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JRRCマガジン No.434 2025/9/4
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
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皆さま、こんにちは。
厳しい暑さが続いておりますが、お変わりなくお過ごしでしょうか。
9月4日は「関西国際空港開港記念日」
1994年の今日、大阪・泉州沖に「関西国際空港」が開港し制定されたそうです。
さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/
◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━━━━━━━━━
12 ショートドラマに関する典型的著作権侵害判例の解説
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中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
一、はじめに
ショートドラマは、低コスト制作、テンポの速い台詞による、高密度の情報量といったメリットにより、各業界をつなぐ新たな媒体として急速に台頭しています。『中国ネット視聴発展研究報告(2025)』のデータによれば、2024年の中国におけるショートドラマ市場規模は既に 504.4億元を突破し、ユーザー規模は6.62億人、ユーザー浸透率はネット利用者全体の 52.4%に達しています。他方で、ショートドラマ産業の活況に伴い、無断転載、模倣、剽窃、切出し転載、海賊版リメイク等、各種の著作権紛争が相次いでいます。加えて、近年のAI応用技術の急速な発展により、ショートドラマの同質的な剽窃やAI顔入替等の現象が一層深刻化し、紛争は日増しに増えています。
今回本稿では、現在最も一般的で紛争件数も最多である「ショートドラマの無断転載」に関する紛争事例を紹介します。
本件事例は、ネット上のショートドラマに係る「情報ネットワーク伝播権」および「改変権」をめぐって生じた著作権紛争です。裁判所は審理において、ショートドラマの著作権上の属性、届出の有無と権利帰属との関係を明確化し、被告が情報ネットワーク伝播権および改変権(人格権の同一性保持権)を侵害したと認定し、強い示範性を有するとして、 2024年最高人民法院が公表した典型事例にも選定されています。
以下、詳細を説明しながら解説します。
二、事件の概要
1.原告・被告およびそれぞれの主張
原告:北京某有限公司(原告1)、某有限公司(原告2)
被告:武漢某有限公司甲(被告1);武漢某有限公司乙(被告2)
原告の請求:
両原告は、問題となったショートドラマ「恰似寒冰遇驕陽」(別名:「重生*****」)について相応の権利を有し、そのうち原告2が著作権者であり、原告1に対し情報ネットワーク伝播権および権利行使(権利保護)権限を付与していると主張したうえ、被告1に対し、微信( WeChat)ミニプログラム「北風小劇場」等を通じた当該ショートドラマの公衆への提供の停止(差止)、宣伝動画の削除、『中国知識産権報』への声明掲載による影響の除去、さらに両被告に対し経済的損失および合理的費用の合計50万元の賠償等を求めました(その後「差止」項目は取下げ)。
被告の抗弁:
原告の著作権帰属は不明確であること、ミニプログラムは試運用段階であること、第三者がアップロードしたこと、悪意はなく利益も得ていないこと、被告1と被告2は財務的に独立しているため連帯責任を負うべきでないこと等を主張しました。
審理裁判所: 湖北省武漢市洪山区人民法院(簡易手続、控訴審 無)
2.事件の焦点
① 原告は当該ショートドラマについて著作権の権利帰属および訴権を備えるか。
② 両被告は著作権侵害行為に当たるか。
③ 侵害が成立する場合、両被告はいかなる責任を負うべきか。
3.裁判所の判決要点
(1)権利帰属・訴権
本件ショートドラマは小説を原作とする改編物で、各話2~3分、完結連続のストーリーと独創性を備え、『著作権法』第三条の「視聴覚作品」に当たる。委託制作契約・授権書・ 作品登記証書等の証拠により、原告2が著作権者であり、原告1に情報ネットワーク伝播権および権利保護権限を付与した事実が認められる。よって両原告は訴権を有する。
(2)届出の有無と権利帰属
著作権は創作完了時に当然に発生し、特定の届出名簿への掲載の有無は権利帰属に影響しない。そして2024年6月1日以降の新規定上、本件は「その他のショートドラマ」として適切な届出手続きを行っており、配信禁止の視聴覚作品には該当しない。
(3)侵害の成立
被告1はドウイン(中国版TikTok )で異なるドラマテーマにより視聴誘導リンクを公開し、自社の微信ミニプログラムで、原告が授権した有料プラットフォームと「話数・主線・ ストーリー・キャラクター・出演者 ・時間の長さ」が実質的に同一のコンテンツを提供した。これは原告の情報ネットワーク伝播権および改変権の侵害に当たる。
(4)責任の範囲と金額
損害賠償については、実損・利得の確定が困難であることから、作品の知名度、作品類型(その他のショートドラマ)、侵害期間の短さ、試運用段階での利得の限定、自主的停止、証拠採取費用・弁護士費用等を総合考慮し、被告甲に対し合計46,000元の賠償を命じる。
影響除去については『中国知識産権報』への声明掲載は認めず、被告1に対しドウインおよび当該ミニプログラムのページ上で7日以上の公開声明(原告2のための影響除去)を命じる。
(5)株主一人会社の株主の責任:被告2は被告1の唯一の株主であり、その財産が被告1と独立していることを立証できなかったため、被告1甲会社の債務につき連帯責任を負う。
(2024)鄂0111知民初164号から抜粋
三、裁判判断の要点解説
1.ショートドラマの著作権属性の確認ルート
裁判所は、「改編の出所+映像の分量・構造+独創的呈示」という観点から、当該ショートドラマを『中国著作権法』第3条の意義における視聴覚作品と認定しました。その上で、第17条第 2項および司法解釈第7条に基づき、委託制作契約、授権書、登記証書を総合して、権利の証拠チェーンが完備し訴権の基礎が堅固であると判断しています。実務家にとっては、委託—制作 —授権—登記という証拠のクローズド・ ループが権利保護において極めて重要な証明力を持つことが示唆されます。
『中国著作権法』関連規定:
第十七条 視聴覚作品中の映画作品、テレビドラマ作品の著作権は制作者が享有する。ただし、脚本、監督、撮影、作詞、作曲等の作者は氏名表示権を享有し、制作者と締結した契約に従い報酬を受ける権利を有する。
前項規定以外の視聴覚作品の著作権の帰属は当事者の合意による。合意がないか又は合意が明確でない場合は、制作者が享有する。ただし、作者は氏名表示権および報酬を受ける権利を有する。
視聴覚作品中の脚本、音楽等、単独で利用可能な作品の作者は、その著作権を単独で行使する権利を有する。
『著作権民事紛争事件の審理に適用する法律の若干問題に関する最高人民法院司法解釈』第七条:当事者が提出する著作権に関わる草稿、原本、合法的出版物、著作権登記証書、認証機関の証明、権利取得に関する契約等は、証拠として用いることができる。
2.届出要件と権利帰属・伝播適法性の区別
被告が「特定期の重点ショートドラマ届出公示に未掲載」であることを理由に権利帰属を否認した点について、裁判所は、著作権は創作完了時に当然に発生し、届出の有無は民事上の権利帰属に影響しないと強調しました。同時に、新規定施行後の「その他のショートドラマ」としての届出事実を踏まえ、「配信禁止」とする抗弁の基礎を否定しました。この思考枠組みは、行政的コンプライアンスと民事上の権利帰属という二つの次元を明確に切り分け、行政管理要件を著作権否定の理由へ過度に外延化することを回避しています。
3.「誘導+完全有料視聴提供」行為の位置づけ
証拠によれば、被告甲はドウイン上で「今すぐ視聴」リンクを用いて誘導を行い、自営の微信ミニプログラムにおいて、有料会員向けに第1—99集の完全な内容を提供しており、原告が授権したプラットフォームの内容と実質的に同一です。裁判所は『中国著作権法』第 10条および『ネット伝播権司法解釈』第 3条に基づき、当該提供行為が情報ネットワーク伝播権の侵害に当たると直接認定しました。さらに、テーマ改変や内容処理が作品の改変に当たることから、改変権の侵害も成立するとしました。本判断は、プラットフォーム間の誘導を行い、自社ミニプログラムで実質的に保護対象コンテンツを提供する場面に対し、明確な侵害評価ルールを示すものです。
4.損害額の酌量と証拠基準
原告は「いいね数×年会員価格」により被告の利得を推計しましたが、裁判所は、最高会員価格を前提とするのは不合理であり、また、いいね数は人為的設定や「アップロード直後から付随」する状況があり得るため、これをもって利益や損害を認定することは困難と判断しました。精確な算定に足る証拠が不足する状況下で、裁判所は複数要素を総合して 46,000元を酌量し、侵害期間の短さ、試運用段階、自主的なオフライン化等を考慮に入れました。これは、インターネット侵害における証拠の真実性と証明力審査の精緻化・ 慎重化を体現するものです。権利者への示唆としては、ページの証拠採取にとどまらず、バックエンドデータ、有料化転換、決済証拠等、より証明力の高い資料の収集に努め、高額の損害主張を裏付けるべきことが挙げられます。
5.影響除去の範囲の適合性と人格権救済の限定
裁判所は、業界媒体における長期の声明掲載は支持せず、侵害が発生したプラットフォームおよびページ上で、7日以上の公開声明を行うよう命じ、これを改変権(人格権の同一性保持権)侵害に対応する救済と位置付けました。
四、まとめ
本件判決は、急拡大するショートドラマ市場におけるプラットフォーム横断型提供の違法性判断を具体化し、行政上届出制度の民事的限界、ネット指標の証明力限界を示しました。今後のこのような紛争では、技術的手段&経済データに基づく定量的主張・反証が核心となり、救済設計は過不足ない相当性が求められると思われます。
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