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JRRCマガジン No.398 2024/12/12
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◆今回の内容
【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える
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皆さま、こんにちは。
外出に厚手の上着が欠かせない季節になりましたが、満員電車では乗車直後に暑く感じてしまうのが悩ましい今日この頃です。
さて、今回は板東氏の「コンプライアンス・企業倫理を考える」です。
板東氏の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/bando/
◆◇◆【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える━━━
⑦公益通報者の保護の強化に向けた検討
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日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役 板東久美子
前回まで2回にわたり、不正の発見・是正のための内部通報制度の重要性とそれを支える公益通報者保護法の概要についてご説明しましたが、現在、法改正議論が急ピッチで進んでいて、新聞でも報じられていますので、今回は、補足として消費者庁での法改正に向けた検討の状況、特に公益通報者に対する不利益取り扱いに関する罰則の導入の問題についてご紹介したいと思います。
公益通報者保護法の施行状況と課題の検討
公益通報者保護法は、2022年に改正法が施行されましたが、その附則で、施行後5年以内に施行状況を検証し、必要な措置をとることとされており、2024年5月から消費者庁の公益通報者保護制度検討会において検討が行われています。
消費者庁は、検討会発足に先立ち、実態把握のため、(A)内部通報制度に関する就労者1万人アンケート調査(2023年11月実施)と (B)民間事業者の内部通報対応の実態調査(2023年12月実施)を行っています。その調査結果からは、なかなか示唆に富む事実も様々浮かび上がっています。
例えば、法改正課題とはあまり関係しないかもしれませんが、内部通報制度に対する従業員の理解を進めたり、通報しやすい窓口・ホットラインを設置することの重要性が改めてうかがえることです。(A)の就労者1万人アンケート調査結果では、内部通報制度の理解度が高いほど、勤務先で重大な法令違反を目撃した場合の通報意欲が高くなる傾向にあります。また、内部通報制度を「よく知っている」と回答した人は、それ以外の人よりも、一番通報しやすい先として、「勤務先」を選んだ割合が高い一方、「インターネット・SNS」を選択した割合は低いという結果があり、就労者の理解向上が勤務先への通報を増やし、SNS等への告発を減らす可能性があることを示唆しています。
また、(B)の民間事業者の実態調査によると、窓口の年間通報受付件数は、「0件」、「1~5件」の事業者がそれぞれ3割ずつで、まだ窓口の活用は進んでいるとはいえませんが、窓口の受付件数が多い事業者は、ほぼ全てが内部通報を「不正発見の端緒」として積極的に捉えています。実際に、不正発見の端緒が「内部通報」だったと回答した割合は最も高く(内部通報制度導入企業の77%)、内部監査や上司のチェック・日常の業務報告等を大きく上回っています。
このように、内部通報制度を従業員によく周知し、積極的に活用することは、企業のガバナンス、リスク管理の強化にとって改めて重要であることがわかります。
また、(A)の就労者の調査回答者のうち実際に通報を行った者は4.8%と多くないものの、通報をして後悔している者はそのうち17%で、その理由(複数回答)として、不正に関する調査・是正が行われなかったため(57%)、人事異動・評価・待遇など人事面で不利益な取り扱いを受けたため(42%)という回答が多かったことが注目されます。通報する場合も匿名とするという回答者が6割以上ともなっており、不利益を受ける不安を感じていることを示唆しています。
このような調査や裁判例等の分析等も踏まえながら、公益通報者保護制度検討会で議論が行われています。取り上げられている主な課題としては、①事業者における体制整備の徹底と実効性の向上(公益通報対応業務従事者指定義務の違反事業者への対応、体制整備義務対象事業者の拡大等) ②公益通報を阻害する要因への対処(公益通報者の探索行為の禁止、公益通報に必要な資料収集・持ち出し行為の免責等) ③公益通報を理由とする不利益取り扱いの抑止・救済(不利益取り扱いに関する罰則の導入等)があります。特に③が実際上・理論上も大きな論点となっていますので、これについてさらに若干のご説明をしたいと思います。
公益通報者の不利益取り扱いに関する罰則の導入の検討
公益通報を理由とする不利益取扱いについては、公益通報者保護法では、公益通報を理由とする解雇の無効とそれ以外の不利益取り扱いについての禁止が規定されていますが、その違反については民事救済に委ねられています。この民事救済だけでは、不利益取り扱いの抑止力、公益通報者の保護として十分ではなく、公益通報を躊躇させることにつながっているということが指摘され、不利益取り扱い違反に対する罰則を導入すべきではないかが課題になっています。罰則導入については従来から賛否様々な意見があり、2022年の改正では、「公益通報対応業務従事者」が公益通報者を特定させる情報を漏洩した場合の罰金刑が設けられましたが、報復的な解雇・懲戒など通報者に不利益取り扱いを行った者に対する罰則は見送られていました。
しかし、各事業者における内部通報体制が一応整備されてきても、通報した場合の不利益やしっぺ返しを受けるおそれがあれば、通報体制も十分に機能しなくなり、不正が発見・是正がなされなくなることは社会にとっても大きな問題となります。したがって、制度の実効性を一層高めるため、公益通報者に関する不利益取り扱いの抑止力を一段と強化すべきであるとして、現在進行中の検討会では、刑事罰を規定すべきという意見が大勢となってきています。
その参考となっているのは、 労働基準法が違法行為の行政機関への申告を理由とする不利益取り扱いを禁止し、その違反について罰則を設けているように、他の労働者保護に関係する法律で不利益取扱い禁止の違反に対して罰則を規定している例があることです。ただし、これらの法律に比べ、公益通報者保護法は通報先も事業者内部、権限を有する行政機関、報道機関などいろいろな場合がありますし、通報対象となる法令違反行為もバリエーションが大きいので、罰則がカバーする範囲をどこまでとするかについては、慎重な検討も必要となってきます。
国際的に見ても、法で保護される通報を理由とする不利益取り扱いに罰則を設けている国が多い状況があります。折しも、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は2023年に訪日調査を行い、その結果、様々な人権問題について我が国の課題を指摘していますが、公益通報者保護法についても、次回改正の際に内部通報者に報復する企業への罰則の導入等により通報者の保護を強化すべきことを勧告しています(2024年5月)。
検討会では、刑事罰を導入した場合に対象とする不利益行為については、解雇・懲戒を対象とすることが大勢となっていますが、その他の不利益取り扱いについて対象とするのかについて、慎重に検討を行っています。事業者に対する両罰規定の導入に向けた議論も進んでいます。
その他、先ほど述べたように、様々な論点について検討を行っていますが、著作権にも少し関係しそうなこととしては、公益通報者が公益通報のために必要となる資料収集・持ち出し行為の取り扱いの問題があります。不正の証拠となる資料は、公益通報にとって重要ですが、その資料収集・持ち出しが他の法律との関係で免責となるのかどうか、解雇や懲戒の対象となるのかが必ずしも明確ではありません。そのため、公益通報に必要な行為について社会的相当性を逸脱しない限り、民事上あるいは刑事上の免責規定を設けるべきかどうかということが議論されています。
これについて何らかの免責規定を設けるべきという意見が多いものの、企業サイドからは、企業秘密等との関係で、対象範囲・要件の厳密化についての意見も出ています。事業者の有する資料をコピーや送信した場合などもフェアユースとして想定した議論がされているのかも興味がありますが、議事録からは明確でないところで、今後の議論が注目されます。
以上、内容をしぼったご紹介になってしまいましたが、報告書を年内にとりまとめる予定で検討会の議論が進められており、またこのメルマガでも適宜、法改正に向けた動向をご紹介していきたいと思います。
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