JRRCマガジンNo.432 最新著作権裁判例解説32

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JRRCマガジン No.432   2025/8/21
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日8月21日は「噴水の日」

1877年のこの日、東京・上野公園で第1回内国勧業博覧会が開催され、会場中央の人工池に日本初の西洋式の噴水が作られたそうです。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その32)
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                              横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 今回は前回に引き続き、趣向を変えた解説記事をお届けいたします。今回取り上げるのは「引用判決」です。
 まずは上野達弘先生のご知見をご紹介します。著作権関係者に対するご講演(注1)において、「判決の公開問題」「判決別紙の省略問題」「判決・訴訟記録の保存問題」と並んで指摘されているのが「引用判決」問題です。
 実際に種々の判決をご覧になっている読者におかれてはご案内のことにはなりますが、上野先生のご説明によると「一般に、民事訴訟の控訴審判決におきましては、「次のとおり改めるほかは、原判決の・・・・・・に記載するとおりであるから、
これを引用する」とした上で、「原判決〇頁〇行目の『・・・・・・』を『・・・・・・』に改め、同頁〇行目の『・・・・・・』の次に『・・・・・・』を加え、同頁〇行目冒頭から〇行目末尾までを次のとおり改める」というように、加除訂正を加えつつ原判決を引用する「引用判決」が広く見られます。・・・もちろん、引用判決自体は民事訴訟規則184条[第一審の判決書等の引用]に基づく適式のものです。」(注2)というものであるのですが、
それに続いて指摘されているように「しかし、われわれが裁判例を紹介する際、例えば、「〇〇高裁は、『・・・・・・』を判示した」といった形で判決文を示すことになりますが、それが引用判決のままではまったく意味が通じない場合が多いです。そこで、引用判決の指示に従って第一審判決に加除修正を施した完全な控訴審判決を作ろうとするのですが、これがしばしば非常に大きな苦労を伴」(注3)うという課題が生じるところです。
 上野先生の指摘する具体的な課題は複数存在していて、①加除訂正箇所の推測、②大量の加除訂正、③複雑な加除修正があり、要は控訴審判決の完全な復元を確信をもってやれるとは言えない場合があるというものになっています(注4)。分かりやすい例を一つ挙げると、第一審判決の判決書原本を裁判所ウェブサイトに掲載される第一審判決のPDFファイルに変換する際に行ズレが起こることが屡々あるので、こういった場合は注意深く見ていく必要があることになるのであり、
筆者が実際に本解説で高裁判決を取り上げる際もやはり第一審判決PDFファイルをよくよく見て復元するようにしているところです。
 さて、実際に高裁判決においてどのくらいこの「引用判決」が行われているのかという点を知的財産法に係る訴訟(審決取消訴訟を除く)について見てみますと、本年度のうち6月までに出された判決等で裁判所ウェブサイト上にアップされているものは24件ですが、単純にいえばこの全てで第一審判決の引用がなされています。
というのは、前提事実等については少なくとも部分的に第一審判決を引用しているからです。裁判所の判断部分については、確定的に申し上げるのが難しいのですが、筆者が見る限りで実質的に引用判決でないと評価し得るものは5件に止まっていて(注5)全体的には2割程度ですので、寧ろ控訴審判決は引用判決がスタンダードであると言えましょう。
 尤も、引用判決が視認的に一覧性に欠けるものであることは明らかであり、法律改正と同様の形式を採っている訳ですが、法律改正の場合は法案作成の段階で新旧対照表が用意されますし、改正法が成立すると最終的には改正前の法律に溶け込む形で施行されることを考えれば、控訴審判決についても引用判決を巡る現状についてはそれなりの検討・工夫が求められると思います。
 なお、読者の中には実際の改正法案をご覧になったことのない方もおられると思いますが、改正法案は業界用語的に「改め文」(カイメブンと呼称されます)や「改める文」と呼ばれるものであり、それこそ「〇〇法(法律番号)の一部を次のように改正する。(改行)第×条中「△△」を「□□」に改める。・・・」という文言で表されています。
国会で審議される法案は当にこれであり、新旧対照表等ではありません。近時の省令等の改正については新旧対照表形式で行われるようになっていますが、法律改正は「改め文」方式が維持されています。実際に官報を見ると(注6)、新旧対照表等は書かれておらず、この「改め文」が掲載されていますので、一度ご覧いただくと改正法のイメージを持ちやすくなるのではないかと存じます。今回は以上といたします。

(注1)上野達弘講演録「研究者から見た裁判実務~知財司法がリードする未来~」『月刊コピライトNo.758 Vol.64』2頁以下。
(注2)(注3)前掲注1・24頁。
(注4)前掲注1・24頁-34頁。
(注5)特許権侵害訴訟の場合は、特許権の及ぶ特許発明の技術的範囲が特許請求の範囲(クレーム)の記載に基づいて定められることとなっている(特許法第70条第1項)ことも関係してか、高裁判決の判断部分において、(「引用判決」の形式ではなく、)クレーム解釈に係る説示が独自に書き下し・展開されるケースが相対的に多く見られる。
(注6)インターネット上でも一定の範囲内では無料で検索・閲覧をすることが可能。

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