してもらえるコミュニケーション能力を高めることが重要だ(付け加えて言えば,法律は社会の変化に伴って改正されるものであり,著作権法は近年特にその傾向が強いので,著作権の専門家になろうとする場合でなければ規定の細かい解釈に捉われる必要はない)という説明をします。
このような説明は,SNSやマスコミを通じて得た情報によって「著作権法は著作物の利用を規制(禁止)するルール」という思い込みをしている学生には新鮮に映るようです。
こう考えると,SNSやマスコミを通じた著作権に関する情報の提供(広義の「著作権の普及啓発」と言っていいかもしれません)の中には,もっと規制色の弱い(例えば,「こうやって許諾を得て利用しよう」「許諾を得れば利用できる」「許諾の申し込みはこちらまで」などといった能動的な)メッセージがあってもよいのではないかという気がしています(現にそのような記述の注意書きの例はありますが,なかなか目立ちません。)。
なお,規制的なニュアンスの情報発信のすべてがよくないというわけではありません。学生の中にも規範意識が必ずしも高くない者もいますので,「やってはダメ」というメッセージの方が効果的という場合もあるでしょう。
このような教育機関以外からの情報発信の主体は様々です。SNSの発信主体まで考えるときりがありませんが,マスコミや著作権関係団体にはそのような視点をもってもらえると,高等教育における著作権教育のための側面的支援になるかもしれません。JRRCなど著作権等の管理事業を行っている団体でも様々な著作権普及啓発活動を展開していますが,セミナー等による著作権制度の(法的な)解説に加え,ソフトローを含めた「契約」や「交渉」の大切さについて考えさせる機会があればよいかもしれません。特に最近の学生は「コスパ」「タイパ」を重視して結論を急ぐ傾向が強く,交渉する(落としどころを探して相手と協議する)という経験が不足しています。著作物の利用とはまさにそのような手順の積み重ねではないかと思うのですが…。

【企業・行政機関等における著作権教育】
企業・行政機関等における著作権教育については,コンプライアンスというキーワードの下で職員研修の一環として勉強会などが開かれることが多いようで,その講師として招かれたこともあります。大きな組織であれば社内に法務部門の体制や顧問弁護士によるサポート体制があるのでしょうが,中小事業者の場合にはなかなかそのような体制がとりにくいので,同業者団体や地域の商工会などが主催して著作権(知的財産)に関する研修会を開催することもあるようです。
「コンプライアンス」は「法令遵守」と訳されることが多く,コンプライアンス研修となると法律の勉強会のような印象を受ける場合もあるようです。「コンプライアンス」については,この連載の前のシリーズで坂東久美子氏が解説されています。そこでは,「コンプライアンス」は,法令にとどまらず,社会規範も含むルールの遵守と理解されること,そしてそれは単に規則を守るというだけでなく,その根底にある考え方まで理解し,それを踏まえて行動することが必要だと説明されていました。私も企業等のコンプライアンス研修で著作権の話をする際には,「法令遵守」と訳すよりも「社会的要請に適合すること」と訳した方がニュアンスとしては適切なのではないかという説明をします。
職場における最近の話題として各種のハラスメントがテーマになることが増えているそうですが,それらについても「こんなことをしてはダメ」「このセリフを言ってはダメ」といった「べからず集」的な研修になりがちという話を聞くこともあります。しかし,法令や基準に合致しさえしていればよいというのではなく,なぜそのような規定や基準があるのか,どうすればそのような要請や期待に応えることができるのかを考えなければ,いつまでたっても問題の解決には至らないのではないかと考えます。
コンプライアンスという考え方は,社会のグローバル化に対応するとともに,(国による規制の緩和との裏腹として)企業等の組織の自律性を高めるために導入されたもののようです。
こう考えると,企業等における著作権教育も(法の規制を守るという性質のものではなく)グローバル化・情報化が進む社会の中で,様々なステークホルダーの両立を目指して考えるテーマといえるのかもしれません。
教育機関の場合には,その活動の場面で権利制限規定が適用されることも多いのですが,企業等の活動の場合にはそのようなケースは必ずしも多くはありません。
次回は企業等における著作権教育の課題について,筆者の経験の中から考えてみます。

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