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JRRCマガジン No.449 2025/12/18
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】無料オンライン著作権ミニセミナーのご案内 (近年の複製権等を巡る新聞報道と組織内での適正な複製利用について)
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日12月18日は「国連加盟記念日」
1956(昭和31)年12月18日、日本の国際連合加盟案が全会一致で可決され、
国連への加盟が承認されたことにちなんで記念日に制定されたそうです。
濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/
◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その36)
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横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未
今回は、大阪地判令和7年11月20日(令和7年(ワ)第389号)〔プログラム職務著作事件〕を取り上げます。
<事件の概要>
本件は、原告(原告は、令和3年12月13日から被告の従業員として勤務)が被告(教育教材の作成、学習塾、予備校、文化教室等の運営及び講師派遣等を目的とする会社)に対し、原告及び被告の間の労働契約に基づく令和5年9月分、令和6年3月分及び同年9月分の未払賞与、原告及び被告の間の労働契約に基づく令和4年1月から令和6年11月11日までの時間外労働及び休日労働に対する未払割増賃金の支払い、別紙記載の著作物の著作権者であるとして著作権法112条に基づく同著作物の使用差止め等を求めた事案です。
<判旨(著作権関係部分のみ)>
著作権関係部分については原告の請求を棄却。
「証拠によれば、① 令和5年1月27日頃、被告における経理業務の効率化を目的とする被告社内での検討の中で、市販のアプリケーションを購入、導入する案の一方で、エクセルでの情報処理に通じている原告が、いわば内製として、VBAを用いたエクセルファイルで被告の業務に適したプログラムを作成し、これで運用する案を提案したことをきっかけに、原告が、本件プログラムの作成に着手したこと、② 原告が、業務時間中に、必要な情報や画像等を、被告代表者等とSlack上でやり取りをしながら収集し、本件プログラムを作成したこと、③ 本件プログラムを含むエクセルファイルが、同年2月6日頃、被告の従業員用パソコンで作成されたこと、④ 原告が、同年9月22日、業務時間中に本件プログラムのマニュアルを作成し、被告代表者等に内容の確認を依頼したこと・・・が認められる。
上記・・・の事実に鑑みれば、本件プログラムは、原告が所属する総務部においても使用される経理システムを導入するとの被告の判断に基づく各種検討の中で、原告が、被告における業務として、被告の従業員用パソコンを利用して作成したものであることが認められるから、本件プログラムは、その著作物性があると仮定した場合でも、被告の発意に基づきその従業員が職務上作成したプログラムの著作物であると認められ、著作権法15条2項又は本件就業規則第119条に基づき、その著作権は、被告に帰属するものと認められる。
原告は、被告社内にはVBAに関する知識を有する者がいなかったなどと主張するが、本件プログラムの具体的内容の創作がもっぱら原告によるものであったとしても、職務著作該当性を否定する事情とはいえず、その主張は採用できない。
以上のとおり、仮に、本件プログラムに著作物性が認められるとしても、被告の職務著作に該当するから、本件プログラムの著作権は被告に帰属するものと認められる。」
「原告は、被告との間で原告が本件プログラムを制作することを約する請負契約が成立したと主張する。しかし、前記・・・の検討に照らせば、原告は、被告との間の労働契約のもとで、その労務の提供の一環として、本件プログラムを制作したと認められ、その対価は賃金に含まれていると解される(「なお、著作権法においては、特許法35条の職務発明対価制度に相当する規定は存在しない。)もので、被告との間で、別途の報酬を発生させるような請負契約が成立していたとは認められない。」
<解説>
今回の事案は教育事業会社の従業員(原告)(注1)とその会社(被告)との間の労働契約に基づく賃金の支払い等をめぐる紛争であり、今回はかかる紛争の一環として主張された原告作成プログラムの職務著作該当性について取り上げます。
判決文における当事者主張の記載によると、当初は被告会社には就業規則の届出を怠っていたという事情があり、また、業績低迷の影響から原告等の全従業員に対し賞与の一部を支給できなかった(尤も、裁判所の判断としては、支払われていなかった賞与の支払い義務は否定されている)という事実が存在しています。他方、原告従業員については(裁判所の認定事実の一つとして、原告従業員による被告会社への無利子1,200万円の貸付け(5カ月後の弁済期限)が行われている中で、)被告会社における残業の運用方法(原則として上司による事前許可制)に沿った残業許可申請が行われていなかった(他の従業員は申請の運用を実践していた)こと等の事情が双方に存在しており、原告従業員と被告会社との間の信頼関係の構築に一定の困難性があったものと思われる状況です。
尤も、今回の解説において取り上げる原告従業員作成によるプログラムについては、時系列的には(個々のタイミングの詳細までは不明なるも、基本的には)被告会社による賞与の支給がなされなくなる前までの期間に作成されていたもののようであり、このプログラムの作成過程においては、原告従業員と被告会社の代表者との間では所要のプログラム作成に係る提案や指示等が行われていたことが伺われますので、原告従業員による当該プログラムの職務著作該当性否定の主張は上記一連の金銭を巡る紛争の影響を受けているものと思われるところです。
さて、職務著作の成立要件については、総論的に、①法人等の発意要件、②法人等の業務従事性要件、③職務上作成要件、④法人等の著作名義による公表要件、⑤勤務規則等による事前の別段の定め除外要件の5つで構成されている中(著作権法第15条第1項)、プログラムの著作物についてはその作成実態に鑑み④は法定されておらず(同条第2項)、これ以外の4要件の充足性が問題となるところ(注2)、今回の事案においては、会社の従業員が作成したプログラムであり、また勤務規則において職務著作の場合の権利帰属について予め定められていることから、実際の争点は上記①・③となっていて、かつ、本解説(その21)で言及した各要件の関係性や今回のプログラムの作成過程を踏まえて考えると、今回の事案に即して敢えて言うならば、特に①の法人等の発意要件の充足性がメインの争点になったものと考えられるところです。
この法人等の発意要件については、「その著作物の作成についてのイニシアティブが法人等の側にあることをいう。例えば,上司の指示で,あるキャンペーンのパンフレットを作成した場合がこれに当たることはもちろんであるが,部下が上司にキャンペーンのためのパンフレットの作成を提案し,上司がこれを了承して作成された場合も含まれると考えられている。つまり,発意は必ずしも著作物作成の企画やアイデアの提案のみを指すのではなく,著作物作成過程前提において,法人等の側とその業務に従事する者の側のどちらにイニシアティブがあったかで判断されるものである」とされており(注3)、既存の裁判例においても、本要件につき、法人等の業務遂行の実態に即して柔軟に解釈している例(注4)が見られるところです。
今回の事案においても、被告会社の通常業務である取引先に対する見積書等の作成に関して外部からの書類作成システムに関する営業があったことをきっかけとして、エクセルによる情報処理に専門的知見を有する原告従業員が内製プログラムの作成提案を行い、被告会社代表者が原告従業員に対して指示をして、原告従業員が今回のプログラムを作成するに至ったというものであり、今回のプログラムについて、法人等の発意要件を含めて職務著作該当性を今回の判決で肯定されたことについては、職務著作該当性に関する従来の裁判例の動向に沿ったものであったと言えましょう。
なお、判旨欄に記載したように、原告従業員においては、今回のプログラムの制作について被告会社との間で請負契約が成立していた旨の主張もしていますが、この点も裁判所の容れるところとはなっておりません。(労働に対してではなく)目的物に対して報酬が支払われることとなる請負契約(民法第632条)では、注文者から請負人に対する指示可能性、労働基準法の適用の有無、目的物に係る必要な機材・資材の負担義務、瑕疵担保責任の引受人などの諸点で労働契約とは種々異なっていることに鑑みると、今回のプログラムの制作が請負に該当するものであったと評価することはやはり困難であったものと解されます。今回は以上といたします。
(注1)判決文の記載からすると、原告は被告会社を既に退職しているのではないかと推察される。
(注2)加戸守行『著作権法逐条講義七訂新版』156頁
(注3)茶園成樹編『著作権法第3版』67頁[勝久晴夫]
(注4)知財高判H18・12・26判時2019号92頁〔宇宙開発事業団プログラム事件〕等
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【2】 無料オンライン著作権ミニセミナーのご案内
(近年の複製権等を巡る新聞報道と組織内での適正な複製利用について)
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毎年のように複製権や公衆送信権の侵害の裁判例及び侵害の疑いについての報道がなされており、
その度に多くの皆様から自らの組織における複製利用は問題ないかというお問合せをいただいております。
今年も5月に投資コンサルタント会社の事案が、また、11月には自治体についての事案が新聞をはじめとするメディアで大きく報道されたことから、
弊センターでは、お問合せの内容を踏まえ、組織内における著作物の複製利用についての基礎知識や複製等にあたり適切に許諾を得る方法についての情報を提供するミニセミナーを開催することと致しました。
参加は無料かつ短時間(1時間以内)での開催予定ですので、知識の再確認や異動等で新しくコンプライアンスを担当された方の参考情報入手の場としていただければと存じます。
【著作権ミニセミナー開催概要】
●日時:
①2025年12月19日(金)11:00-12:00(説明30~40分、質疑15分)
②2025年12月19日(金)15:00-16:00(同)
●内容:
・近年の著作権侵害事案に関する新聞報道
・複製権及び公衆送信権について(基礎的な内容)
・組織内における著作物の正しい利用について
※内容は多少変更となる可能性がありますので、予めご了承願います。
●お申込みURL:https://jrrc.or.jp/miniseminar/
●主催:公益社団法人日本複製権センター
●参加協力:新聞著作権協議会(加盟68社)* および 日本経済新聞社、日刊工業新聞社、奈良新聞社
*朝日新聞社,毎日新聞社,読売新聞グループ本社,産経新聞社,ジャパンタイムズ,報知新聞社,日刊スポーツ新聞東京本社,スポーツニッポン新聞社,東京スポーツ新聞社,
東京ニュース通信社,日本農業新聞,共同通信社,時事通信社,北海道新聞社,室蘭民報社,十勝毎日新聞社,苫小牧民報社,東奥日報社,陸奥新報社,デーリー東北新聞社,岩手日報社,河北新報社,秋田魁新報社,山形新聞社,福島民報社,福島民友新聞社,茨城新聞社,下野新聞社,上毛新聞社,埼玉新聞社,神奈川新聞社,千葉日報社,山梨日日新聞社,静岡新聞社,信濃毎日新聞社,長野日報社,市民タイムス,中日新聞社,岐阜新聞社,新潟日報社,北日本新聞社,北國新聞社,福井新聞社,伊勢新聞社,京都新聞社,神戸新聞社,紀伊民報,山陽新聞社,中国新聞社,新日本海新聞社,山陰中央新報社,島根日日新聞社.みなと山口合同新聞社,宇部日報社,徳島新聞社,四国新聞社,愛媛新聞社,高知新聞社,西日本新聞社,佐賀新聞社,長崎新聞社,熊本日日新聞社,大分合同新聞社,宮崎日日新聞社,南日本新聞社,沖縄タイムス社,琉球新報社,宮古毎日新聞社
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