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JRRCマガジン No.108 2017/8/4
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風に乗って届く風鈴の音に涼を感じる今日この頃ですが、
皆さまいかがお過ごしですか?
さて、今回の山本隆司弁護士のコラムは、「同一性保持権」。
近年、その解釈を巡って多くの議論がなされています。
山本先生の見解をお話しいただきました。
◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━
第57回「同一性保持権」
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今回は、著作者人格権の中でも、なにかと問題のある「同一性保持権」につ
いてお話ししたいと思います。日本法の「同一性保持権」は、原則としておよそ
著作者の意に反する改変すべてを禁止する権利(20条1項)であることに特
徴があります。
同一性保持権が著作者の意に反する改変を禁止する権利であるという点は、
国際的に見ても特徴的です。ベルヌ条約は同一性保持権を保護していますが、
広く意に反する改変を禁止する権利ではなく、著作者の名誉・声望を害するお
それのある改変を禁止する権利としています(6条の2第1項)。イギリス著作
権法(80条)やアメリカ著作権法(106A条(a)(2))も、同一性保持権を著作者
の名誉・声望を害するおそれのある改変を禁止する権利としています。他方、
フランス法は、同一性保持権を日本法と同じように(日本法がフランス法をモ
デルにしたためか)、著作者の同意のないすべての改変を禁止する権利とし
ています(121の5条3項)。なお、ドイツ著作権法は、著作物に対する正当な
精神的または人格的な利益を危うくする改変を禁止する権利としています(14
条)。
しかし、私には、同一性保持権を著作者の意に反する改変を禁止する権利
と構成することは、賢明な立法政策とは思えません。というのは、意に反する
改変を禁止する権利であれば、改変への同意を求めるに過ぎません。したが
って、著作者が翻案権を譲渡または使用許諾した場合には、改変への同意
を行ったことになるので、同一性保持権は翻案権に埋没してしまい、独自の機
能を持たないことになります。
同一性保持権が翻案権から独立して機能するのは、著作者と著作権者が
原始的に別々である場合、すなわち映画の著作物の場合です。映画の著作
物の場合には、映画の著作者は映画監督で、映画の著作権者は映画製作者
です。映画製作者が翻案権を譲渡しても、著作者である監督が改変に同意し
たことを意味しないので、翻案権の譲受人による改変を映画監督が禁止する
ことができるのです。しかし、そもそも翻案も同一性保持権も改変に対する禁
止権であって対象とする行為はほとんど同じなのですから、そもそも別の権利
とする実益には疑問があります。
なお、作品にいたずら程度の改変を加えた場合には、翻案権は及ばず同一
性保持権のみが及びますが、同一性保持権を持ち出す必要性には疑問が残
ります(参考:駒込大観音事件・知財高裁平成22年3月25日判決)。
他方、同一性保持権を著作者の名誉・声望を害するおそれのある改変を禁
止する権利と構成することは、翻案権とは違った保護利益が認められます。つ
まり、翻案自体は翻案権を保有または利用許諾を受けていれば行えますが、
改変が名誉・声望を害するおそれのある態様のものであれば同一性保持権
が働きます。この構成においては、翻案権と同一性保持権は、同じく改変を対
象にはしますが、目的も機能も異なる別個の権利として並存する合理性があ
ります。
このことは、同一性保持権が、人格権として譲渡できない一身専属権である
点(59条)ともよくマッチします。意に反する改変を禁止する権利と構成した場
合、著作者が一旦同意した以上、その後「やはりいやだ」と言って同意を撤回
することは許されません。保護利益は、改変に対して著作者に判断権を与え
るというものなので、その同意の撤回を認めるほど強い人格的利益ではない
からです。しかし、名誉・声望を害するおそれのある改変を禁止する権利と構
成した場合、著作者が一旦同意しても、その後「やはりいやだ」と言って同意
を撤回することも、信義則違反に当たる場合を除いては、許されると思われま
す。著作者の同意があっても、その名誉・声望を害するという結果(被害利益)
は残ったままだからです。
なお、日本の著作権法では、名誉・声望を害する改変を禁止する権利とする
構成が、実演家の同一性保持権(90条の3)ではとられています。
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