JRRCマガジンNo.403 最新著作権裁判例解説26

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JRRCマガジン No.403   2025/1/23
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【1/24開催】ELNET・JRRC共催 オンライン著作権セミナーのご案内
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日1月23日は「アーモンドの日」
一般的に日本人の成人女性の1日のアーモンド摂取目安量は1日23粒とされていることから、カリフォルニア・アーモンド協会が「1日23粒」を1月23日と見立てて記念日を制定したそうです。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その26)
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                              横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 本年も宜しくお願いいたします。新年第一回目の今回は、東京地判令和6年11月14日(令和5年(ワ)第70611号)〔ネットオークションサイト釣り具写真掲載事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、原告(釣り具、アウトドア用品等に関するブランドを展開し、これらの商品の販売を行う株式会社)の販売する釣り具を撮影した別紙著作物目録記載の写真 9 点(以下、併せて「本件各写真」という。)について著作権を有するとする原告が、被告がインターネットオークションサイトに釣り具を出品した際、本件各写真を複製した画像 9 点を同サイト上に掲載したことにより本件各写真に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、151万2500 円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後である令和 4年 9 月 1 日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。
(※)原告は、本件訴えの提起に先立ち、本件投稿をした出品者を特定するため、本件オークションサイトを運営するヤフー株式会社(以下「ヤフー」という。)を相手方とする発信者情報開示命令の申立てをし(東京地方裁判所令和5年(発チ)第10043号発信者情報開示命令申立事件)、東京地方裁判所は、令和5年6月23日、ヤフーに対し、本件投稿をした者の氏名又は名称、住所等を原告に開示することを命ずる決定をした。これを受け、ヤフーは、原告に対し、本件投稿をしたアカウントに係る発信者情報として、被告の氏名、住所等を開示した。

<判旨>
 原告の請求を一部認容。
「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、原告代表者が原告ウェブサイト等で本件商品を広告販売するために撮影したものであること、本件各写真の撮影は、本件商品を様々な角度から接写しつつ美しい画像とするために、被写体の配置、背景、光源、カメラアングル等を調整して行われたものであることが認められる。
そうすると、本件各写真は、いずれも、撮影者の個性が表れたものといえ、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められる。すなわち、本件各写真は、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。」
「前記認定のとおり、本件各写真は、原告代表者が原告ウェブサイト等で本件商品を広告販売するために撮影したものであることに加え、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、現に原告ウェブサイトに本件商品の説明文と共に掲載されたことが認められる。これらの事情によれば、本件各写真は、釣り具等の販売を業とする原告の発意に基づき原告の業務に従事する者である原告代表者がその職務上作成した著作物であり、また、原告が自己の著作の名義の下に公表するものといえる。また、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真の作成時における契約、勤務規則その他に本件各写真の著作権に関する別段の定めはなかったとみられる。
したがって、本件各写真の著作者は原告であり(著作権法15条1項)、原告がその著作権を有すると認められる(同法17条1項)。」
「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告は、令和4年8月31日午後10時11分頃に本件投稿をした後、翌日である同年9月1日午前0時19分頃に上記の出品を取り消したことが認められる。すなわち、被告は、本件オークションサイトに本件商品の新品未使用品を出品するに当たり、本件各写真をそのまま複製して利用した。これは、本件各写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものといえる。
被告が本件各写真を利用した期間は、上記のとおり2時間強にとどまるが、これは、原告が、本件投稿の約1時間後に、本件オークションサイトの出品者への質問を投稿する機能を利用して、出品者に対し、テキスト及び画像の無断転載を確認したため原告の規定に従った利用料金を請求する旨の予告をしたという事情を受けて行われたものである。また、本件各写真は、原告の取り扱う本件商品の広告販売を目的として撮影されたものであるところ、証拠・・・によれば、原告は、原告の取扱商品を卸している販売店等の正規の取引先に対して商品写真の利用を許諾することはあるものの、原告の取扱商品を高額で転売するような正規の取引先でない販売者に対して商品写真の利用を許諾した実例はないことが認められる。すなわち、原告においては、被告のような正規の取引先でない販売者との間で本件各写真の利用許諾契約を締結することは想定されていないとみられる。・・・」

<解説>
 今回の事案はかなりシンプルなものであり、被告が大手ネットオークションサイトである所謂ヤフオクに釣り具を出品した際に釣り具に係る原告の写真をその許諾なくしてアップし、原告の有する複製権・公衆送信権の侵害を問われ、それが肯定された、というものです。
 今回の判決においては、まず釣り具を撮影した写真につきその著作物性が判断されているところ、写真に係る表現上の創作性が種々の要素をもとに判断されており、具体的には被写体許容説(注1)に立ってその著作物性が肯定されています。既存の写真における被写体に類似した被写体を撮影した場合にもとの写真の著作権を侵害するかどうかについては、両写真における表現上の創作性の共通性の有無が問題となるのでその判断についての評価が分かれうることがありえますが(注2)、特定の写真自体の表現上の創作性に関しては今回の判決のような説示がなされることが一般的であり、広く写真の表現上の創作性が肯定されている現状にあっては(注3)、(写真の現物が添付されてはおりませんが、)今回の判断結果に対して異議が唱えられるものではないと思われます。
 次に判決においては、これらの写真の著作物につき、その著作者が誰であるのかに関する判断がなされており、その職務著作該当性が争われています。これは特に今回の場合、本件各写真の撮影者が原告の代表者であるという事情があり、そのためその著作者が原告であるのか或いは原告の代表者個人であるのかが問われたということだった訳ですが、本件各写真の撮影の目的や具体的な利用形態等に鑑み、今回の判決では原告を著作者とする職務著作該当性が肯定されています。法人の業務に従事する者の範囲からその法人の代表者を除くべき合理的理由はありませんし、今回のケースではその代表者は原告の業務として写真撮影をして、原告のウェブサイトでそれらの写真を掲載・公表していることなどの事情に鑑みると、職務著作該当性についても今回の判断結果に異議が唱えられるものではやはりないと思われます。
 そして、本件各写真を被告がヤフオクにアップした行為は複製と、公衆送信とに該当することになりますので、この複製と公衆送信との各行為について被告が原告の許諾を得ないままに行ったとなると、それは本件各写真について原告が専有する複製権・公衆送信権を各々侵害したことになることから、今回の判示通りの帰結になることとなります。
 その上で、今回の事案に関連して、少し幅を拡げて第47条の2の点について思考実験的に考えておきたいと思います。第47条の2の条文は「美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合には、当該権原を有する者又はその委託を受けた者は、その申出の用に供するため、これらの著作物について、複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し、又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。」と規定されているものであり、
典型的には美術作品や写真をウェブサイト上で一般販売する場合において当該美術作品等の画像を一定の画素数等の条件下で当該ウェブサイトにアップすることを許容する、というものです。美術作品をネット上で販売する場合に、その現物の画像が閲覧できなければ取引自体が成立しえなくなることは予想に難くないことからすれば、立案担当者の指摘する通り(注4)、美術品等の所有者等の適法な取引行為と、当該美術品等に係る著作権保護との調整を図ろうとする点で本条は重要な著作権制限規定の一つになっているものと言えましょう。
 この条文の適用に関して今回の事案自体について考えてみると、今回のケースは写真の著作物に関する事案ではありましたが、写真自体を販売しようとした事案ではなかったので、その点では第47条の2の適用の有無が問題となるケースではなかったものです。
 次に、今回のケースで販売の対象となっていたのは釣り具であり、一般的にみれば著作物性の認められないものであるので、その点でも第47条の2の適用が肯定されるものではないと思われるのですが、その形態次第によっては(応用美術に係る判断基準によって)美術の著作物性が肯定される場合もあり得るところであり、その場合は第47条の2の適用について検討することとなります。とはいえ、この場合でもやはり被告側は著作権侵害の責任を負うことになったものと解されます。まず①本件各写真について、これが事案の通りに原告が撮影したものであった場合は抑々前述の通り、原告撮影による写真の著作物の著作権を侵害することになることに変わりはありません(ここでの文脈でいえば、検討の対象は美術の著作物性を有する釣り具であるので、それに係る著作権侵害のことを本来であれば述べることになりますが、話がややこしくなるので、その点については下記②の記述に譲ることとし、この段階では著作権侵害責任の話は写真の著作物の著作権のことだけに止めておきます)。
逆に、②本件各写真を被告が撮影した場合はどうでしょうか。第47条の2で制限されているのは複製と公衆送信との二つの利用行為のみです。そして第47条の6では各著作権制限規定の活用する場合において(各条で異なるものの、)一定の翻案等をした形での利用を認めていますが、この第47条の6では第47条の2の規定が挙げられていないので、(例えば、第30条の私的目的複製の場合は、第47条の6によって私的目的翻案が認められているのと異なり、)第47条の2の場合は、二次的著作物に翻案した上での利用は許容されておらず、あくまでも対象となっている美術作品等をそのまま複製(・公衆送信)する場合だけが許されていることになります(注5)。
したがって、このような②の仮想的ケースについても被告側は美術の著作物性が認められる原告の釣り具に係る原告の著作権を侵害する(分析的にいうならば、当該美術の著作物を写真撮影という方法で翻案して原告の専有する第27条の権利を侵害したことと、さらに当該翻案によって被告が創作した写真の著作物につきその原著作者たる原告が専有する第28条の権利を侵害したこと)ことになると解されます。つまり、平たくいえば、美術の著作物の原作品等をネット上で販売するような場合にその作品を画像掲載する場合には(もちろん、上述の通り画素数制限等がありますが、)工夫をこらした画像をつくってアップするのではなく、どのような作品なのかが端的に見て取れる程度の複製画像に止めてアップすることが必要だ、ということになりましょう(実際のビジネスで考えてみても、美術の著作物の原作品等を販売しようとする場合には、そこで用いられる紹介画像は端的にそれがどのようなものであるのかをパッと見て分かるような画像にするのが商売のニーズに適合することが通常のパターンでしょう)。今回は以上といたします。

(注1)小泉直樹=茶園成樹=蘆立順美=井関涼子=上野達弘=愛知靖之=奥邨弘司=小島立=宮脇正晴=横山久芳『条解 著作権法』235-236頁[横山久芳]を参照。
(注2)例えば、本解説(その1)を参照。
(注3)尤も、池村聡講演録「現代社会における写真と著作権」『コピライト』No.718 Vol.60・32頁以下などではそうした現状に対する疑念が呈されている。
(注4)加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』397頁
(注5)この第47条の6で許容されている翻訳や翻案等の具体的な行為については、学説や裁判例において必ずしも同条に列挙されているものに限られる訳ではないとする指摘もある。例えば、学芸会での児童生徒の発達段階に応じた簡略的上演(中山信弘『著作権法〔第4版〕』449頁)や、要約引用(東京地判平成10年10月30日判時1674号132頁〔血液型と性格事件〕)など。尤も、これらのケースは第47条の6に掲名されている各条につき、そこで個別の条単位で認められる(広義の)翻案行為が例えば翻訳だけなのか変形等も含むのかという意味で第47条の6が限定列挙主義なのかどうかという議論であり、今回のケースのように抑々第47条の6で掲名されていない著作権制限規定の条項にも適用があるかどうかの話とは次元を異にする事柄であることには留意が必要であろう。

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【2】【1/24開催】ELNET・JRRC共催 オンライン著作権セミナーのご案内
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株式会社エレクトロニック・ライブラリー(ELNET)様と公益社団法人日本複製権センター(JRRC)が共催で著作権についてのセミナーを開催いたします。

★開催要項★
日 時:2025年1月24日(金) 14:00~15:20
会 場:Zoom(オンライン開催)
参加費:無料
主 催:株式会社エレクトロニック・ライブラリー・公益社団法人日本複製権センター
講演内容:「AIと著作権」(1)著作物の蓄積と解析(情報解析)
            (2)AI作品の著作物性、著作者等   

★プログラム(予定)★
14:00 ~ 14:05 開始のご挨拶
14:05 ~ 14:10 ELNETのご紹介
14:10 ~ 14:15 JRRCのご紹介
14:15 ~ 15:00 講演「AIと著作権」
15:00 ~ 15:15 質疑応答
15:15 ~ 15:20 終了のご挨拶

★お申込みサイト★
https://jrrc.or.jp/event/250107-2/

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