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JRRCマガジン No.79
半田正夫の著作権の泉 第41回「出所の明示の仕方」
2016/11/10配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。
昨日東京都心では「木枯らし1号」が吹きました。
朝晩の気温が10度を下回る日も多くなり、耐え切れず暖房をスタートさせ、本格的な冬の
訪れに備える今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
それでは、
「半田正夫の著作権の泉 第41回」をお送りいたします。
今回は、「出所の明示の仕方」です。
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半田正夫の著作権の泉 第41回 「出所の明示の仕方」
いまから40年以上もまえの話になるが、新聞は文豪として有名な丹羽文雄氏がエッセ
イの「親鸞の再発見」と小説「蓮如」の中に、ある市井の仏教研究家の文章をほとんど
そのまま使用していたことが発覚したと報じた。当時、丹羽氏は文壇の大御所であると
同時に、日本文芸家協会の理事長の要職につくかたわら、文部省著作権審議会の委
員でもあったことから、著作権がどういう権利なのかについて一番よく知っているはずの
氏が著作権侵害を行ったことから紙上に大きく報じられたのである。数日後、丹羽氏は
同紙に寄稿し、文芸作品の引用の仕方について意見を述べた。それによると、文芸作
品の場合は学術的著作物とは異なり、文章の調子が崩れることを極度におそれるもの
であり、したがって引用の仕方も学術的著作物の場合と異なってよいはずだと主張する
ものであった。
「著作権の泉第40号」で述べたように、引用を行う場合には、自分の文章と引用する
他人の文章とを区別するために、カッコでくくるとか、前後を一行空けるとかなどの操作
が必要であるが、丹羽氏のいうように、小説の場合にこのような操作をすれば文章の
リズムが壊れ面白味のないものになってしまうことは確かであろうと思われる。しかし、
さりとて、カッコなどをはずして自分の文章のなかに入り込むことを認めるならば、あた
かもそれが執筆者本人の文章であるかのごとく読者によって認識されることになり、結
果的に他人の文章を無断で複製したとして著作権侵害のそしりを受けることになりかね
ない。ここに文芸作品における引用の仕方のむずかしさがある。
丹羽事件を契機として日本文芸家協会は引用の仕方について検討を開始し、昭和53
年2月「引用の仕方について」と題しその内容を公表している。その内容は次のとおりで
ある。
(1) 引用部分は何らかの方法で、本文と明確に区分するようにする(たとえば、引用
文の前後を1行ずつ開けるとか、1字下げにするとか、カッコでくくる等)。
(2) 出所明示は著作者名を表示することを原則とし、場合によっては作品(書名)など
をも表示することが望ましい。
(3) 出所明示は、引用した部分のなるべく近くにすることを理想とし、やむをえない場
合には次のようにする。
(a) 単行本の場合――巻末
(b)① 雑誌で読み切りの場合――作品の末尾
② 雑誌で連載の場合――各回の末尾、または(c)の②で定める方法
(c)① 新聞で読み切りまたは比較的短い連載の場合――作品の末尾
② 新聞で長期にわたる場合――連載の予告文、「作者のことば」などで、「引用
文の出所は、連載終了後、または単行本で表示する」旨を記し、引用して利
用する著作物の著作者(著作権者)に出所明示の遅れることを申し入れる。
日本文芸家協会が会員に対して行った上記の指示は、同協会が引用の仕方につい
て新たな慣行の樹立を意図するものであり、その努力は高く評価されなければならない
。だが、ここには2つの問題点がある。1つは引用の技術的方法について述べているも
のの、引用の許容範囲については全く触れられていないという点である。引用がどの程
度まで許されるかは執筆者にとって重大な関心事のはずであり、この点を不問にして出
所明示の具体的方法のみ指示することは、出所明示さえすればいかなる範囲で引用し
てもよいとの誤解を生じる結果となろう。2つ目の問題点は、出所明示の方法について
著作者名の表示を原則とし、作品名の表示を必ずしも要しないとし、さらに明示の場所
として作品の末尾でもよいとしている点である。出所明示義務は現に利用している引用
の部分と利用されている原著作物との関連を明らかにし、それによって原著作者の人
格的利益を保護しようとの要請に基づき利用者に課せられているものであるから、著作
者名と作品名の表示は最小限度必要であり(さらに、出版社名、出版年度があればな
お良し)、出所明示の位置も引用した箇所に割注で記載する(それが難しければ後注の
形にする)べきであり、巻頭や巻末に参考文献として記載するにとどめたり、あるいは本
書は何々の著作物から引用した部分があるという表示をしただけにすぎないものは、引
用部分と出所との関連が明らかにされているとはいえないから、出所明示したと認める
わけにはいかないと考える。
ところで、その後、「著作権の泉第40号」で示した判例が現れるようになって日本文芸
家協会は、平成19年にいたり、「文芸的著作物の引用についての見解」を発表して、上
記の問題点の解決を図った。それによると、判例で示されているように、「適法な引用」
といえるためには、「主従関係」と「明瞭識別性」の2つの要件が満たされていることが
必要だと述べたうえ、引用できる著作物は公表されたものに限られること、公正な慣行
に合致するものでなければならないことについて具体的に例を挙げて解説している。注
目すべきは、「引用の目的上正当な範囲」とはなにかについて、「研究、評論、評伝、伝
記の類では、著者の見解を説明するために必要であれば、引用の長さに制限はない。
ただし対象となる既発表の文学者の作品を次々に取り込み、繋ぎの文章だけを作者が
書いたような場合は、『正当な範囲』の引用ではなく、適法な引用とは言えない。」と記し、
これまで明確でなかった量的な範囲について見解を示していることは高く評価したい。
その反面、出所明示については、引用した作品と著作者名を記すことを要求し、作品名
が必要なことを述べているのは昭和53年の見解を一歩進めたものとして評価したいが
、その場所についてはなんら触れていないところからみて、昭和53年の見解をそのまま
維持するものと考えられるが、一工夫があってもしかるべきではなかったかと思われる。
話はもとに戻るが、丹羽事件には後日談がある。マスコミの取材に当の市井研究者
は、「私のつまらない研究の成果があの丹羽大先生のお目にとまって利用されたのは
非常に光栄です。」といったとか。利用された本人が喜んでいるのであるから、著作権
侵害うんぬんと目くじら立てる必要はなかったケースであったといえるようである。
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