JRRCマガジンNo.438 中国著作権法及び判例の解説13 ソフトウェアに関する典型的著作権侵害判例の解説

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JRRCマガジン  No.438 2025/10/2
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
【2】【10/23開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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皆さま、こんにちは。
朝晩の涼しさに秋の訪れを感じる今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。
10月2日は「国際非暴力デー」

インド独立運動の指導者マハトマ・ガンジーの誕生日であり、国連によって非暴力を広める日とされているそうです。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━━━━━━━━━
13 ソフトウェアに関する典型的著作権侵害判例の解説    
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                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
一、はじめに
モバイルミニゲームおよびアグリゲーションプラットフォームの急速な発展に伴い、委託開発、共同運営、バージョンアップおよびプラットフォーム配信が入り混じり、ソフトウェア著作権侵害や不正競争紛争では、証拠が分散し、技術的証拠採取が困難であり、ソースコードの取得が容易でない等の特徴を呈しています。
今回原稿では、紛争件数が多いゲームソフトウェア関連事件を紹介し、「委託開発+継続的アップグレード」モデルの下における著作権の帰属、実質的類似の立証経路、相手方がソースコードを提出しない場合の証拠妨害推定、および類似名称が混同を引き起こす不正競争責任をめぐって、示範的意義を有する事例を紹介します。
以下、詳細を説明しながら解説します。

二、事件の概要
1.当事者およびその訴求
上訴人(原審原告):広州某夢網絡科技有限公司(以下「某夢」ともいう)
被上訴人(原審被告):四川省超角虫科技有限公司(以下「超角虫」ともいう)

二審までの経緯:
某夢は、超角虫とゲーム委託開発契約を締結し、「我狙打得贼准」というゲームの開発および運営を始めました。その後、某夢は、同じプラットフォームにて運営されている「我狙打得贼六」という類似するゲームを見つけ、著作権侵害および不正競争防止法違反として、超角虫を裁判所に訴えました。原審において某夢は、超角虫に対し「我狙打得贼准」というゲームに係る複製、修正、頒布、改編および情報ネットワーク伝播等の侵害行為の停止、混同的不正競争行為の停止、さらに経済的損失および権利行使の合理的支出等の賠償を請求しました。一審判決が請求を棄却した後、某夢は上訴し、一審を取り消し、自らの全請求を支持する判決を求めました。

審理裁判所:
一審:広州知識産権法院
二審:最高裁判所知識産権庁

2.本事件の焦点
•某夢が争点となる「我狙打得贼准」というゲームの後続バージョン(1.1.3.12)について著作権を有し、それに基づき権利を主張できるか。
•超角虫が、某夢の当該ゲームソフトに対する著作権を侵害したか、相手方がソースコードを提出しない状況において、「接触+実質的類似」をいかに認定するか。
•超角虫の関連行為が不正競争における混同行為を構成するか。
•責任の負担方式と賠償額(懲罰的賠償の適用を含む)。

3.二審裁判所の判決要点
(1)二審裁判所は、一審を取り消し、上訴人の訴求を支持するよう変更し、以下を命じた。
•「我狙打得贼准」と同一または類似名称を使用する不正競争行為を直ちに停止せよ。
•「我狙打得贼准」の複製権、修正権および情報ネットワーク伝播権を侵害する行為を直ちに停止せよ。
•経済的損失300万元および権利行使合理的支出6万元を賠償せよ。
•その他の請求は棄却する。

(2)アップグレードバージョンの権属と著作権の権利基礎について
委託開発および継続的アップグレードサービスを約定した一年の有効期間内に完成した1.1.3.12版の著作権は某夢に帰属し、某夢はこれに基づき権利を主張できる。

(3)「接触+実質的類似」の判断と証拠妨害推定について
•超角虫は共同開発および継続的アップグレード期間において当該ゲームに十分に「接触」していた。
•プラットフォーム運営者からの回答や「Megatouch Games」標識等の証拠により、高度の蓋然性を有する証拠チェーンが形成され、被訴ゲームである「我狙打得贼六」と超角虫との関連性が証明された。
•裁判所が繰り返し説明したにもかかわらず、超角虫が「我狙打得贼六」のソースコードを提出しなかったことは証拠妨害行為を構成する。裁判所はこれに基づき「実質的類似」について不利推定を行い、侵害成立を認定した。

(4)不正競争(混同)行為の成立
「我狙打得贼准」ゲームは同一プラットフォーム上において一定の市場知名度を有していた。被訴ゲームの名称(「我狙打得贼六」)と当該名称は一字しか違わず(「我狙打得贼准」対「我狙打得贼六」)、関連公衆がそれを同一または特定の関係があると誤認するに足り、混同行為を構成する。

(5)責任と数額
侵害利益の推定および事情を総合して経済的損失300万元および合理的支出6万元を認定した。声明掲載等の非財産的救済については、必要性が証明されなかったため支持されなかった。
-最高人民法院(2023)最高法知民終3042号民事判決書より

三、要点解説および示唆
1.「委託開発+継続的アップグレード」におけるの権利帰属の確認
本件委託開発契約において、「作業成果(ソースコードを含む)の知的財産権は委託者に帰属する」と明記されており、さらに開発者がリリース後に継続的にアップグレードし、定期的に更新バージョンを提供することが約定されていました。したがって、この期限内に完成した更新バージョンは、権利者に帰属すると認定され、本件著作権の権利行使の基礎とされました。
即ち、ゲーム/ソフトウェアプロジェクトにおいては、契約において著作権の帰属、アップグレード・メンテナンス義務および納品物目録(ソースコード、ツールチェーン、バージョン番号、提出周期を含む)を明確に定めると、紛争解決に有利となります。

2.ソースコード証拠採取困難な状況下の立証経路
司法実務において、権利者が取得できる証拠はインストールパッケージ、証拠採取の公証および逆コンパイルとの対比意見にとどまることが多くみられます。この場合、権利者が提出した証拠に基づき侵害の蓋然性が高いと推定されるにも関わらず、被訴側がソースコードを掌握しつつ提出を拒むとき、裁判所は証拠規則に基づき類似性について不利推定を行い、「コードの壁」を打破することが可能です。

3.プラットフォーム手掛かりの証拠価値と「高度の蓋然性証拠チェーン」
プラットフォーム運営者からの回答、開発者名号の一致、アカウント資格のスクリーンショット等は、アップロード主体の「高度の蓋然性」証拠チェーンを形成し、サーバ移転等によって関連性の直接証拠が欠落した場合を補うことが可能となります。

4.ゲーム名称の類似と混同判断
同一プラットフォーム、同類製品、知名度が確立している前提の下で、名称が一字だけ異なる場合、一般消費者に出所混同または特定関係の誤認を生じさせるに足り、不正競争防止法における混同行為を構成するリスクが高く、ブランド戦略上では、「寄り添い」や「人気に便乗」的な命名を避けるべきであり、プラットフォーム側からすると類似名称の対比およびリスク遮断メカニズムを確立すべきと考えられます。

5.損害計算と懲罰的損賠賠償の考慮
本件は、運営周期、業界特性および分成比率等の客観要素により侵害利益を134万元と推定し、超角虫の具体的な事情を総合して2倍の懲罰性賠償額を確定し、合計402万元の賠償額を確定しましたが、原告が300万元の賠償額を主張したため、裁判所は300万元までを支持しました。
インターネットゲームのような「リリース即ピーク」の業態では、早期の流量分散の結果が顕著であり、侵害側が悪意をもって証拠提出を拒否する場合、より重い考慮が及びやすいと考えられます。

四、まとめ
本件は、「証拠の非対称」が存在するソフトウェア侵害の場面において、①契約条項による権利帰属、②プラットフォーム証拠に基づくアップロード主体の認定、③被告がソースコードを提出しないことによる類似性の不利推定、④名称類似による混同の不正競争成立基準を明確にしております。権利者にとっては、契約内容の慎重、証拠の採取が鍵であり、開発・配信およびプラットフォームにとっては、適法な開発、名称審査、積極的な証拠提出協力がリスク回避の基本となると考えられます。

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【2】【10/23開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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今年度初となるJRRC著作権講座中級を開催いたします。

本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、 著作権に興味のある方向けです。
講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。
エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。

★日 時:2025年10月23日(木) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 第1部 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物)
           特集①
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:15 JRRCの管理事業について
13:15 ~ 14:15 第2部 著作権制度の概要2(著作者、権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:25 第3部 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
15:25 ~ 15:35 休憩
15:35 ~ 16:20 第4部 特集②
16:20 ~ 16:50 質疑応答
16:50 終了予定

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/250925-2/  ★

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