JRRCマガジンNo.443 中国著作権法及び判例の解説14 検索エンジン最適化における著作権侵害判例の解説

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JRRCマガジン  No.443 2025/11/6
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

11月6日は「戦争と武力紛争による環境搾取防止のための国際デー」

戦争や武力紛争が終結後も長年にわたって環境被害が続くことから、
その防止を目的として、2001年11月の国連総会で制定されたそうです。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━━━━━━━━━
14 検索エンジン最適化における著作権侵害判例の解説    
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                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
一、はじめに
近年、インターネットを活用したマーケティングが広く普及し、検索エンジンや各種コンテンツ・プラットフォームは、企業にとって欠かせない競争の舞台となっており、企業は検索エンジンの自然検索における上位表示を狙ったり(SEO)、有料広告を活用して効果的に商品・サービスを宣伝したり( SEM)と、さまざまな方法で顧客の目に触れる機会を増やしています。このとき、どのような「キーワード」を設定するかは、単なるクリック数や閲覧数を超えて、潜在的な顧客の獲得やブランドの印象形成に直接つながる重要な要素です。そのため、企業間ではキーワードをめぐる競争が非常に激しくなっています。
ところが同時に、「競合キーワードの広告配信」という行為は、市場競争におけるグレーゾーンとして浮上してきました。一方で広告主は、競合他社のブランド名、商号、製品名をトリガー語として導入し、その知名度を足がかりに自社への誘導(トラフィック誘導)を図る傾向があります。他方で権利者は、かかる行為が混同や不当なフリーライドを招き、自己の正当な利益を侵害すると主張します。
 さらに、コンテンツ・マーケティングの隆盛に伴い、企業サイト、ブログ、ナレッジ・コラム等が製品理念や技術力を発信する重要な媒体となる一方で、他者のオリジナル・コンテンツを直接複製して検索評価や順位の引き上げを狙う行為も派生しています。こうした「コンテンツ面での不正競争」は、アルゴリズム駆動のトラフィック経済において一層顕在化しているものの、法的適用においては長らく曖昧さが残っていました。
本稿で紹介する事件は、「競合キーワードの広告配信による誘導」と「公式サイトのコンテンツ・マーケティングにおける剽窃」という複合型の紛争を軸とするものです。上訴人たる甲社(「米拓/MetInfo」系)と被上訴人たる乙社(「PageAdmin」系)は、ウェブサイト構築および CMS(Content Management System)分野における直接の競争関係にあり、原審被告の丙社は検索/入札型広告プラットフォームのサービス提供者です。
以下、詳細を説明しつつ解説します。

二、事件の概要
1 当事者および争点の整理
• 上訴人(原審原告):甲社(「米拓/MetInfo」系ソフトおよびサイト運営者)
• 被上訴人(原審被告):
o 乙社(競合「PageAdmin」系サイトおよび運営者)
o 丙社(検索/入札広告プラットフォームのサービス提供者。二審ではその責任は審理対象外)

• 裁判所:
第一審裁判所:広東省中山市第二人民法院(2022)粤2072民初10411号
第二審裁判所:広東省中山市中級人民法院(2023)粤20民終2116号

2 主要争点
① 乙社が自社公式サイトに掲載した各記事は、甲社の著作物に対する著作権侵害を構成するか。
② 乙社が入札広告において「米拓/MetInfo」をキーワードに設定した行為は、不正競争に該当するか。
③ 著作権侵害が成立する記事について、不正競争防止法第2条(いわゆる「一般条項」)を重ねて適用できるか。
④ 第一審の損害賠償額の当否。

3 第二審判決の主要ポイント
(1)著作権侵害の成立(5つ)
第二審は逐一対比のうえ第一審を変更し、甲社の以下5本の記事――
「どのように相互リンクを交換すべきか、どのような相互リンクがサイト順位に有利か」
「どの自助型サイト構築プラットフォームがソースコードを提供しているか」
「サイトの順位はどのように運用すれば上がるのか」
「教育・研修機関向けサイトのSEO最適化提案」
「オープンソースCMSでサイトを構築することは安全か」
――などについて、個性的な選択と表現を備えた著作権法上の「作品」に当たると認定しました。乙社の公式サイト上の対応記事は、語句の削除・置換程度にとどまり、実質的類似かつ無許諾利用であるとして、氏名表示権、複製権、情報ネットワーク伝播権の侵害を認めています。
(注:他の3本については、先行する第三者コンテンツの存在や権利者の任意放棄等により、権利侵害は認められませんでした)

(2)キーワード広告による誘導は不正競争に該当
第一審結論を維持。乙社が競合の企業標識「米拓」「MetInfo」を入札キーワードに設定した行為は、客観的に自社サイトへ利用者を導き取引機会を増加させ、出所の混同や特定の関係性の誤認を生じやすいとして、不正競争防止法第6条の混同行為に該当すると判断しました。

(3)著作権法を優先し、不正競争防止法は補充的に限定運用
既に著作権法の規制対象となる5本の記事については、重複保護と過度の規制を避ける観点から、原則として不正競争防止法第2条(総則の一般条項)を重ねて適用しないという限定的・抑制的な運用姿勢を示しました。

(4)競合標識の客観的言及=直ちに混同ではない
他の4本の内容については第一審を維持。文中で客観的に「米拓/米拓企業サイト構築システム」に言及したに過ぎず、乙社製品へリンクしたり、関連性を示唆する表現がないものは、関連公衆の混同を生じさせるには足りず、不正競争には当たらないとしました。

(5)救済および金額
第二審は差止範囲を拡大し、キーワードの広告配信の停止に加え、上記5本の著作物の公式サイト上での使用停止を明確化しました。損害賠償額は3万元から6万元(合理的権利行使費用を含む)へ引き上げ。一方、「6か月間の謝罪・声明掲載」の請求は棄却。第一審・第二審の訴訟費用も併せて調整され、判決は確定しています。

三、要点解説および示唆
(1)SEO/啓発系テキストにおける「作品性」・独創性の判断
第二審は、具体的な表現形態、個性的選択・判断、知的成果の3要素を強調し、構成、表現の選択、語彙の組合せが「通用的理念・事実」の範疇を超えるかを逐一検討しました。また、証拠法則としては、著作者性・先行公表を主張する側の立証責任、先行第三者類似テキストがある場合に反証し得ない当事者の不利益、記事の「修正可能な時間」を主張しても具体的な修正実行時が証明されない限り採用されない点が確認されました。
(2)著作権法優先・不正競争防止法は補充という調整原理
同一行為が著作権法によりカバーされ、十分な救済が可能な場合、原則として不正競争防止法第2条の一般条項で重ねて評価しないという、重複保護抑制の姿勢が明確化されました。裁判運用上の方向性として注目されます。

(3)キーワード広告行為に内在する混同リスク
競合のブランド/商号/ドメイン標識をトリガー語とする入札→自社サイトへの誘導という構図は、出所混同または特定の関係性の誤認を招き得るとして、第6条の混同行為該当性が改めて確認されました。
他方、記事本文中の「米拓」等への客観的言及は直ちに混同使用とはならず、製品・サービスへのリンクや関係性示唆の有無等、具体的状況で判断されるべきことも併せて示されています。

(4)救済と金額の考慮事情
5本の著作物につき、内容特定型の使用差止を命じ、損害額は権利者の実損・侵害者利得の直接的証拠が乏しい中でも、独創性の強弱、侵害範囲・態様、主観的過失、権利行使コスト等を総合考量して酌定。第一審の3万元(主にキーワード行為)から6万元へと増額されています。

(5)権利者・ブランド側への示唆
初出・創作痕跡(アウトライン、版管理、署名、保全・タイムスタンプ)、全文対比マトリクス、クロール・アクセスログ等の証拠連鎖を整備し、「キーワード→クリック→問い合わせ/登録→成約/離脱」の導線をできる限り定量化することが重要です。

(6)競合企業(広告配信・コンテンツ運用)側への示唆
競合の商号・登録商標・中核ドメイン標識をトリガー語に用いることのリスクを踏まえ、否定キーワード・除外設定を適切に行うべきです。比較表示を行う場合は、客観性・検証可能性を確保し、関係性示唆を避けること。また、コンテンツ面では、啓発/ソリューション系原稿について追跡可能な創作プロセスを保持し、引用は出典を明示のうえ割合を管理し、「同質的なつぎはぎ」を回避することが求められます。

(7)プラットフォーム事業者に関して
本件二審ではプラットフォーム責任は審理対象外でしたが、第一審では、通知-削除/遮断の迅速ルート、明確な苦情受付動線と処理ログ等が、連帯責任リスクの低減に資する回避策として示されています。

四、まとめ
本件判決が示す問題意識は、急速に発展するデジタル経済のなかで、どの企業にも共通する課題といえます。すなわち、法のルールと市場競争との境界をどのように引くべきか、という根本的な問いです。検索アルゴリズムが情報の流れを左右し、コンテンツの質が企業競争力を左右する時代において、適正なルールづくりと遵守のバランスはますます重要になっています。
本件では、 SEO対策のようなテキストであっても、具体的な表現の選択や構成に独自性が認められる限り、著作権法上の「作品」として保護されることが確認されました。また、同一行為について著作権法と不正競争防止法(一般条項)のいずれを適用すべきかという整理についても、著作権法を優先し、不正競争防止法は補充的に用いるという裁判所の運用方針が明確に示されています。さらに、キーワード広告による競合他社名の利用が、出所の混同や関係性の誤認を生じさせる場合には、不正競争行為に当たり得るとされた点も、今後の企業マーケティング実務にとって大きな示唆を与えるものです。
デジタル市場における競争は、スピードと創意工夫が求められる一方で、他者の知的財産や信頼を損なわない誠実な姿勢がより一層問われる時代になっています。本件は、コンテンツ制作・広告運用・ブランド保護の各面において、企業が意識すべき基本線を示した重要な事例といえるでしょう。著作権と不正競争防止の双方の視点から、企業のオンライン活動を適正に導くうえで、多くの示唆を与える判決です。

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