JRRCマガジンNo.404 中国著作権法及び判例の解説5 NFT作品の著作権保護に関する法律分析

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JRRCマガジン    No.404  2025/1/30
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日1月30日は「3分間電話の日」
1970(昭和45)年1月30日、公衆電話の市内通話の料金が3分/10円に設定されたことにちなんで記念日が設けられたそうです。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説━━━
5 NFT作品の著作権保護に関する法律分析 
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                        中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
1.はじめに  
 NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)作品とは、暗号アルゴリズムを用いて生成された改ざん不可能なコードであり、特定のデジタルコンテンツのメタデータをブロックチェーン上に記録するために使用されるものです。NFTはブロックチェーン技術を基盤としており、「非代替性」という特性を有しているため、ビットコインなどの代替可能な暗号通貨とは異なります。即ち、ビットコインは相互に交換可能ですが、NFTは各トークンが独自の識別コードを持っているため、代替不可能で、デジタルアート市場では、NFTとして存在するすべてのアート作品が唯一無二の存在となります。そしてNFTはデジタル絵画、音楽、動画、ゲームアイテムなど、さまざまな形式のデジタルコンテンツを含みます。  
 近年、インターネットとデジタル技術の発展に伴い、NFTの代替不可能性や唯一性といった特性が、デジタル作品のオンライン収集および取引市場の形成と繁栄を促進しました。特に、アーティストによる作品は市場で投資の対象として注目を集めています。しかしながら、これに伴い、NFT作品の著作権をどのように保護すべきかという法律的課題が生じています。  
 NFT作品はデジタル技術の新しい応用形態として、従来の著作権法を適用する際に新たな課題が発生します。特に、著作権侵害を判断する場合、複製権、頒布権、情報ネットワーク送信権がNFT関連の侵害事件の中核的な権利となります。中国では、NFT作品著作権侵害の法的認定が徐々に明確化しており、近年の判例を通じて新技術に適応した法的アプローチが形成されつつあります。  
 以下に、典型的なNFT作品の著作権侵害判例を通じて、中国の裁判所がこのような案件においてどのように法を適用し、判断を下しているのかを考察します。

2.判決の概要
(1)当事者
・原告(一審原告・二審被上訴人): 范某(著名画家、芸術家)
・被告(一審被告・二審上訴人): 河南智某ネットワークテクノロジー有限公司(以下「智某会社」という)およびその唯一の株主である王某

(2)事件の概要
1979年に范某が創作した水墨画《贾岛诗意》が、本件NFT作品となります。一審被告の智某会社は、自社が運営するWeChat公式アカウント上で本件NFT作品に関する記事を公開しました。記事には「范某先生のプロフィールと作品紹介」、「販売チャネル」、「販売数」、「販売開始日」などの詳細情報が含まれていました。同日、智某会社は自社のアプリで本件NFT作品を販売し、販売価格は39.9元、販売数量は10,000枚と設定されましたが、実際の販売数は8,289枚でした。これに対し、范某は以下を主張しました。
 ① 智某会社が公式アカウントで本件NFT作品を公開した行為は、情報ネットワーク送信権を侵害している。
 ② 智某会社がアプリで本件NFT作品を販売した行為は、複製権、頒布権、情報ネットワーク送信権を侵害している。
 ③ 王某は智某会社の唯一の株主として連帯責任を負うべきである。

(3)争点
 ① 智某会社が公式アカウントで本件NFT作品を公開した行為は、范某の情報ネットワーク送信権を侵害しているか?
 ② 智某会社がアプリで本件NFT作品を販売した行為は、范某の複製権、頒布権、情報ネットワーク送信権を侵害しているか?
 ③ 智某会社および王某は、侵害行為に対して連帯責任を負うべきか?

(4)裁判所の見解
イ) 争点①について、智某会社は本件NFT作品を無許可で公開し、第三者が任意の時間と場所でアクセス可能にした行為は、范某の情報ネットワーク送信権を侵害すると判断されました。
ロ) 争点②について、まず、智某会社が本件NFT作品をアプリのサーバーにアップロードした行為は、複製権の侵害に該当しますが、情報ネットワーク送信行為の前提としても評価されるため、単独で責任を問われることはないと判断されました。次に、本件NFT作品の取引は作品の物理的な媒体の移転を伴わないため、頒布権の侵害には該当しないと判断されました。さらに、智某公司は許可無しで本件アプリのホームページ、注文詳細ページ、商品詳細ページ、およびコレクション詳細ページにおいて本件NFT作品を表示し、一般の人々が任意の時間と場所で作品を鑑賞できるようにした行為は、本件NFT作品に対し情報ネットワーク送信権を侵害すると認定されました。
ハ) 争点③について、王某は智某会社の唯一の株主でありながら、会社資産と個人資産の分離を証明する証拠を提示できなかったため、連帯責任を負うことが確定されました。
                   ―(2023)京73民終3237号民事判決書より抜粋

3. 分析とまとめ
(1)NFT関連案件では、複製権、頒布権、情報ネットワーク送信権が中心的な争点となります。裁判所は、NFT作品の特性を考慮しつつ、従来の著作権法の原則に基づいて評価しています。
(2)裁判所は、NFT作品の複製物をアプリのバックエンドサーバーにアップロードする行為を「複製行為」と見なし、ネットワークプラットフォーム上でNFT作品を公開する行為を「情報ネットワーク送信行為」と見なしています。なお、この複製行為が後続の情報ネットワーク送信行為の必要な手順である場合、単独で評価する必要はなく、情報ネットワーク送信権侵害として評価されるとしました。これにより、裁判所はNFTを伝統的な著作権ルールから独立した革新的なものではなく、デジタル複製物の媒体または展示の手段とみなす傾向があると考えられます。
(3)裁判所は、著作権者が自らの権利を証明する一方で、被告には完全な許諾チェーンを示すことを求めました。本件では、智某会社が第三者との契約を提示したものの、許諾の正当性を証明できなかったため、侵害が認定されました。

4. おわりに
 中国におけるNFT作品の著作権侵害認定は、法的枠組みが徐々に整備されており、複製権、頒布権、情報ネットワーク送信権が重要な争点として扱われています。今後、NFT市場の発展に伴い、より明確な法的ガイドラインが制定され、デジタル資産の権利保護が一層強化されることが期待されます。

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