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JRRCマガジン No.428 2025/7/24
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
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◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」①
【2】【8/6開催】 JRRC 著作権講座初級オンライン開催について
【3】【7/31・8/20 開催】全国オンライン著作権セミナー開催のご案内
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日7月24日は「劇画の日」
1964(昭和39)年のこの日、青林堂が劇画雑誌『ガロ』を創刊し、
白土三平の『カムイ伝』を始め、水木しげる、つげ義春等が登場し、大人向けの劇画ブームの拠点になったそうです。
さて、今回から執筆をお願いしております。大和先生についてご紹介します。大和先生は、もともとは文部科学省・文化庁において著作権行政や教育行政(特に初等中等教育)に携わってこられましたが、途中で役所を退官され、長く福岡教育大学で教育研究に従事されてきました。著作権と教育に関する知識を生かして著作権教育に関する研究成果も多いと聞いております。大和先生は、著作権教育に関する独自のお考えをお持ちと聞いておりますので、読書の皆様もこれらの連載を楽しみにしていてください。
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【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」①
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千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳
【はじめに】
皆さんはじめまして。
今回から新しく連載を担当させていただく大和淳です。
編集部から私に依頼のあったテーマは「著作権教育について」ということでした。
このメルマガを読んでおられるのは,おそらく職場における文献等の利用に関してJRRCとの間で契約を締結している組織の関係者が多いのではではないかと想像します。その職種も法務や総務に限らず,ひょっとしたら人事担当で職員研修の企画に携わっている方もおられるかもしれません。
今日,急速な技術開発によってメディアが多様化し,ビジネス,学術,エンターテインメントを含めた様々なコンテンツの流通も昭和時代とはまったく様相が変わっています。それと同時に著作権に関する意識も変化してきているようです。「著作権教育」ということについても,時代により,また立場により捉え方が変わってきています。この連載では,私自身が著作権に関する行政に携わった経験,大学等の教育機関において学生に対する著作権に係る教育に携わった経験,企業・自治体の職員や学校の教職員に対する研修に関わった経験などを通じて感じたことを紹介しながら,DX社会における著作権の保護と著作物の円滑な利用の在り方を考える手がかりが提案できればと考えています。
【著作権教育の現状と課題】
著作権教育の現状と課題は,情報技術の発達と普及によって,著作物の創作と利用が社会のあらゆる場面で行われるようになったことに起因しています。かつては著作物の利用手段が限られていたため,一部の関係者が著作権に関する知識を持っていれば問題はありませんでしたが,現在では誰でも著作者・利用者になれる時代です。そのため,国民一人ひとりが著作権に関する知識を身につけ,他者の著作権を尊重する意識を持つことが不可欠となっています。
国民の著作権に関する認識が低いと,無断利用が横行し,正規品の市場を脅かす可能性があります。これは著作者の創作意欲を減退させ,ひいては日本の文化発展を阻害する恐れがあるため,深刻な問題です。
現状の課題としては,著作権に関する知識を習得できる場が少なく,普及に適した資料や教材も不足している点が挙げられます。さらに,地域や職場で著作権知識を普及させたり,研修会を企画したりできる人材も不足しています。
特に学校教育においては,著作権に関する意識が低いと指摘されており,教師の著作権に対する意識の低さや,授業での扱い方に関する不明瞭さから,児童生徒に著作権を尊重する意識が十分に育まれていない可能性があります。インターネット環境下ではデータのコピーが容易なため,他人の著作物を引用する機会が増加しており,著作権は法律の専門家だけでなく,誰もが知っておくべき最低限の知識となっています。しかし,難しい条文を暗記させるのではなく,情報化社会を生き抜くためのルールとして,著作権を意識させることが重要です。
学習指導要領では,中学校・高等学校において著作権の保護について取り扱うことが規定されています。文化庁は,全国各地での講習会開催や,様々な対象者向けの教材作成・提供を行っています。教材としては,児童生徒向けの学習ソフトウェア,教職員向けの指導事例集,大学生や企業向けの映像資料,初心者向けテキスト,著作権Q&Aデータベースなどが提供されています。
しかし,課題として,授業内で著作権を取り扱う時間が限られていることや,著作権について指導できる教員が少ないことが挙げられています。また,企業における著作権教育は,個々の企業や事業者団体が実施主体となるべきですが,独自で教育を行う水準に達していない企業も多く,文化庁などの支援が必要とされています。
2020年4月28日施行の改正著作権法では,授業目的公衆送信補償金制度が導入されました。これは,オンライン教育における著作物利用の許諾取得手続きの簡素化を目的としており,一定の条件下で,許諾を得ずに公衆送信(インターネット経由での教材配信など)ができるようになりました。ただし,非営利の教育機関による授業過程での利用に限られ,「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は許諾が必要となります。
このように,著作権教育は,国民の意識向上,適切な教材・資料の整備,指導者育成,法制度の整備など,多角的な取り組みが求められる複雑な課題です。
著作権教育の現状は,国民の著作権意識の低さ,教育機会や教材の不足,指導者不足といった課題を抱えています。一方,学習指導要領での規定,文化庁による講習会や教材提供,改正著作権法による授業目的公衆送信補償金制度導入など,改善に向けた取り組みも進められています。しかし,授業時間や指導できる教員の不足,企業における教育支援の必要性など,依然として多くの課題が残されています。
【著作権教育ではどのようなことを理解するのが重要か】
著作権教育において重要な理解事項は,大きく分けて以下の3つの観点に分類できます。
1.著作権の基本概念の理解:
著作権とは何か,そしてなぜ重要なのか: 著作権は,文化的な創作物を保護する知的財産権であり,著作物を創作した時点で自動的に発生します。著作権の保護水準は,その国の文化のバロメーターと捉えられており,著作権の尊重は文化の発展に不可欠です。 無断利用は,正規品の市場を脅かし,著作者の創作意欲を減退させる可能性があり,ひいては文化の発展を阻害する恐れがあります。 著作権法は,単なる権利保護だけでなく,著作物の公正な利用と文化の発展に寄与することを目的としています。
著作物の種類と範囲: 著作物には,文芸,学術,美術,音楽など様々な種類があり,上手下手に関わらず,個人の思想や感情が創作的に表現されていれば,子どもの絵や作文も著作物となります。 近年は,生成AIによる著作物の生成も増加しており,生成AIが作成したコンテンツと既存著作物の関連性についても理解が必要です。
著作権の保護期間: 著作権の保護期間は,原則として著作者の死後70年間です。ただし,著作隣接権(実演家,レコード製作者,放送事業者などに認められた権利)など,例外的な保護期間もあります。
著作権者の権利: 著作権者は,著作物を複製,頒布,公衆送信,翻訳など,様々な方法で利用する権利を有します。 これらの行為を行うには,原則として著作権者の許諾(許可)が必要です。ただし,著作権法には,授業など特定の条件下での利用を認める例外規定(例えば,著作権法第35条)が存在します。
著作者人格権: 著作権には,財産権(著作物を利用する権利)に加え,著作者人格権(著作者の名誉,作品への関与などに関する権利)があります。例外規定は財産権に適用されるものであり,著作者人格権には適用されません。
2.著作権法の例外規定と制限の理解:
教育機関における著作物利用の特例: 著作権法第35条は,教育機関における授業目的での著作物利用について,特定の条件下で許諾なしでの利用を認めています。この特例は,学校や教育機関,教員と学生に限られ,授業の準備や実施に必要な範囲内での利用に限られます。 さらに,著作権者の利益を不当に害する場合は,許諾が必要となります。
授業目的公衆送信補償金制度(SARTRAS): 2020年4月28日施行の改正著作権法で導入された制度で,オンライン授業における著作物利用の許諾取得手続きを簡素化します。一定の条件下で,許諾を得ずに公衆送信(インターネット経由での教材配信など)が可能となりますが,非営利の教育機関による授業過程での利用に限られ,著作権者の利益を不当に害する場合は許諾が必要です。
引用の範囲: 著作権法は,引用を許容する規定を設けています。しかし,「引用」と認められるには,特定の要件(目的,範囲,出所表示など)を満たす必要があります。
私的使用の範囲: 私的使用のための複製は,著作権者の許諾なしに認められる場合がありますが,その範囲は限定的です。
3.著作権教育の実践と課題の理解:
著作権教育の必要性: 情報技術の発達により,誰でも簡単に著作物を創作・利用できるようになったため,国民一人ひとりが著作権に関する知識を身につけ,他者の著作権を尊重する意識を持つことが不可欠です。著作権教育は,情報モラル教育の中核をなす存在であり,情報社会を生き抜くためのルールとして捉えることが重要です。
著作権教育の現状と課題: 現状では,著作権に関する知識を習得できる場や適切な教材が不足しており,著作権教育を指導できる人材も不足しています。学校教育においても,著作権に関する意識が低いと指摘されており,授業時間や指導できる教員の不足が課題となっています。
具体的な学習内容: 学校教育では,著作権の基本的な考え方や態度を身につけさせることを目標とし,小中高でスパイラル的に計画的に取り組む必要があります。学習指導要領では,中学校・高等学校において著作権の保護について取り扱うことが規定されています。授業では,書籍,音楽,映像,インターネット資料など様々な著作物を扱うため,適切な利用方法を理解することが重要です。
これらの点を理解することで,著作権を尊重した,安全で創造的な情報環境を構築し,文化の発展に貢献できます。 ただし,法律や制度は変更される可能性があるため,常に最新の情報を確認することが重要です。
「私自身の経験から」といいながら,突然,「著作権教育の現状と課題」「著作権教育ではどのようなことを理解するのが重要か」というような大仰な見出しで解説を始めましたが,一読していただいてどのような感想をもたれたでしょうか。
実は,この二つの項目については,生成AIに書かせてみました。生成AIについては,偽情報や権利侵害などの課題に配慮しつつも社会全体ではよりよく活用しようとする取組が進んでいるようです。ただ,学校(特に初等中等教育)では児童生徒の判断能力や発達段階を考慮してか,慎重な姿勢をとるところが大勢です。私もこのテーマに関して生成AIに「発注」してみてある種の限界を感じました(もっとも,出来の悪さは,私自身のプロンプト入力の拙さによるのかもしれませんが)。次回は,このことについて述べてみたいと思います。
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【2】【8/6開催】JRRC 著作権講座初級オンライン開催について
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先日延期のご案内を差し上げておりました「著作権講座初級オンライン」につきまして、
振替日程が下記の通り決定いたしましたので、ご案内申し上げます。
プログラムにつきましては、前回のご案内から変更はございません。
★開催日時:2025年8月6日(水) 13:30~16:35★
プログラム予定
13:30~15:05 第1部 著作権制度の概要
15:05~15:15 休憩
15:15~15:25 JRRCの管理事業について
15:25~16:35 第2部 死後の人格的利益の保護(八代亜紀さんの場合はどうなる)
★ 参加お申込みページ : https://jrrc.or.jp/event/250709-2/ ★
皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
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【3】【7/31・8/20 開催】全国オンライン著作権セミナー開催のご案内
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このたび、全国の官公庁・民間企業の皆様を対象に、著作権に関する実務セミナーを開催いたします。
情報発信の多様化やデジタル化が進む現代において、著作権の適切な理解と対応は、業務運営上ますます重要性を増しています。
今回は、著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。
また、一般的な著作権(初級レベル)についての解説や著作物の正しい利用方法についてより詳しくご説明いたします。
〇開催要項
日 時 :【第1回】7月31日(木) 14:00~15:30
【第2回】8月20日(水) 14:00~15:30
会 場 :オンライン (Zoom/YouTube)
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター
参加協力:新聞著作権協議会(加盟68社)および日本経済新聞社、奈良新聞社
〇プログラム(予定)
【第1回】
トピックス1 著作権の集中管理と適正利用について
トピックス2 新聞の紙面ができるまで
トピックス3 新聞記事を巡る著作権侵害の事例 ~リスクを避けてクリッピング活用を~
トピックス4 著作物の複製等に関する利用許諾の取得について
【第2回】
トピックス1 著作権の集中管理と適正利用について
トピックス2 新聞の紙面ができるまで
トピックス3 新聞記事を巡る著作権侵害の事例
トピックス4 著作物の複製等に関する利用許諾の取得について
参加お申込みページ:https://jrrc.or.jp/event/250703-2/
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