JRRCマガジンNo.331 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)17 著作権(7)

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JRRCマガジン  No.331 2023/08/03
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)17
【2】受付中!「2023年度著作権講座 中級 オンライン」開催について (無料)
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皆さま、こんにちは。

土用あけの暑さひとしおです。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)17━━━
 Chapter17. 著作権(7)
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                              明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1. はじめに
 今回は、イギリス著作権法(1988年CDPA)で保護される著作権のうち、許可(authorization)に関する権利(16条2項)について、日本の著作権法においてこれと相当する権利との比較の視点から見ていきます。この権利については、侵害に関する責任の法理として整理することもできますが、イギリスの典型的な知的財産法の教科書では、著作権により規制される行為として「許可権」を列挙するものもあるので(後述するBently先生らの教科書など)、いままでの連載の流れで、権利のひとつとして紹介します。
 これまでみてきた複製権、頒布権・実演権・上映権・演奏権、公衆への伝達権、翻案権といった権利は、権利者の側からみると、複製や頒布など著作権により制限される行為を行う権利を与えられるという側面を持ちます。つまり、著作権者であれば、複製や頒布などの行為を行って良いということです。
 これに対して、今回みていく許可権は、これらの制限された行為のいずれかを行うことを他人に許諾する権利を意味しています。これはどのような権利なのか、みていくことにしましょう。
 なお、オーソライゼーションという権利をどのように訳すかは悩むところですが、ここでは「許可権」と訳して説明します(「許諾」と訳する邦語資料もあります)。

2. 許可権の存在する意義
 日本の著作権法を学んだかたはわかると思いますが、我が国ではこのような権利をわざわざ定めていません。日本の著作権法の理解では、たとえば、著作物の複製、演奏、公衆送信といったいわゆる「法定利用行為」に対応するものとして、それぞれ複製権、演奏権、公衆送信権といった権利を把握します。しかし、これらの著作権の支分権により制限された行為を他人に許諾する権利を、少なくとも著作権の支分権としては捉えないのです。
 日本では、著作権は、他人による無許諾の著作物利用を禁止する効力をもち(排他的効力)、その反面として、その排他的効力(差止めや損害賠償)を他人に対して行使しないという契約を結ぶことができ、それを利用許諾契約と呼んでいます。わざわざ、許可権といった概念を措定しません。
 イギリスではなぜこのような権利があるのでしょうか。イギリスで許可権が導入されたのは1911年著作権法でした。そのときは、この権利は余分であり、同語反復であると言われたそうです(Bently, Lionel; Sherman, Brad. Intellectual Property Law, 4th ed., OUP, 2014, p.171)。というのも、日本法はそのように理解しているように、ある行為を行う排他的権利は、その行為を許諾する権利があることを当然に含意するからです。
 もちろん、イギリスでも、許可権があるから利用許諾契約を結ぶことができる、という説明をできなくはないでしょう。
 しかし、イギリスにおける許可権がもつ意義は、むしろ著作権侵害行為に何らかのかたちで関与した者や関連性を有する者の行為をカバーするという役割を果たすという点にあるようです。つまり、複製、頒布・実演・上映・演奏、公衆への伝達、翻案といった行為を直接に行なっていない者に対して、著作権者は、許可権を行使することができます。
 この点について、日本の著作権法の考え方では、複製や演奏などの法定利用行為を直接行なっていない主体に対して、どのように責任を問うのかという議論として、規範的侵害主体論があります。いわゆる手足論やカラオケ法理(現在では総合考慮型の法理に発展)です。
 日本法の文脈に近づけて理解するのならば、イギリス著作権法では、法定利用行為に許可権なるものを入れてしまうことで、日本のような(法定利用行為を理論的に拡張する側面のある)規範的侵害主体論を避けることができるのだと言えます。しかし、結局のところは、「許可する」とはなにか、他人によるどのような行為まで含むのか、という点は議論として残ります。

3. 許可という文言の意味
 イギリスの著作権法において、「許可する」とは、ある行為を認可すること、同意すること、承認すること、あるいはその代わりに、ある行為を行う権利を第三者に付与すること、あるいは付与するとすることを意味するとされてきました(Falcon v Famous Players [1926] 2 K.B. 474,491, CBS v Amstrad [1988] AC 1013)。
 したがって、ある著作物について著作権がないにもかかわらず、他人に対して著作物の利用を同意したり、承認したりすれば、許可権を侵害する可能性があります。
 この場合において、著作物を利用する権利を勝手に許可された第三者が、実際に侵害行為を行わなければ、許可権の侵害にはなりません(Nelson v Rye and Cocteau Records [1996] FSR 313,337)。
 他方で、第三者によって行われる侵害を構成しうる行為が、英国外で行われた場合でも許可権の侵害は成立するとされています(ABKCO Music & Records Inc v Music Collection International Ltd [1995] R.P.C. 657; Football Dataco Ltd v Sportradar GmbH [2010] EWHC 2911 (Ch) [30])。このことは、インターネットを介するネットワーク型の侵害行為について許可を与えたかどうかが問題となる場合に重要な意味をもちます。

4. 許可権が適用される類型とその判断要素
 許可の概念が適用される場面は、二つに分けられると言われています。(1)間接責任(vicarious liability)の範囲を拡大する場合と、(2)侵害を可能にしたり、容易にしたりする機器その他の手段を製造・供給する者への適用の場面です(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.195, 以下 Bently (2022)とする)。
 (1)は、典型的には、著作権を侵害する実演家を雇う者が挙げられます。この場合、雇い主が、演奏される曲目を知っていたり、演奏されるレパートリーをコントロールしなかった場合には、許可責任が問われます。しかし、実演家に警告が出されており、雇い主が予想できないアンコールによって侵害がなされたような場合、許可責任は問われないようです(Bently (2022), p.195で紹介されているPRS v Bradford Corporation (1921) [1917-23] MacG CC 309, 312-13, 314。MacG CC は、MacGillivray’s Copyright Casesという判例集ですが入手できないので出典のみ引用)。
 (2)は、典型的には、映画館にフィルムを供給する者、レコードを貸し出す際にブランクテープを公衆に販売する者、図書館でコピー機器を利用できるようにする者、テープのダビング機を販売する者などについて、許可権の侵害が議論の的になてきたようです(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.195参照)。
 ただし、(2)の類型について、定型化された一部の行為は、著作権の二次侵害行為として規定されています(24条から26条参照)。たとえば、侵害複製物の作成手段となる「専用機器」の製造・販売等は、24条により二次侵害行為を構成します。日本の著作権法でいえば、これらは「みなし侵害規定」と把握できるでしょう。
 他方で、汎用的な複製機器や媒体は、24条の対象にならないので、許可責任の有無が別途問題となります。
 CBS Songs v Amstrad事件は、このような汎用的な複製機器に関する事案でした。この事案において貴族院は(イギリスでは2009年に最高裁判所が設立されましたが、それまでは中世以来、貴族院が最高裁判所の機能を果たしてきました)、高速ダビング機能をもつ機器の販売やコピーができることを謳い文句とする広告のいずれについても、許可には該当しないという判断をしています(CBS Songs Ltd v Amstrad Plc [1988] A.C. 1013)。この事件において、被告は、特定のタイプのコピーには許可が必要であるとの注意書きをして警告をしていました。貴族院が非侵害の判断をしたポイントは、著作権を侵害するか否かは利用者の判断に委ねられており、被告もレコードをコピーする許可を与える権限を有すると偽っていたわけではなかったことによります。
 (2)の手段の提供型の許可に関する最近の判例の傾向は、網羅的ではない諸要素を考慮するテストを採用しています(Twentieth Century Fox Film Corp v Newzbin Ltd [2010] EWHC 608(Ch) at [90]; Warner Music UK Ltd v TuneIn Inc [2019] EWHC 2923 (Ch) at [197])。具体的には、以下の要素が考慮されます。

・許可を与えたとされる者と第一次侵害者との関係の性質、
・提供された機器またはその他の素材が侵害に使用された手段であるかどうか、
・侵害に使用されることを避けられないかどうか、
・供給者による支配の程度と、供給者が侵害防止の措置を講じたかどうか

 そして、これらは考慮すべき事項であるが、他のすべての状況によっては決定的になることもあれば、ならないこともあると強調されています(Twentieth Century Fox Film Corp v Newzbin Ltd [2010] EWHC 608(Ch) at [90])。

5. 日本の規範的侵害主体論への示唆
 Twentieth Century Fox Film Corp v Newzbin Ltd事件は、Usenetを通じたファイル共有に関連したケースです。その後も、イギリスでは、Bittorrentサイトやストリーミングサイトに関する裁判で、許可権の侵害に関する判断が下されています。
 前述のように、イギリスの著作権法において、許可の概念が適用される場面は、主に二つに分けられます。これらは、日本の法における規範的侵害主体論に関連し、(1)は、「手足論」が問題となる場面、(2)は、カラオケ法理やその後の総合考慮型法理が問題となる場面、に対応します。 
 日本では、規範的侵害主体論に関して、最高裁におけるロクラクⅡ事件判決(最判平成23年1月20日民集65巻1号399頁)が、諸要素を総合的に考慮して行うという方向性をはっきりと示しています。
 他方で、学説では、東京大学の田村善之教授が「総合考慮型の法理は柔軟に過ぎ、予測可能性を欠くことに加え、法で規律すべきか否か、規律するとしていかなる法制度にすべきかということに関し、元来、立法的調整に委ねるべき課題に司法が踏み込むことを許容する点で大きな問題を抱えている」と批判しています(田村善之『知財の理論』(有斐閣、2019年)296頁)。
 イギリスの許可責任の考え方も、責任主体を決定する際の総合考慮型の法理と言えます。ただし、イギリスの法制度と日本の法制度は、基本的な枠組みが大きく異なります。イギリスは基本的に判例法の国であるため、日本の規範的侵害主体論における総合考慮型法理に対する場合のように、立法的な調整が必要な問題に対して司法が介入しているという批判は、直接当てはまりません。
 イギリスの判例が許可の有無については定型的な判断ではなく、総合考慮型の判断を採用していることから、日本の規範的侵害主体論について立法的な調整を行うことにも、明確な解決策はないのかもしれません。利用主体を特定することは、どのような場合でも困難を伴います。
 規範的侵害主体論を立法論として扱うとしても、結局、社会的、経済的な観点から見たときに許容される行為について、新たな権利制限規定を追加したり、みなし侵害による侵害類型を追加する方向に進んだりするほか、方法はないのではないでしょうか。
 ハリーポッターの国にも、全てを解決する魔法の杖は存在しませんでした。
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【2】受付開始!「2023年度著作権講座 中級 オンライン」開催について (無料)
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今回はJRRC著作権講座”中級”を開催いたします。
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★日 時:2023年8月24日(木) 10:30~16:40★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの紹介
13:10 ~ 15:20 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
15:20 ~ 15:30 休憩
15:30 ~ 16:30 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
16:40 終了予定
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