JRRCマガジン No.132 ファッションデザインの保護

半田正夫

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JRRCマガジン No.132   2018/4/26
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JRRC事務所近くに咲くツツジが見頃を迎えています。
ピンクや白色を纏った花びらが晴れた日の青空に映えて
私たちを楽しませてくれています。

さて、
今回の半田先生のコラムは、「ファッションデザインの保護」です。
先般話題となった「TRIPP TRAPP事件」でもその著作物性の当否が問われた
「応用美術」に関して、
ファッションデザインの観点よりお話しくださいました。

◆◇◆半田正夫の著作権の泉━━━

第57回「ファッションデザインの保護」

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最近、ファッションローというコトバが目につく。
これは、ファッションデザイン、ファッションブランド、
ファッションモデル、ファッションショー、コスプレなどの法的保護や
ファッションと契約などファッション界を取り巻くあらゆる法的問題を
研究対象とするコトバとして学会などにおいて
使用されているようで、現に「ファッションロー」と題する
体系的な解説書まで登場するにいたっている
(角田政芳・関真也著「ファッションロー」勁草書房刊)。

ファッションデザインはこれまで応用美術の領域に属するものであって、
絵画や彫刻などのような一品製作を念頭に置いた美術の著作物ではなく、
したがって著作権法の保護の対象にはならないとするのが一般的な考え方で
あったといってよい。
ファッションデザインは物品の形状、模様、色彩に独創性があれば
意匠法によって保護されるのであるから、それでいけばよいのであって、
あえて著作権法による保護の必要性はないというのが、
その考え方の根底にあるのだと思われる。

だが、意匠法の保護を受けるためには、特許庁に意匠登録の申請をして
登録を受けなければならないが、申請から登録まで1年ほどの時間を要し、
その間に盗用されてしまい、登録が完了して、
さて意匠権の侵害として差止めなどの法的手段に訴えようとしても、
その時点ではすでに流行おくれとなってほとんど効果がないというのが実態である。
はやりすたりの激しいファッション業界においては、
登録などのまだるっこい手続きを要することなく創作と同時に保護を
受けることの可能な著作権によって保護されたいと熱望するのは
当然の欲求といえるのではなかろうか。

それでは、ファッションデザインは著作権で保護することは不可能なのだろうか。
著作物の定義に、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、
・・美術・・の範囲に属するものをいう」(著作2条1項1号)とあるところから、
ファッションデザインも美術の著作物に該当すると認められるかぎり
著作権法による保護も可能であるはずである。

ところで著作権法は、
美術の著作物には美術工芸品を含むものとすると規定しているが(著作2条2項)、
美術工芸品の意味については何も規定していない。
通説はこれを一品製作のものに限定しているが、
それに限定しなければならない理由はないし、かりにこれに限定されるとしても、
美術工芸品以外のものが美術の著作物から排除されるいわれもない。
要は、美術の著作物の定義をどこまで広げるべきかの解釈にかかっているといってよい。

ところで、著作権と意匠権とではどのような違いがあるのだろうか。

第一に、著作権は、自己の創作した著作物を独占的に利用する権利にとどまり、
他の者がそれと同一または類似の著作物を独自に創作した場合に
その者がその著作物を利用することを禁止できるものではないのに対し、
意匠権は、自己の創作した意匠を独占的に実施する権利であって、
他の者がこれと同一または類似の意匠を独自に創作した場合であっても
その実施を禁ずることができる。

第二に、著作権法は、創作したものであれば、
新規性の有無を問わずすべて保護することとしているが、意匠法は、
新規な意匠でなければ保護しないことにしている。

第三に、著作権の発生には何らの手続きも必要ないが、
意匠権の発生には登録が要求されている。

第四に、著作権の保護期間は、原則として創作時から著作者の死後50年までであるのに対し、
意匠権の場合は、登録の日から20年とされている。

以上のように、著作権と意匠権とでは大きな差異があり、
このことから通説ならびに多くの判例は、いずれか一方でのみ保護されるとして
両者の棲み分けを図っている。
だが、私は乱暴な意見かもしれないが、
両者による重複保護を肯定してもよいのではないかと考えている。

その理由として、次のものを指摘することができよう。
(a)著作権法と意匠法とはそれぞれ立法の目的及び保護の対象を異にする。
したがって、重複保護は理論的に矛盾することはない。
(b)意匠登録には時間がかかり、その間の無断複製者に対して意匠法では無力であるが、
もしも著作権法の適用が認められるならば、創作と同時に著作権が発生するから、
意匠登録前であっても無断複製を排除できる。
(c)意匠権では著作者人格権に相当するものはなく、
図案等の改変による創作者の人格的利益が害される危険性があるが、
著作権法による重複適用が認められるならば、著作者人格権によって保護を図ることができる。
(d)著作権法と意匠法の双方で保護を受けるとすれば、
意匠登録によって図案等の実施につき権利を行使できるのみならず、
意匠権の効力としては認められていない複製権の行使も著作権者として可能となり、
権利者はすべての面で保護を受けるという利点を持つことができる。
(e)意匠権は登録の日より20年で消滅するが、その後は著作権によって保護を受け、
無断複製を排除することができる。
 
ところで、商品名をTRIPP TRAPPと題するベビーチェアの類似商品が現れ
著作権侵害の当否が争われた事件において、3年前、
知財高裁(知財高判平成27・4・14判時2267号91頁)は、
著作権法2条2項は、「美術の著作物」の例示規定に過ぎず、
例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても、
同条1項所定の著作物性の要件を充たすものについては、「美術の著作物」として、
同法上保護されるべきものであると解すべきであると判示しているが、
これはファッションデザインについても著作権で保護される可能性のあることを
示唆したものと考えることができるのではないかと思われる。

だいぶ前のことになるが、
イッセイミヤケのデザインになるPLEATS PLEASEを模倣した商品が
名古屋のデパートで発売されていることを知ったミヤケの事務所が
著作権侵害で提訴するにあたり、私のところに相談に来たことがあった。
そのとき、PLEATS PLEASEなる商品を身にまとったモデル数人が
研究室の私の目の前で時ならぬファッションショーを演じてくれたことがあったのを
今まざまざと思いだしている。

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