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JRRCマガジン No.330 2023/7/27
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その4
【2】受付開始!「2023年度著作権講座 中級 オンライン」開催について (無料)
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皆さま、こんにちは。
入道雲が空に映え、まぶしい夏の到来を告げています。
いかがお過ごしでしょうか。
さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。
福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/
◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その4━━
けっこう大変な『社員出版』 上
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福井 明
「記者は、本を出したいんだなあ」。毎日新聞で著作権管理の仕事をし、その一環で長年、社員による出版の事務を担って、ずっとそう感じていました。今回は、社員出版に関する話を記したいと思います。「この本の著作権者を会社として妥当か」などと、けっこう頭を悩ませてきました。思い入れが深い仕事だったので、2回にわたって書きたいと思います。
毎日新聞で、社員が本を出す場合の手続きの概略は、以下のようになります。①直属の部長や局長の承認印を捺した出版届出書を知財管理センターに提出②関係局幹部らでつくる委員会が本のゲラを読み、著作権者(筆者か会社か)などを判定③知財管理センターが出版社と契約交渉(会社が著作権者になった場合)――です。
出版届出書は、記者が出版社から声をかけられ、同意した段階で速やかに出してもらいます。これが一般的ですが、さらに、まず本の原稿を書き、それから出版社を探す場合、あるいは出版社のノンフィクション作品コンクールに応募する場合などにも出してもらいます。出版届出書は、結果的に本にならなかったケースを含め、毎年数十件出されていました。
この届出書は、社員出版の社内手続きの第一歩になる訳ですが、ある大きな意味を持ちます。それは、会社として、社員のだれが、どこの出版社から、どのような本を出すのかを「初めて知る」ということです。出版社の編集者は、新聞の事件記事、特集記事、連載などを丹念に読み、「これは」と思ったら、執筆した記者に直接、連絡を取り、「うちから本を出しませんか」と働きかけます。しかし、この際、広報や知財管理センターといった新聞社の窓口に連絡をすることはありません。記者の上司の部長への連絡もまずありません。部長は記者から聞いて、初めて出版話を知るというケースが大半です。
私や知財部門は当然、記者の表現活動を尊重しています(私も長く記者でした)。本を出版してもらえるのは、すばらしいことです。しかし、出版社が、このように記者にのみ接触し、「一本釣り」をすることを、私はずっと、問題ではと思ってきました。記者は作家ではなく、新聞社の従業員です。加えて、これは後で述べますが、記事を基にした本の著作権はまず間違いなく新聞社が持ちます。つまり、他社(新聞社)の従業員(記者)と著作物(記事)を使って、自社の商品(本)を作ると言える訳ですから、最初から「会社」と「会社」のビジネス協議にすべきだと考えます。
例えば、新聞社が出版社の社員に直接、声をかけ、出版社には一切ことわらず、新聞社の商品作りをさせる、ということがあるでしょうか。それはありえません。毎日新聞ではかつて、そういう不思議なことが出版社から日常的に行われていました。
出版関係者によると、新聞記者は「筆者としてありがたい存在」だそうです。取材・執筆について訓練されているライターであり、締め切り時期までに一定水準の原稿を出してくれるからです。そして大事なことですが、原稿に「フィクション」をまじえることはまずありません。原稿を信用できる訳です。そして、社会的なビッグニュースを取材した記者なら、その取材体験を本にすれば売れる可能性が高いと、出版社は見込めます。また、記事のテーマは地味かもしれないけれど、出版社の編集者が本にする価値があると考えるケースもあります。「編集者は新聞記事を本当によく読んでいる」と、私は思っていました。
編集者が新聞社には連絡せず、記者にだけ声をかけてくるのは、記者を「作家扱い」しているからだと思います。記者は新聞社の従業員であること、書いた記事の著作権は新聞社にあることを、深く考慮しているようには見受けられないのです。
こんなことがありました。数年前、ある記者が特集記事を書き、それを読んだ大手出版社の編集者が声をかけ、記者はその出版社から単行本を出しました。この本は、社の委員会の判断で「著作権者は会社」と決まりました。特集記事が本のベースなので、この判断は妥当だと思います。この決定を受け、知財管理センターの私が編集者に連絡し、契約交渉を始めたところ、編集者は「印税率1%相当分は、取材に協力してくれた主人公に支払う。これは私と筆者で決定済み」と言うのです。
私は「毎日新聞社は、社の規定に基づき、本の著作権者を会社だと判定した。だから、印税率など出版契約の交渉をするのは、会社の知財管理センターであり、記者ではない。著作権者の本社を入れずに印税の配分を決めるのは、おかしいのでは」「そもそも本の基の記事の著作権者は新聞社。したがって、新聞社が本の著作権の最低でも一部を持つことは、プロの編集者なら最初からご存知だったはず」と、抗議しました。編集者は「筆者が会社と話していると思っていた」と答えましたが、記者を「作家扱い」し、新聞社と連絡を取らなかったことが問題の原因でした。なお、この件は仕切り直しをし、本社も合意して、主人公に印税の一部を分配することにしました。
著作権者の判定について記したいと思います。毎日新聞では、顧問弁護士事務所と2年間相談し、2017年に社員出版の規定を大幅に改定しました。新聞記事をベースに加筆して本にする一般的なケースに加え、記事として掲載したことがなくても、記者が長年の取材で得た体験や知見に基づいて書いた本なども、会社を著作権者にしました。それまでの旧規定では、「業務の取材で得た情報」を基にした本の著作権者は会社でしたが、「業務の取材に伴って得た情報」による本は筆者と会社が著作権を共有するという条項がありました。この「伴って得た」の定義付けが不明確で、筆者と知財管理センターでもめるケースがありました。このため、改定した規定では、会社が著作権者になるケースをより具体的にしました。
ただ、印税については会社から筆者への「報奨金」として、その大半を筆者に支払います。社員出版規定の中心的な考え方は、「著作権は会社へ。おカネは筆者へ」です。筆者である記者は、いつかは、あるいは急に退社します。一方、ノンフィクションの本はよく、海外の出版社から翻訳出版の要請を受けます。また、ケースは少ないですがドラマや映画の原作になったりします。このように二次的利用をされる可能性が高いので、著作権は会社が持っておく方が妥当性が高いと考えました。
そして、出版契約交渉についてです。一番のポイントは、やはり印税率になります。近年では、新書の印税率は一定水準ですが、単行本の率は下がっているように見受けられます。出版社から低い率を提示されると、理由を詳しく尋ねたりします。また、印税率の基を「定価×発行部数」とするか、「定価×販売部数」とするかも交渉の争点です。新聞社としては、印税が売れ行きに影響されない「発行部数」基準を求めています。
さらに、二次的利用の条文をどう書くかが最近のホットな焦点になっています。毎日新聞は以前から、「二次的利用希望者との交渉は出版社を窓口とする。ただし、具体的条件は本社と協議して決める」としてきました。しかし、このところ出版社側が「出版社が二次的利用希望者に再許諾する。新聞社はそれを認める」との条文を主張するケースが増えています。要は二次的利用の許諾権を新聞社と出版社のどちらが持つかです。著作権者である新聞社としては、これは譲れない部分です。この点だけで約2カ月間交渉したこともありました。
次回は、社員出版の仕事をしていて、「うーん」とうなったことなどを記したいと思います。
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【2】受付開始!「2023年度著作権講座 中級 オンライン」開催について (無料)
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今回はJRRC著作権講座”中級”を開催いたします。
本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。
★日 時:2023年8月24日(木) 10:30~16:40★
プログラム予定
10:35 ~ 12:05 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの紹介
13:10 ~ 15:20 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
15:20 ~ 15:30 休憩
15:30 ~ 16:30 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
16:40 終了予定
★ 詳しくはこちらから ★
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