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JRRCマガジン No.450 2025/12/26
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◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」⑥
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
今年も残りわずかとなりました。
今号が2025年最後のJRRCマガジンとなります。一年間ご愛読ありがとうございました。
来年も皆さまに著作権を中心に様々な情報をお届けしてまいります。
皆さまにおかれましても良いお年をお迎えください。
さて、今回は大和先生の著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)についてです。
大和先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/yamato/
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【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」⑥
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千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳
【承前】
高等教育における著作権教育については,法律系の学部では近年の知的財産への関心の高まりに対応し,著作権法や著作権制度に関する教育研究の実践が進んできています。しかし,特段法律を専門としない学術分野における著作権教育をどう充実させていくのかが課題と考えられます(さらに言えば,法律系の学部であっても著作権を内容とする授業は高学年の専門的・発展的な選択科目のように位置付けられていることがほとんどなので,法律系学部に在籍しつつも知的財産をメジャーとしない学生にとって必要な内容というものもあるのかもしれません)。前回は,高等教育における著作権教育の内容面の課題について述べました。
【高等教育における著作権教育(指導体制の面から)】
次に,誰が教えるかという問題です。若手の教員の中には先の号で紹介した1998(平成10)年から1999(平成11)年にかけて告示された中学校・高等学校学習指導要領に基づく教育課程で学んだ者(1989年以降生まれ)もいますので,そのような教員は学校における著作権に関する学習経験があります(「やってはいけない」式かどうかは別として)。しかし,40歳代以上の大学教員は自身が著作権教育を受けた経験がありません。初等中等教育機関の教員に比べると大学の教員の場合,よほど本人が主体的に関心をもって臨まない限り,自身の専門外の分野の教育内容に関する研修を受ける機会はありません。専門分野の研究を深めることが大学教員の大きな使命ですから,それはやむを得ないのもしれません。
一方,多くの大学では,教員が外部の資金を得て研究を行う場合,研究不正を防止するための研究倫理研修を修了することを義務付けています。研究倫理研修の内容には,論文の盗用・剽窃といった研究不正の観点から著作権に関する事項も含まれていますので,大学の教員が著作権について全く知らないということはまずありませんが,だからと言って学生に著作権について指導できるかというと,それとこれとは別問題です。
前述のように教養部がなくなっている現在,大学において著作権教育を展開するとすれば,全学共通教育とか初年次教育とかいった仕組みの中で実施することが有効だろうとは考えられます。しかし,大学全体の一般的な著作権教育のための指導体制を自前で確保するということは,多くの大学では簡単な話ではなく,著作権の普及啓発の充実を考えると切実です。そのため実際には,弁護士などの法曹や著作権ビジネスの現場の実務家等を非常勤講師として招き,著作権に関する授業を担当してもらっているというケースも多いようです。外部の専門家が大学等の高等教育に協力的であってくれることについては教育関係者としてはありがたいことですし,理論と実務の融合という意味で教育的な意義が高まるともいえます。
ただ,高等教育段階における基礎的・共通的な著作権教育の内容は何かということが必ずしも明確でない状況で(前回,筆者としての意見を述べましたが,高等教育関係者全体での共通理解とはいえません),外部の専門家に指導を委ねて十分な効果が発揮できるのかというと,疑問符を付けざるを得ないのではないでしょうか。これは決して外部の専門家による講義を否定するわけではありません。例えば法律系の学部において専門的・発展的な選択科目として理論と実務の衝突や調和を学ぶことや,著作権に関心のある学生に対してそれを取り上げる授業の中で実務家からリアルな経験談を聞くことは,通り一遍の教科書を読む授業よりもはるかに有益だろうと考えます。ただ,学部等の学術専門分野の別を問わず(つまり学生自身が好むと好まざるとに関わらず)「高等教育段階で共通に必要な(最低限の)内容」であれば,筆者としては自ずと範囲や深さは限られると考えていますが,外部の協力者が協力的であればあるほど,専門家であればあるほど,熱意があればあるほど,高度で専門的な内容になってしまうのではないかと危惧します。
学習内容の体系に関する研究が未発達な著作権教育では,カリキュラム・ツリー(構造)の中で「キモとなる部分」を押さえつつ,その後に専門分野が深化していけば発展的な内容に拡張していけばよいということを意識しながら指導計画を立てることが重要ですが,そのような視点での指導ができる者がどの大学にもいるというわけではありません。
【教育内容や指導体制の課題を踏まえた一提案】
高等教育における著作権教育の充実のためには,これまで述べたように教育内容や指導体制に関する課題がありますが,それを解決するための一つのアイディアを提案してみたいと思います。
学術専門分野の別を問わず高等教育段階で共通に必要な著作権に関する最低限の内容を指導するとすれば,大学であれば全学共通教育とか初年次教育という枠組みが適当ではないかということは述べました。また,著作権が情報教育に親和性があるという考え方から「情報機器の活用スキルや情報モラル」を学修する授業科目の中に位置づけるということも考えられます。そのほか,探究的な学びをするためにアカデミック・スキルを身に付けるような授業科目が設けられている場合,その中で著作権を取り上げることもできるかもしれません。
ただ,それらの授業科目を担当する教員が著作権に関する基礎的な知識を指導する力量を備えていない場合が多いということも述べました。
そこで,例えば前回述べたような「作品や作者の尊重」「私権」「契約自由の原則」を中心としながら著作権の意義を考えさせる内容で,前期・後期制であれば15コマ(30単位時間)のうち数コマ(ターム制であれば8コマ(15単位時間)のうち1コマ程度かもしれません)に相当する時間のオンデマンド教材を作成し,全国の高等教育機関がインターネットを通じてアクセスできるようにしてはどうでしょう。各機関に著作権に関する指導ができる教員がいない場合であっても,そのコンテンツを活用し,「情報モラル」や「アカデミック・スキル」などの授業科目の一部分としてオンデマンドのオンライン授業を充当すれば,最低限の内容の保証や教員の負担を心配する必要がなくなります。
もちろんそのようなコンテンツの活用を義務付けるわけではなく,その程度の内容であれば自前の体制でできるという機関は独自に取り組めばよいわけですし,在学する学生の実態等を考えてもっと高度な内容を取り上げたいという機関があっても当然構いません。要は,内容の吟味や教員の確保について十分な取組が難しい機関への支援の一つとして考えられるのではないかということです。細かい点の議論を始めると15コマ(又は8コマ)の中での一貫性や当該機関のカリキュラム・ポリシーとの関係とか,評価の問題(評価の基準をどう設定するかや,オンデマンド授業の部分とそれ以外の部分との関係など)とかも気になってきますが,まずは一つの仕掛けとして検討してみる価値はあるのではないかという気がしています。
仮にそのような方法が制度的にも運用上も問題がないということになれば,前回にも述べた工業デザインに関する学部,情報工学に関する学部,芸術に関する学部,教員養成に関する学部等(法律を特段専門としない学術領域)で,それらの学部の卒業生の進路を考慮して必要とされる著作権に関する内容についても,同様の方法で各学術分野の特質に応じた指導ができるのではないでしょうか。
高等教育の分野では,社会の変化に応じて著作権に関する教育研究がかつての時代と比べて急速に進展してきており,それは法律系の学術分野では明らかです。しかし,それ以外の分野では必ずしもそうとは限りません。いろいろと制約があって難しいというばかりではなく,それが真に必要な教育内容であるのならばどうすれば実行できる可能性があるのかを考えなければならないでしょう。このことは一研究者としての課題にとどまることなく,各高等教育機関の経営者が(優先順位はあるにせよ)課題として意識する必要があるような気がします。
次回は,高等教育機関における著作権教育のその余の課題と,企業・行政機関等における著作権教育について考えてみたいと思います。
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