JRRCマガジンNo.430 中国著作権法及び判例の解説11 電子商取引プラットフォームにおける典型的著作権侵害判例の解説

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジン  No.430 2025/8/7
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※マガジンは読者登録の方と契約者、 関係者の方にお送りしています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
【2】【8/20 開催】全国オンライン著作権セミナー開催のご案内
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皆さま、こんにちは。
厳しい暑さが続いておりますが、お変わりなくお過ごしでしょうか。
弊センターでは、下記の期間をテレワーク推奨期間とさせていただいております。
【お盆期間】2025年8月12日(火) ~ 8月15日(金)
上記期間中は、原則としてお電話での対応を休止させていただきます。
お問い合わせにつきましては、メールまたは複製利用許諾システム「諾」にて承っておりますが、
ご回答までに通常よりお時間を頂戴する場合がございます。
ご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━━━━━━━━━
11 電子商取引プラットフォームにおける典型的著作権侵害判例の解説    
━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━ ━━━ ━━━━━━━━━━━◆◇◆  

                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
一、はじめに
電子商取引プラットフォームの普及に伴い、商業用写真作品は商品展示やブランド構築においてますます重要な役割を果たすようになっています。それに伴い、他人の写真作品を無断で使用する問題も顕著になり、著作権侵害紛争の主要な類型の一つとなっています。特に、インテリア、美容、アパレル等の視覚的マーケティングの依存度が高い業界においては、写真作品の創作性及び権利帰属の認定が判断の鍵となります。
本稿で分析する事案は、電子商取引プラットフォームにおける写真作品の情報ネットワーク伝達権をめぐる典型的な著作権侵害事件であり、少額訴訟手続が適用され、著作権の主体、授権関係、相当な損害賠償等の要素に関して裁判所が判断を示しており、代表性と参考価値を有するものです。
以下、詳細を説明しながら解説します。

二、事件の概要
原告:杭州某某家居有限公司(以下「原告」)。天猫店舗「翻旧事旗舰店」の写真作品に関する排他的使用権を有し、自らの名義にて著作権行使を行う権限を取得済み。
被告:五華県華城鎮某某百貨商行(実際の経営者:王某軍 以下「被告」)。阿里巴巴プラットフォームにおいて商品を販売。

原告の請求:
・被告による著作権侵害行為の差止(侵害商品リンクの削除等)
・経済的損失及び合理的な権利行使費用として30,000元の支払い
・訴訟費用の被告負担
※被告は、正当な手続により訴状および開廷通知書が送達されたにもかかわらず、応訴せず、答弁書の提出もなかったため、欠席審理となった。

審理裁判所:
広東省梅州市梅県区人民法院(少額訴訟手続、第一審終局)

事実関係:
原告は、天猫店舗「翻旧事旗舰店」の写真作品(画像・動画・音声等を含む)の著作権行使について、潮居商貿有限公司(以下「潮居公司」)から排他的に授権を受けた。
当該店舗はインテリア装飾品を専門に扱い、49.8万人のフォロワーを有し、高い知名度と評価を得ている。潮居公司は、当該店舗の登録経営主体であり、販売商品用のプロモーション画像の撮影を第三者に委託しており、これら画像についての著作権を保有している。
2023年1月1日、潮居公司は店舗に関連する作品の著作権保護のため、原告に対し店舗に関するすべてのプロモーション画像の排他的使用権を授与し、原告が自己の名義で法的措置を講じることを許可した。
また、2021年10月15日、貴州省版権局は原告が申請した《安静享受美好时光小金人系列摆件》という美術作品を登録し(登録番号:黔作登字-2021-F-0033XXXX)、著作権者は原告であるとした。
2021年6月7日、潮居公司は沈某銘と労働契約を締結し、写真家として雇用した。契約期間は2021年6月7日から2024年6月6日までとされ、労働成果に関する全知的財産権は潮居公司に帰属する旨が明記された。
沈某銘は2023年4月10日付で《職務著作権権属声明》を提出し、在職中に制作した画像・動画・音声等の作品は潮居公司に帰属する旨を明らかにした。また同年10月26日付の《独創性説明書》では、小金人シリーズの写真は自身の独創的構想と技術処理によって制作したことを説明している。
2023年1月1日、潮居公司は《店舗権属説明書》を発出し、原告に対し、店舗に関するすべての写真作品、美術作品等の排他的使用を許可し、また自己名義での権利行使(訴訟・和解等)を委任した。
2023年5月19日、某信頼タイムスタンプサービスセンターが発行した《信頼タイムスタンプ認証書》及び関連動画によって、被告が運営する阿里巴巴店舗で本件作品が使用されていることが証明された。被告の使用した画像は、原告が主張する著作物と同一または極めて類似していた。

主な争点:
・原告が本件写真作品について著作権を有し、または著作権者として訴訟を提起する適格があるか。
・被告が本件作品を使用したか、またその行為が情報ネットワーク伝達権の侵害を構成するか。
・損害賠償額および合理的権利行使費用をいかに算定すべきか。

三、判決内容
1. 本件写真作品は美術作品として創作性を有し、著作権法に基づき保護される。
2. 作品の原稿、労働契約、《職務著作権権属声明》、《独創性説明書》、《店舗権属説明書》等の証拠に基づき、反証がない限り、潮居公司が本件作品の著作権者と認定され、原告は同社の授権により自己名義で訴訟を提起する資格を有する。
3. 被告は、阿里巴巴店舗において本件写真作品を無断で8点使用しており、その行為は情報ネットワーク伝達権の侵害を構成する。
4. 原告は損害額や被告の利得額を具体的に立証できなかったが、著作権法第54条第2項に基づき、損害賠償額を7,000元(合理的権利行使費用を含む)と裁量で定めた。
5. 原告のその余の請求は棄却された。
-(2024)粤1403民初447号から抜粋

四、裁判判断の要点解説
(一)著作権帰属および訴訟主体の認定
作品の著作権登録においては原告が著作権者とされていますが、裁判所は、登録証明、労働契約、《職務著作権権属声明》、《店舗権属説明書》等の証拠により、写真作品の原始的著作権者は潮居公司であると認定し、原告は排他的使用権および訴訟権限を有する者として、訴訟適格を有すると判断しました。
(二)創作性と情報ネットワーク伝達権侵害の認定
被告は出廷せず、答弁や証拠も提出しなかったため、裁判所は原告提出の証拠に基づき、当該写真は精緻な構図と具体的な内容を備える表現形式として著作権法上の「美術作品」に該当すると判断し、被告の電子商取引プラットフォームでの公衆送信行為が情報ネットワーク伝達権の侵害に当たると認定しました。
(三)合理的権利行使費用は認容されたが、懲罰的賠償は否定
原告が具体的損害を立証できなかったことを踏まえ、裁判所は、作品の知名度、使用形態、証拠固定のコスト等を考慮し、7,000元の損害賠償(合理的権利行使費用を含む)を認容しました。弁護士費用やタイムスタンプ費用は合理的支出と評価されましたが、懲罰的賠償の主張は認められませんでした。
(四)被告の欠席による不利益
被告は訴訟に出廷せず、反論機会を失った結果、原告の主張はほぼ全面的に採用され、裁判所は欠席判決を下しました。
(五)本件は少額訴訟手続を適用
本件は2024年2月2日に立案され、同年3月21日に判決が言い渡され、50日未満で審理が完了しています。ここで、少額訴訟手続とは、事実関係が明確で権利義務に争いのない、簡易な民事事件に適用される制度であり、原則として立案日から60日以内に審理を終結し、一審終局とされます。知的財産権関連では、画像や音楽作品等の簡易著作権侵害案件に対して適用可能とされています。また、外国関連紛争では、原則本少額訴訟手続が適用されません。

五、まとめ
本件判決は、電子商取引におけるプロモーション画像の著作権保護の境界を明示するとともに、著作権者の認定、排他的使用の授権、訴訟主体の判断に関する裁判論理を明確に示しました。近年増加する写真作品のネットワーク上の無断使用に関する訴訟において、適切な権利帰属管理と訴訟準備の重要性を再確認させる事案ともなります。また、裁判所が合理的権利行使費用を明確に認めつつ、過大な請求を排除した点は、今後の実務運用における損害賠償請求の戦略にとって示唆に富むものであると思われます。

◆◇◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2】【8/20 開催】全国オンライン著作権セミナー開催のご案内
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
このたび、全国の官公庁・民間企業の皆様を対象に、著作権に関する実務セミナーを開催いたします。
情報発信の多様化やデジタル化が進む現代において、著作権の適切な理解と対応は、業務運営上ますます重要性を増しています。
今回は、著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。
また、一般的な著作権(初級レベル)についての解説や著作物の正しい利用方法についてより詳しくご説明いたします。
※7/31開催の全国オンライン著作権セミナーと一部内容が重複しております。

〇開催要項
日 時 :8月20日(水) 14:00~15:30
会 場 :オンライン (Zoom/YouTube)
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター
参加協力:新聞著作権協議会(加盟68社)および日本経済新聞社、奈良新聞社

〇プログラム(予定)
トピックス1 著作権の集中管理と適正利用について
トピックス2 新聞の紙面ができるまで
トピックス3 新聞記事を巡る著作権侵害の事例
トピックス4 著作物の複製等に関する利用許諾の取得について

参加お申込みページ:https://jrrc.or.jp/event/250703-2/

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      インフォメーション
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジンはどなたでも読者登録できます。 お知り合いの方などに是非ご紹介下さい。

□読者登録、 配信停止等の各種お手続きはご自身で対応いただけます。
ご感想などは下記よりご連絡ください。
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

■各種お手続きについて
JRRCとの利用契約をご希望の方は、 HP よりお申込みください 。
(見積書の作成も可能です )
⇒https://jrrc.or.jp/

ご契約窓口担当者の変更 
⇒https://duck.jrrc.or.jp/

バックナンバー
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      お問い合わせ窓口
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          
公益社団法人日本複製権センター (JRRC)
⇒https://jrrc.or.jp/contact/

※このメルマガはプロポーショナルフォント等で表示すると改行の 位置が不揃いになりますのでご了承ください。
※このメルマガにお心当たりがない場合は、お手数ですが、 上記各種お手続きのご意見・ご要望よりご連絡ください。

アーカイブ

PAGE TOP