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JRRCマガジン No.332 2023/08/10
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説
【2】受付中!「2023年度著作権講座 中級 オンライン」開催について (無料)
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皆さま、こんにちは。
立秋とは名ばかりの厳しい暑さが続いています。
いかがお過ごしでしょうか。
さて今回から新たに井奈波弁護士によるフランスの著作権制度に関する解説が始まります。
井奈波先生は、長年知的財産法を中心とした弁護士活動に従事され、特にフランスの著作権制度には造詣が深く、また、文化審議会著作権分科会専門委員等の公職も歴任されており、社会貢献の面でも顕著な功績を重ねておられます。
*お盆休みのため、次週8月17日(木)の配信は休止となります。
次回の配信は8月24日(木)です。
◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
フランス著作権法の過去から現在
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はじめに
今回、フランス著作権法について連載させていただくことになりました弁護士の井奈波朋子と申します。自己紹介をかねて、なぜ私がフランス著作権法に興味を持つようになったのかについて一言書かせてください。私は、子供のころ、アレクサンドル・デュマの三銃士が好きで、フランスに興味を持つようになりました。大人になり全巻読むとさらに面白く、フランス旅行=聖地巡礼をしていました。ところで、デュマは、著作権訴訟に巻き込まれています。小説のブレインとしてマケという歴史家がついていたのですが、マケは自分が著作者であると主張したのです。訴訟ではデュマが勝ちましたが、19世紀終わりにこのような裁判があったことに驚きを感じました。
このようなきっかけで、趣味的にフランス著作権法を勉強するようになったという経緯もあり、また本連載にあたっては、制度の大枠を理解できるような内容というリクエストをいただいておりますので、メルマガとして楽しめるよう進めたいと思っております。
なお、フランス語表記に関しては、文字化けを回避するため、アクセント記号をつけておりませんので、ご了承ください。
最初に、フランス著作権法の特徴を一言で表せば、かなり混沌(カオス)な世界といえます。フランスの場合、特に、判例データベースや判例解説に著作物や侵害品の目録がないという致命的問題があります。しかも、フランスの最高裁である破毀院の判決には、先例拘束性がないとされます。また、論文などを読んでいても、ここは明確ではないという記述が多く、結論部分をオープンクエスチョンで終わりたがるという特徴もあります。そのため分かりづらい面が多々あるのですが、このようなカオスのなかから試行錯誤し、真理を見出して今に至っているところには、尊敬の念が湧いてきます。読者の皆さま方には、カオスなフランス著作権法の世界にお付き合いいただければと存じます。
1 フランス著作権法とは
まず、フランス著作権法とは、という基本的な事柄から入ります。フランスには、かつては独立した著作権法がありました。しかし、1992年に知的財産法典(le Code de la propriete intellectuelle)が整備され、独立の法律は廃止されました。知的財産法典では、法律の部第1編が著作権、第2編が著作隣接権、第3編が著作権・著作隣接権、データベース製作者の権利に関する一般規定を定めていて、これらが日本でいう著作権法に相当します。なお、第4編以下は工業所有権に関する規定がおかれています。したがって、ここで「フランス著作権法」というときは、知的財産法典の第1編から第3編を指します。
2 二通りの表記
フランス語で著作権という場合、二通りの言い方があります。伝統的には、著作権は、文学的・美術的所有権(les proprietes litteraires et artistiques)といいます。ヴィクトル・ユゴーが設立した国際著作権法学会の略称は、ALAIといいますが、association litteraire et artistique internationale の略で、直訳すると国際的文学美術団体となり、それが国際著作権法学会と訳されています。
ただ、著作権は文学・美術だけを対象としているわけではありません。そこで、最近では、著作者の権利(le droit d’auteur)という言い方が一般的になっています。知的財産法典で著作権というときも、著作者の権利(le droit d’auteur)という用語を用います。また、著作隣接権は、著作者の権利の隣接権(les droits voisins du droit d’auteur)といいます。この「voisin」はお隣さん・ご近所さんの意味で、著作隣接権には実演家の権利やレコード製作者の権利など複数の権利があるので、権利のdroitに複数形のsがついています。
3 フランス著作権法の歴史的発展
では、フランス著作権法がどのように進展したか、歴史をざっとみていきます。フランス法は、講学上、フランス革命(1789年)までの古法時代、フランス革命からナポレオン法典の編纂(1804年)までの中間法時代、ナポレオン法典以降の近代法時代に区分されています。
著作権は古法時代に萌芽が見られますが、この時代は、王の与えた特権でしかありませんでした。ところが、1789年7月14日にバスティーユが襲撃されフランス革命が勃発し、同年8月4日の法によりすべての特権が廃止されてしまいます。その後、著作権に関する二つの法律が制定されます。上演・演奏権を定めた1791年1月13-19日法、複製権を定めた1793年7月19-24日法です。ちなみに1793年は、ルイ16世とマリーアントワネットが処刑された年でもあります。著作権法は、民法典(1804年)よりも早い時期に成立したわけです。
この2つの法律は、改正を重ねながら、1957年法の成立により廃止されるまで約150年間の長きにわたり適用されます。この150年間では、判例や学説を通じて理論が発展し、現在の著作権法の礎が構築されました。たとえば、1902年法では、フランス著作権法の特徴の一つである美の一体性の理論(価値や目的を問わず著作物を保護する規定で、純粋美術であろうと応用美術であろうと同等に著作権法により保護されることとなりました)が明文化され、1920年法では、美術の著作権に関する追及権が欧州で初めて導入されました。
このように約150年間もの間、法に定めのない問題を判例で補うなどして対応していたのですが、法的に不安定な状態を作り出していました。さらに、フランスは、ベルヌ条約、万国著作権条約を批准していたにもかかわらず、条約の内容が法に反映されていない状態が生じていました。これまでの判例法理と学説を成文法化した新法が成立したのは、1957年のことです。
1985年には重要な改正がおこなわれ、このとき、コンピュータ・プログラムの著作権法による保護、私的複製に対する報酬制度、著作隣接権が新設されます。ここから、技術革新への対応や産業保護が、著作権法に取り込まれるようになったといえます。1992年には、これまでの著作権法は法典化とともに廃止され、現行の知的財産法典の形となりました。
4 2000年以降の動向
法典化後は、主に欧州指令を国内法化するための改正が頻繁に行われています。なかでも重要な改正は、2001年の欧州情報社会指令を国内法化した2006年の改正と、2019年の欧州デジタル単一市場指令を国内法化した最近の一連の改正です。
私見ですが、情報社会指令を国内法化した2006年ころと、デジタル単一市場指令を国内法化した最近では、フランスの対応に大きな変化がみられるように思います。当初、フランスは、欧州との関係において変なところで自己主張をしていたように感じます。たとえば、譲渡権を規定しないまま消尽を規定したり、公貸権を規定して貸与権は規定しないといった謎のこだわりが見られます。
これに対し、近年は、欧州の中で特徴を出そうと頑張るより、欧州の一員として、世界をリードしようという方向性を感じます。その背景として、デジタル化やネットワーク化により台頭してきた米国勢に対する牽制があるように思います。その発端として、Google Booksの問題が挙げられます。Googleによる文化財のデジタル化という問題に直面して、欧州では図書館のポータルサイトとしてEuropeanaが立ち上がりましたが、フランス国立図書館はデジタル・コンテンツの提供に最も貢献しています。また、デジタル単一市場指令では、Googleなどニュースアグレゲーターがコンテンツを利用していることを問題視し、プレス隣接権が導入されましたが、フランスはいち早くプレス隣接権を国内法に取り入れ、自国での裁判や交渉を有利に展開しています。著作権のほか、個人情報保護に関する欧州の一般データ保護規則(GDPR)は無視できないものになっていますが、フランスの情報保護機関CNILは個人データ保護をリードする存在となっています。
このように、フランスは欧州において強い存在感を示しています。欧州において著作権法のハーモナイゼーションが進む中、フランス著作権法の特徴はどこにあるのか、これからの連載で考察していきたいと思います。
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【2】受付開始!「2023年度著作権講座 中級 オンライン」開催について (無料)
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今回はJRRC著作権講座”中級”を開催いたします。
本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。
★日 時:2023年8月24日(木) 10:30~16:40★
プログラム予定
10:35 ~ 12:05 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの紹介
13:10 ~ 15:20 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
15:20 ~ 15:30 休憩
15:30 ~ 16:30 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
16:40 終了予定
★ 詳しくはこちらから ★
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