JRRCマガジンNo.395 最新著作権裁判例解説24

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジン No.395   2024/11/21
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【12/5開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ(アーカイブ配信あり)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

まだ、11月ですが店頭には「冬限定商品」が並び、世間はもう冬モードなのでしょうか?過ぎゆく短い秋を惜しむ今日この頃です。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その24)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
               横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 先月はお休みを頂戴しましたが、今回は、知財高判令和6年9月25日(令和5年(ネ)第10111号)〔幼児用椅子・不正競争行為差止等請求事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、原審において、原告らが、被告に対し、原告製品との関係において被告による被告各製品の製造販売等の行為が不正競争防止法第2条第1項第1号・第2号の不正競争行為等に該当すると主張して、主位的に不正競争防止法に基づく被告各製品の製造販売に関する差止め等を請求し、予備的に著作権法・民法に基づく損害賠償等を請求した事案であり、原告らの請求が棄却されたことから原告らが原判決の取消等を求めて控訴を提起したものです。

<判旨(※著作権関係部分のみ)>
 控訴棄却。
「原告製品は、実用に供される子供用椅子であるところ、原告らは、原告製品は、個別具体的に制作者の個性が発揮されている作品であるから、著作権法上の著作物に該当するなどと主張する。これに対し、被告は、創作性の判断に当たっては、著作権法と意匠法の適切なすみ分けを図る見地を考慮し、限定的に解すべきであるなどと主張する。
 そこで、検討すると、著作権法は「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」を目的とし・・・、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」・・・と定めるとともに、同法にいう「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」・・・と定める。なお、昭和44年5月16日の第61回国会衆議院文教委員会における政府委員の答弁によれば、同項の「美術工芸品」とは、一品制作の美術的工芸品を指すものと解される・・・。また、著作権法では、著作者の権利として著作権に含まれる権利・・・や、著作者人格権・・・、著作権の制限規定・・・等が定められ、存続期間は、原則として著作者の死後70年を経過するまで・・・とされている。
 他方、意匠法は「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」を目的とし・・・、意匠とは「物品」「の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)」「であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」・・・と定める。また、意匠権は、設定登録により発生し・・・、意匠権者の権利として、「業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する」・・・などと定めるが、人格権の規定はなく、存続期間は、原則として意匠登録出願の日から25年をもって終了する・・・。
 いわゆる応用美術の著作物及び意匠に係る法令の適用範囲や保護の条件は、ベルヌ条約・・・上、同盟国の法令の定めるところによるとされており・・・、原告製品のような実用品の形状等に係る創作を我が国内においてどのように保護すべきかは、我が国の著作権法と意匠法のそれぞれの目的、性質、各権利内容等に照らし、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図るという見地から検討する必要がある。
 しかるところ、原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても、著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立することとなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって、問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。
他方、著作権法2条1項1号によれば、「著作物」ということができるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであって、鑑賞ではない。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。
これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。
 ・・・以上を踏まえ、本件について検討すると、原告製品については、特徴①から特徴③まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、前記のとおりである。
しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び足置板がある点(特徴①)、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定する点(特徴③)からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴である。
また、これらの特徴により全体として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものである。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。
また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
 そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。」

<解説>
 今回の事案は主として不正競争防止法における商品等表示に係る不正競争行為の該当性が争われておりますが、本解説との関係では、今回も応用美術に係る著作権保護の在り方が争点となっております。原告・控訴人側の製品は判決文中に掲示されているように、応用美術の著作権保護における美の一体性説を採用した知財高裁判決(注)と同様の幼児用椅子ですが、今回の判決の全体については、応用美術の著作権保護に係る昨今の流れを汲んで、昨今の主流である分離鑑賞可能性説に立脚した説示となっております。
 今回の判決には、著作権法第2条第2項の法的性格(例示規定なのか、限定規定なのか)の点や原告・控訴人側製品における分離鑑賞可能性の有無の点等、一定部分についての判断を留保している箇所が存在していますが、応用美術に対する著作権保護は分離鑑賞可能性説に沿って判断すべきであるとしている点については裁判体としてのはっきりとしたスタンス・意図が明示されている点が特徴的です。
 即ち、著作権法と意匠法とでは各々の法目的やそれに応じた制度設計がなされており、国際条約との関係から見ても両法間の保護の在り方については適切な調和を図る観点から考える必要があること、この点で美の一体性説に沿って応用美術の著作権保護の在り方を判断すると却って著作権法の目的に背馳することになりかねず解釈論として調整を図るには限界があること、視覚を通じて美感を起こさせる実用品については意匠法の保護が妥当し且つ通常はそれで足りるものと考えられることの諸点が述べられており、巨視的には、現行法制上、応用美術は基本的に意匠法で保護されるべきものであり、意匠法との調整関係が実際上破綻しない限度において著作権法による保護も認められ、それ故に応用美術の著作権保護については分離鑑賞可能性説に沿って判断されるべきである、といった思想に立っているものと思われます。
 なお、今回の判決においては、分離鑑賞可能性説による判決が類似的に使用してきた判断基準に加えて「当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合」についても著作権保護が及ぶ旨の説示があります。抑々、今回の判決においては「実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであって、鑑賞ではない」と断じられており、このことからすると「専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められる実用品」というのは論理的に不可思議な感じもするのですが、この部分の説示はその直前の「実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合」と並列的に記載されていることに鑑みると、実用品における美的鑑賞の対象が部分的に又は全体にわたって存する場合の後者を意味するものなのであろうと解されるところです。
そして、原告・控訴人サイドの製品に対する具体的な当て嵌めの箇所では「その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない」と判示されていることからすると、この後段の判断基準については一品製作の壺のような、当に第2条第2項が規定する美術工芸品が典型的な想定例として捉えられているものと考えられるところであり(さらにいえば、当該箇所に続く部分で美術工芸品について言及されている)、今回の判決の判断基準については従来の裁判例における分離鑑賞可能性説から逸脱した独自基準を立てているものではなく、寧ろ従来の裁判例の判断基準を踏襲しているものと評価できましょう。
 約10年前の知財高裁判決で美の一体性説に基づく判断が示された同じ幼児用椅子の著作権保護の在り方について、別の裁判体とはいえ、同じ知財高裁において今度は分離鑑賞可能性説に基づく判断が示されたことは、応用美術に対する著作権保護の問題に対して、下級審レベルの実務では当面のピリオドを打った象徴的な事案であったと言えるのかもしれません。今回は以上といたします。

(注)知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP_TRAPP事件〕

◆◇◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2】【12/5開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ(アーカイブ配信あり)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
今年度2回目となる、JRRC著作権講座”中級”を開催いたします。

本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。
※本講座はお申込みいただいた方限定でアーカイブ配信を行います。

★日 時:2024年12月5日(木) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 第1部 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物)
           特集①著作物について(境界領域)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの管理事業について
13:10 ~ 14:15 第2部 著作権制度の概要2(著作者、権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:30 第3部 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
15:30 ~ 15:40 休憩
15:40 ~ 16:40 第4部 特集②著作権の集中管理と独占禁止法
16:50 終了予定

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/241114-2/ ★

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      インフォメーション
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

JRRCマガジンはどなたでも読者登録できます。お知り合いの方などに是非ご紹介下さい。

□読者登録、配信停止等の各種お手続きはご自身で対応いただけます。
ご感想などは下記よりご連絡ください。
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

■各種お手続きについて
JRRCとの利用契約をご希望の方は、HPよりお申込みください。
(見積書の作成も可能です)
⇒https://jrrc.or.jp/

ご契約窓口担当者の変更 
⇒https://duck.jrrc.or.jp/

バックナンバー
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      お問い合わせ窓口
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━        
公益社団法人日本複製権センター(JRRC)
⇒https://jrrc.or.jp/contact/

編集責任者 
JRRC代表理事 川瀬真
※このメルマガはプロポーショナルフォント等で表示すると改行の位置が不揃いになりますのでご了承ください。
※このメルマガにお心当たりがない場合は、お手数ですが、上記各種お手続きのご意見・ご要望よりご連絡ください。

アーカイブ

PAGE TOP