JRRCマガジンNo.322 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)15 著作権(5)

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JRRCマガジン  No.322 2023/06/01
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)15
【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)受付中!
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皆さま、こんにちは。

アマリリスが鮮やかな赤い花を咲かせています。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)15━━━
 Chapter15. 著作権(5)
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                 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1. はじめに
今回は、イギリス著作権法(1988年CDPA)で保護される著作権のうち、公衆への伝達権(20条)について、日本の著作権法において相当する権利との比較の視点も踏まえつつ、見ていきます。

2. 公衆への伝達権

2.1. はじめに
公衆への伝達権は、文芸、演劇、音楽又は美術の著作物、録音物又は映画、放送に対して与えられていますが、発行された版の印刷配列(いわゆる版面権)には、与えられていません(20条1項)。この権利には、たとえば著作物を放送することを含みますが、書籍の版面が権利者の許諾なく放送で紹介されたとしても、内容を構成する文芸の著作物に関する公衆への伝達権の侵害は成立しますが、発行された版の印刷配列に関する著作権の侵害は成立しないことになります。

この権利の対象となる行為は、「公衆への伝達とは電子的送信により公衆に対して伝達することをいい、以下の著作物に関するものを含む。」(20条2項柱書)とされています。「以下」のこととは、(1)著作物を放送することや(20条2項(a))、(2)公衆の構成員が個々に選択した場所から、個々に選択する時間にアクセスできるような方法で、電子的送信によって公衆に利用可能にすること、をいいます(20条2項(b))。

(2)は、ヨーロッパの議論の文脈では、利用可能化、平たく言えば、オンデマンドの権利となります。そして、公衆への伝達には、(1)と(2)を「含む」ということなので、(3)それ以外の公衆への伝達もある、ということになります。

したがって、イギリス著作権法における公衆への伝達権は、(a)放送、(b)利用可能化、(c)その他の公衆への伝達、が対象となるということになります。

そして、このイギリスにおける公衆への伝達権は、日本の著作権法でいえば、23条に定める公衆送信権(送信可能化の権利も含む)に、おおむね相当するものと考えてよいでしょう。

2.2. 公衆への伝達権と利用可能化権との区別
1988年に現行法が制定された時点では、イギリス著作権法に公衆への伝達権の定めはありませんでした。他方で、放送や有線番組サービスにおいて著作物を使用することを制限する規定はありました。

その後、EUでは2001年の情報社会指令は、1996年の2つのWIPO条約(WCTおよびWPPT)の要件を実現するために、著作権としての公衆伝達権(公衆への利用可能化も含む)と、実演家・レコード製作者・放送事業者等に対する利用可能化権について規定しました(情報社会指令3条1項・2項)。当時イギリスはEUに加盟していましたので、同指令を実装する上で、1988年CDPA20条を改正し、公衆への伝達権を導入しました。

ただし、ヨーロッパの議論の文脈では、利用可能化は、オンデマンドの権利であり、放送は含まれないと考えられています。そうしますと、イギリス著作権法20条の規定はレコード製作者や放送事業者にも、(放送を含む)公衆への伝達権が付与されているので、情報社会指令の範囲を超えた保護であるとも言われています(See G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021)para., 7-215)。

なお、日本ではWIPO条約の利用可能化の権利を、送信可能化権という形式で著作権法に導入しています。

2.3. 公衆への伝達権と、公の実演権・上映権・演奏権との区別
公衆への伝達、という言葉をみると、公の場で著作物を実演したり、上映したり、演奏したりすることも含むように読めます。しかし、これらの行為と公衆への伝達は区別される概念とされています。

どのように区別されるのかというと、公衆への伝達権における「公衆への伝達とは電子的送信により公衆に対して伝達すること」という定義に基づいて、区別されるようです。つまり、公衆への伝達権は、伝達の発信地に存在していない公衆への伝達に限定することを明らかにするものであると言われています(Laddie Prescott and Victoria, The Modern Law of Copyright, vol.1, 5th ed., LexisNexis Butterworths, 2018, p.810)。

言い換えれば、公衆への伝達権は、公衆が俳優または実演家と直接物理的に接触している実演による伝達とは、区別されるということになります(See G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) para.7-192)。

3. 放送
放送については、以前にも述べましたが、「視覚的影像、音、その他の情報の電子的送信であって、(a)公衆の構成員が同時に受信するために送信され、かつ、それらの者が適法に受信することができるもの、又は(b)公衆の構成員に提供するために送信する者が独自に決定する時間に送信されるもの」と定義されています(6条1項)。「電子的送信」には、有線と無線の両方の手段による伝送を含んでいます。

この放送の定義は、ラジオ放送、テレビ放送、地上波、衛星放送、アナログ放送、デジタル放送を含むものです。しかし、(a)において、同時受信という条件があるため、オンデマンド送信は除外されています。

インターネット送信(internet transmission)は、原則として放送から除外されていますが、放送に含まれるいくつかの例外があります(6条1A項(a)-(c)号)。その例外の一つは、放送と同時になされるインターネット送信です(6条1A項(a)号)。

4. 利用可能化
放送は同時受信を前提としていますが、利用可能化のほうは、「公衆の構成員が個々に選択した場所から、個々に選択する時間にアクセスできるような方法で、電子的送信によって公衆に利用可能にすること」とされているので、個別の電子的送信を含んでいます。

したがって、典型的な利用可能化の例としては、オンデマンド配信や、Webサイトからの配信が対象となります。しかし、コンテンツそれ自体へのアクセスを可能とする場合だけでなく、コンテンツのインデックス化やアグリゲーションなど、侵害コンテンツへのアクセスをユーザーに提供する意図的な介入も、この権利の対象として制限されます(Laddie Prescott and Victoria, The Modern Law of Copyright, vol.1, 5th ed., LexisNexis Butterworths, 2018, p.813)。

5. 公衆への伝達の侵害判断における3要素
公衆への伝達の侵害の有無については、(1)伝達行為の有無、(2)公衆に対するものか否か、(3)当該伝達が許可されたものかどうか、という3つの点から判断されます(G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) para. 7-226)。

5.1伝達の有無
伝達については、放送、利用可能化、その他の公衆への伝達があることは、先に述べた通りです。伝達は、著作物にアクセスが可能な状態となることを意味し、実際にアクセスされる必要はありません(Sociedad General de Autores y Editores de Espana (SGAE) v Rafael Hoteles SL (C-306/05) [2007] at [43],)。

伝達という要素についてですが、その全体(開始から受領)までの行為には限定されず、その過程で発生する第三者の介入行為も、コミュニケーション行為を構成することがあるとされています。たとえば、放送事業者が信号配信事業者を通して最終的な受信者が放送を受信する場合、放送事業者だけでなく、設備を提供した配信事業者による介入行為も、伝達として評価されます(G. Harbottle, N. Caddick, U. Suthersanen, Copinger and Skone James on Copyright (18th edition, Sweet & Maxwell 2021) para. 7-232)。

また、インターネット上の著作物へのハイパーリンクの提供も、伝達該当性が問題とされた事例があります。

5.2 公衆の要件

公衆の要件については、「公衆」の概念の解釈においては、特に、伝達の範囲に含まれる集団の大きさと、その集団の「不特定性」等の 2 つの要素が重要であるとされています(Jonathan Griffiths, Lionel Bently, William R. Cornish, 2 International Copyright Law and Practice UK § 2 (2021))。

欧州司法裁判所の判例によれば、情報社会指令3 条1項の意味における「公衆」という用語は「不特定多数の潜在的聴衆を指し、さらに、相当に多数の人々を意味する」とされること、また、「相当に多数の人々」については、「公衆の概念が、ある最小限の閾値を包含していることを示すものであり、小さすぎる、あるいは些細な人の集団をこの概念から除外するものである」とされています(Sociedad General de Autores y Editores de Espana (SGAE) v Rafael Hoteles SL (C-306/05) [2007] at [84], [86])。

5.3当該伝達が許可されたものかどうか

この点については、ヨーロッパにおける議論の文脈では「新しい公衆」という概念が用いられることがあります。

これについては、さまざまな判例がありますが、ここではハイパーリンクの提供に関する事例を挙げて説明します。他人の著作物に関するハイパーリンクの提供については、基本的に、(a)権利者の許諾を得てインターネット上に掲載された著作物へのリンクと、(b)そのような許諾がない著作物へのリンクとに分けることができます

(a)の場合、欧州司法裁判所の判例によれば、リンクが「新しい公衆」へのアクセスを提供しない限り、公衆への伝達に対する責任はないとされます。

この点について、欧州司法裁判所のSvensson事件(Svensson v Retriever Sverige AB (C-466/12) [2014])では、被告が、他人のウェブサイト上の著作物に対するリンクを提供していたことについて、公衆への伝達の権利を侵害するものではないとされました。具体的には、新聞社のウェブサイトに、記事を書いたジャーナリストの同意を得て掲載され、一般公衆が自由にアクセスできる状態になっていた記事がありました。被告は、自らの顧客にそれらの記事へのクリック可能なリンクを提供しましたが、それは、記事が新聞社のウェブサイトに掲載された最初の許可において考慮されていたのと同じ公衆であったので、被告の行為は許可されたものであり、公衆への伝達権の侵害とはならないとされました。つまり、新しい公衆へのアクセスを提供していないというわけです。

なお、同事件で欧州司法裁判所は、新聞社の当該サイトにアクセス制限があり、被告の用意したクリック可能なリンクがその制限を回避することを可能としていたような場合には、公衆への伝達権の侵害となり得ることも示唆しています(Svensson v Retriever Sverige AB (C-466/12) [2014] at [31])。この場合は、新しい公衆へのアクセスを提供しているということになるわけです。

これに対して、(b) 権利者の許諾を得ないでインターネット上に掲載された著作物へのリンクに関する事例として、GS Media事件があります(GS Media BV. v. Sanoma Media Netherlands BV (C-160/15))。

GS Media事件によれば、リンク先のコンテンツが違法に公開されていた場合について、(1)営利目的でのハイパーリンクの提供があった場合、違法に公開されたことについて知っていたと推定されて、原則として著作権侵害となるとされます(ただし、違法に公開されたことの認識についての推定を覆した場合には非侵害とされます)、(2)営利目的ではないハイパーリンクの提供があった場合には、違法に公開されたことについて知っていたと推定はされず、原則として著作権侵害にはならないとされます(ただし、違法に公開されたことの認識があったか、認識するべきであったとされた場合には、侵害が成立する可能性があります)。

6. おわりに
今回は、イギリス著作権法における公衆への伝達権について見ていき、その過程で、ハイパーリンクの提供行為の扱いについても触れました。

日本の著作権法では、一般的に、単なるリンクの提供行為は、侵害コンテンツへのリンク提供であっても、あるいは、いわゆるインラインリンクであっても、公衆送信権との関係で、著作権侵害にはならないと考えられているところです。その一方で、侵害コンテンツへのリンク情報等を集約してユーザーを侵害コンテンツに誘導する「リーチサイト」や「リーチアプリ」に対しては、令和2年の著作権法改正により、明確に違法化されたところです。

イギリス著作権法における公衆への伝達に関しては、EU判例法の影響を受けながら、概念的に発展してきました。イギリスはEUを離脱しましたので、EU判例法に対する立場が変化することになります。もちろん、これからも、イギリスにおける新たな立法や判例変更等がない限り、以前の欧州司法裁判所の判例も、いわゆる「保持されたEU判例法」として、これからも運用されることにはなります。

しかし、今後、イギリスの裁判所は、公衆への伝達権をめぐる解釈論について、欧州司法裁判所に付託することはできませんので、今後のイギリスの裁判所の対応も気になるところです。欧州司法裁判所の判例を懐疑的にみていくのか、あるいは欧州の判例に順応する形で運用していくのか、いずれかになるでしょう。

次回は、引き続き、いままでみた権利以外の著作権について、翻案物の作成・利用権から見ていく予定です。

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【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)受付中!
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今年度最初の著作権講座(初級)を6月22日(木)にオンラインで開催いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。

★日 時:2023年6月22日(木) 13:30~16:30★

プログラム予定
13:30~15:00 著作権制度の概要
15:00~15:10 休憩
15:10~15:20 JRRCの紹介
15:20~16:30 最近の著作権制度の課題等

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/230523-2/
締 切:2023年6月16日(金) 12:00

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