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JRRCマガジン No.401 2025/1/9
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
【3】【1/24開催】ELNET・JRRC共催 オンライン著作権セミナーのご案内
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読者の皆様、明けましておめでとうございます。
私が理事長に就任した際に策定しました本センターの第4次三ケ年計画は2024年度で終了し、本年4月から第5次三ケ年計画がスタートする予定です。
おかげさまで第4次の計画は利用者様及び権利者様のご理解・ご協力のおかげで目標をおおむね達成することができました。
使用料の徴収目標も7.5億円を上回り7.7億円を達成する見込みであり、また管理手数料率も目標の25%以下を達成し、23%台となる見込みです。
このほか、クリッピングサービスの契約代行等の非一任型管理の開始、利用申し込みから使用料の支払いまでを手作業なしで行える基幹システム「諾」の導入等の新しい試みも開始しています。
第5次の計画においても、使用料の徴収増や管理手数料の減額等に継続して取り組んでいくと同時に、利用者様及び権利者様の利便性の向上や許諾事務の効率化に取り組んでいくつもりです。
皆様のご理解とご支援をお願いしまして新年のご挨拶とさせていただきます。
公益社団法人日本複製権センター 代表理事 川瀬 真
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さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についてです。
今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/
◆◇◆【1】イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
Chapter32. イギリスの新聞産業と著作権
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明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也
1. はじめに
イギリスの新聞は、タイムズのような全国紙(ナショナル・ペーパー:イギリス全土で発行される新聞)とザ・サンのようなタブロイド紙(大衆紙:写真や見出しを大きく使用し、センセーショナルな報道スタイルを特徴とする新聞)、そして約1,000の地方紙・ローカル紙で構成されています。
日本も同様だと思いますが、イギリスの新聞産業も、伝統的なメディアからデジタルメディアへの移行期にあります。
近年の変化の中でも特に大きな影響を与えているのは、デジタル版(インターネット上で配信される電子版の新聞)の普及と、ニュースアグリゲーター(複数のニュースソースから情報を収集し、まとめて提供するサービス)の台頭です。また、新聞社の収益構造も変化し、広告収入の減少が著しい状況です。
イギリスの新聞業界の収益は2022年時点で約41億ポンド(約8015億。1ポンド195円で計算)となっており、2017年から2022年にかけて年平均4.7%の減少を示しており、長期的にみても2009年の約70億ポンドから大幅な減少(約31%)を示しています(Copinger and Skone James on Copyright, Second cumulative Supplement to the Eighteenth Edition, para. 26-72)。
日本でも、新聞社の総売上高は2009年度の2兆24億円から、2022年度には1兆3,265億円に減少しており(日本新聞協会経営業務部調べ)、これは約34%の減少に相当します。減少率だけみると、日本とイギリスでは、概ね似たような傾向が見て取れます。ちなみに、日本ではこの間、広告料収入は約51.6%の減少になっています。
イギリスでは、紙媒体の新聞の発行部数は減少する一方で、全国紙のオンライン読者は増加している模様ですが、専門誌などにおける一部の成功例を除いて、オンライン配信におけるマネタイズには、まだまださまざまな難しさを抱えている模様です。
2. 新聞コンテンツの著作権保護
新聞コンテンツの著作権保護については、複数の側面から検討する必要があります。
(1)ニュースとなる事実と個々の記事
まず、ニュースとなる事実やアイデアそのものには著作権は発生しません。これは日本でもイギリスでも同じです。
これに対して、事実を記事や報道において表現した個々の記事には「文芸の著作物(literary work)」として、著作権が生じます。イギリス著作権法において「文芸の著作物」とは、演劇または音楽の著作物以外のものであって、書かれ、口述され、歌唱されるあらゆる作品をいいます(イギリス著作権法3条1項)。
(2)新聞記事の見出し
新聞記事の「見出し」はどうでしょうか。Infopaq International A/S v Danske Dagblades Forening (C-5/08)において、欧州司法裁判所は、11語からなる短い文章であっても、その言葉が「著作者自身の知的創作物」(author’s own intellectual creation)を表現していれば、著作権を惹起するのに十分なオリジナリティがあると判示しています。
そして、イギリスの裁判所も「著作者自身の知的創作物」という考え方を採用しています。
したがって、たとえば、新聞社のウェブサイトからニュースの見出しを複製したリンクを無断利用すれば、それに対して著作権を侵害すると主張することが可能です。
ただし、非常に労力がかかっている「とくダネの見出し」だからといって、著作権法上、オリジナリティのある見出しであるとは限りません。たとえば、長年の取材の結果、莫大な時間と労力をかけてネッシーを本当に見つけたという記事に「ネッシーみつかる!」というタイトルをつけても、見出しそれ自体は著作物とはいえないでしょう。
それに対して、「”Mysterious Silhouette Emerges from Loch Ness’s Abyss: 90-Year Legend Finally Takes Shape”(謎の巨影、ネス湖の深淵から姿を現す:90年来の伝説ついに実像へ)」、といった気の利いた見出しにすれば、ひょっとするとオリジナリティがあると判断される可能性はあるわけです。
日本では、ニュース記事の見出しのような比較的短い文章についても、創作性を肯定しうる余地があるとは考えられています(知財高判平成17年10月6日〔ヨミウリオンライン事件〕)。しかし、創作性が認められる余地も小さいため、原則的には、著作物には該当しないことが多いと思われます。ヨミウリオンライン事件では、「マナー知らず大学教授 マナー本海賊版作り販売」といった見出しの著作物性が否定されています。
(3)新聞全体
新聞全体からなる編集物も文芸著作物として保護されます。イギリス著作権法では、文芸の著作物には、(a)データベース以外の表又は編集物、(b)コンピュータ・プログラム、(c)コンピュータ・プログラムのための準備設計資料、(d)データベースが含まれるとされていますので(3条1項)、新聞全体は(a)に該当するということになるでしょう。
日本法ですと、編集物やデータベースの著作物(日本著作権法12条)は、講学上「特殊な著作物」として分類されていますし、プログラムの著作物については、言語の著作物とは別に、例示列挙されていますが、いずれにしても、新聞全体は編集著作物として保護されます。
(4)新聞の版面
イギリスでは、紙面のタイポグラフィカルな配置についても著作権が認められています。これは、著作者の著作権とは別個に著作権が与えられます。
いわゆる版面権と呼ばれるものであり、端的にいえば、出版社に与えられる著作隣接権のようなものです。
この版面に関する権利の独自の保護制度は、日本の著作権法には存在しません。イギリスにおけるこの制度は、1956年著作権法において採用されたものであり、1988年法にも引きつがれています。
(5)その他のコンテンツ
新聞のコンテンツは多様なソースから生まれています。従業員である記者やカメラマンの記事や写真もあれば、フリーランスのジャーナリスト、通信社の記事、アーカイブのデータ、フォトライブラリーの写真、読者による投稿、広告代理店の記事など、様々な権利者が関わっています。これらの出所の異なるコンテンツの著作権がすべて新聞社に帰属しているわけではありません。
もっとも、雇用関係にある従業員の著作物については、雇用の過程で作成された著作物の著作権は通常、実際に記事を書いた従業員ではなく、雇用主である新聞社に帰属することになります。著作権法上、雇用の過程で創作された著作物(11条2項)などは、一定の要件の下で、実際の著作者以外の者が最初の著作権者となるからです。
なお、イギリスの著作権法における職務著作の場合、あくまで著作者は実際に創作をした被用者になります。この点について、日本法の場合、職務著作が成立するときには、法人(新聞社)それ自体が著作者となります。イギリスの制度は、日本の職務著作制度と異なり、著作者性(authorship)それ自体を変更するものではなく、あくまで最初の著作権帰属(ownership)を変更するにすぎないものです。
したがって、日本では、職務著作が成立する場合、実際に記事を書いた従業員は著作者ですらないので、著作者人格権を持たないことになりますが、イギリスでは従業員に同一性保持権などの著作者人格権(モラルライツ)が残り得ることになります。
もっとも著作権が原始的に雇用主に帰属する著作物については、一定の場合を除いて、著作権者の行為又は著作権者の許諾を得て著作物に対し行われる行為について、同一性保持権は及ばないとされています。そのため、イギリスの新聞社としては、実際に記事を書いた従業員に同一性保持権があったとしても、うるさく言われることはありません。
いずれにしても、雇用関係にある従業員の著作物については、権利が一元化することにより、新聞社は従業員が作成した著作物を、電子メディアや派生出版物での使用、データベースでの保存と検索など、幅広い用途に活用することができることになります。
3. おわりに
デジタル時代において、新聞産業は著作権に関する新たな課題に直面しています。特に検索エンジンやオンラインデータアグリゲーションの急速な成長は、記事内容の伝播性を促進する一方で、検索結果等を確認することで満足した利用者が増えれば、自社サイトへのトラフィックが減る可能性も高まるという意味で、新聞出版社にとって困難な問題が生じます。
自社サイトへのトラフィックの減少という問題は、近時のAI技術との関連で、いわゆる検索連動型の生成AIサービスが普及すると、さらに深刻になるでしょう。
著作権法などの知的財産法は情報を知的財産として保護します。しかし、知的財産の適切な保護やそれへの対価の還元がない場合、情報の保有者は情報を秘匿するか、限られた者にしかアクセスできないようにします。新聞社のウェブサイトであっても、厳格なアクセス制限の下で、有料版の購入者しかアクセスできない領域が広がるでしょう。
価値のある情報に対価を払って利用するというのは当然のことかもしれませんが、他方で、SNSやインターネットの無料の情報にしかアクセスしないネット利用者も多いことから、いろいろな意味で、情報格差が広がることも懸念されます。
インターネットの自由も、一筋縄ではいかない時代となりました。
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【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催で著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。
本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権 」と「ネット上の違法サイト対策 」について講演予定です。
★募集要項★
日 時:2025年1月21日(火) 10:00~15:10 (予定)
会 場:Zoom(オンライン開催)
定 員:200名
参加費:無料
主 催:公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学
★講師紹介★
・川瀬 真 氏 JRRC理事長、元文化庁著作権課著作物流通推進室長
・甲野 正道 氏 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授
★プログラム★(講義の進捗度合いにより時間は変更になる場合があります。)
10:00 ~ 10:05 講師紹介等
10:05 ~ 12:00 著作権制度の概要 【講師】川瀬 真 氏
12:00 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 14:00 トピックス「 AIと著作権 」 【講師】 甲野 正道 氏
14:00 ~ 14:10 休憩
14:10 ~ 15:10 トピックス「 ネット上の違法サイト対策 」 【講師】川瀬 真 氏
15:10 終了予定
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【3】【1/24開催】ELNET・JRRC共催 オンライン著作権セミナーのご案内
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株式会社エレクトロニック・ライブラリー(ELNET)様と公益社団法人日本複製権センター(JRRC)が共催で著作権についてのセミナーを開催いたします。
★開催要項★
日 時:2025年1月24日(木) 14:00~15:20
会 場:Zoom(オンライン開催)
参加費:無料
主 催:株式会社エレクトロニック・ライブラリー・公益社団法人日本複製権センター
講演内容:「AIと著作権」(1)著作物の蓄積と解析(情報解析)
(2)AI作品の著作物性、著作者等
★プログラム(予定)★
14:00 ~ 14:05 開始のご挨拶
14:05 ~ 14:10 ELNETのご紹介
14:10 ~ 14:15 JRRCのご紹介
14:15 ~ 15:00 講演「AIと著作権」
15:00 ~ 15:15 質疑応答
15:15 ~ 15:20 終了のご挨拶
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