JRRCマガジン第96号(音楽の演奏・歌唱と著作権)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.96 

半田正夫の著作権の泉   第46回「音楽の演奏・歌唱と著作権」

                                          2017/4/6配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

春爛漫の今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回の半田先生のコラムは音楽著作権に関するお話です。
新年度・新学期がスタートする時期ですが、期待と不安が入り混じる背中を
桜ソングが後押ししてくれた、といった経験がある方も多いかと思われます。
お花見シーズンも真っ盛り、あちこちの名所や公園から歌声が聞こえてきそうです。

それでは、
半田正夫の著作権の泉 
第46回「音楽の演奏・歌唱と著作権」
をお送りいたします。

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      半田正夫の著作権の泉 第46回 「音楽の演奏・歌唱と著作権」
                       

 小学唱歌が大好きだった私は、入学するとこの好きな歌を授業として声一杯に歌えるものと思って楽しみにしていたが、やがてそれは裏切られることになる。3年生に進学したと同時に、いままでの尋常小学校が国民学校に体制が変わり、教科内容も戦時色を濃厚に打ち出したものに様変わりした。とくに影響をもろにうけたのが「音楽」の時間で、これまでの叙情的な歌は影をひそめ、たとえば、「コウバダ キカイダ クルクルクルクル ピストンウデダヨ アッチヘ コッチヘ ガタトンガタトン」といった無味乾燥な歌を繰り返し繰り返し歌わせられた。さらに戦況が悪化してくると、米軍爆撃機B29の爆音などを収録したレコードを聴かせられての識別訓練が行われたり、さらには音符のドレミファソラシドを敵性用語との理由でハニホヘトイロハで表現しなければならないというような状況になると、さすが歌好きな私ですら当時授業の「音楽」に対する興味を全く失ったほどであった。

 それにひきかえ現代の子どもたちは環境に恵まれすぎているようだ。テレビやラジオなどから音楽が溢れかえるように流れだし、自分の好みの音楽を自由にスマホなどに録音して聞いたり、自分で曲作りすることができるようになっている。このような時代を背景にして楽器をひとつぐらいマスターして楽しみたくなるのも当然と言えよう。現在、音楽教室が各地で盛んに開催されているとのことだ。大変結構なことといわなければなるまい。
 ところがこのような現象に水を掛けるような動きがあると最近騒がれ始めている。それはJASRACが音楽教室から著作権料を徴収する方針を固めたとの報道が発端となっている。新聞では次のように報じている。
 著作権法は公衆に聞かせることを目的に楽曲を演奏したり歌ったりする「演奏権」を、作曲家や作詞家が専有すると定めている。この演奏権を根拠にJASRACはコンサートや演奏会のほか、カラオケでの歌唱に対しても著作権料を徴収してきたが音楽教室からは徴収を控えてきた。ところが、音楽教室は大手のヤマハ系列が約3300か所で生徒数約39万人、河合楽器系列が直営約4400か所で約10万人に達しており、JASRACの推定ではこの大手2グループに他の事業者を加えると、約11000か所の教室があるとのことである。なかには個人運営の小教室もあるが、ウエブサイトで広く生徒を募集している教室約9000か所を対象として使用料の徴収を考えているとのことだ(以上、2017年2月2日朝日新聞から)。
 著作権のある音楽を演奏する場合には著作権者から演奏の許諾を受けなければならないのが原則となっている。ただこの原則には例外がある。一つは私的な演奏の場合である。私的な演奏とは、家庭内など親しい者同士で演奏・歌唱する場合である。他の一つは、「公の演奏」、つまり不特定多数の人のいる場所において演奏・歌唱する場合であっても、①営利目的で行われるものでないもの、②出演者に報酬が支払われるものでないもの、③聴衆から料金を徴収しないものの3要件をすべてクリアした場合であるならば許諾不要、よって著作権者への報酬は不要となっている(著作権法38条1項)。音楽教室で学ぶ受講生自体は営利目的で演奏しているわけではないことはもちろんであろうし、みずから報酬を受けているわけでもなく、聴衆(かりにいたとしても)料金を取ろうとは考えてもいないであろうから、受講生自身は①~③の要件は充たしていると思われる。よって受講生が演奏の許諾を得る必要はないといってよい。問題は受講生を集めて教室を運営している経営者についてである。
 経営者は一般に営利目的で運営しているであろうし、受講者から料金を徴収しているのであるから、演奏権の処理をしなければならない団体であるといわざるを得ないだろう。また受講者が少ない場合であっても、判例で確立しているカラオケ法理(本連載39号、40号参照)が適用されて経営者が支払いを免れることはできないということになろう。教育目的での利用だからカラオケと同視すべきではないという考え方もあるが、教育目的での著作物の利用につき許諾不要とされるためには明文の規定が必要である。著作権法には教育目的のための利用について、33条以下にいくつかの著作権制限規定を置いているが、営利目的の音楽教室についてこれを含むとする規定はなく、ムリというべきであろう。
とはいえ、JASRACが多額の使用料を請求するならば、零細な音楽教室は崩壊し、ひいては音楽愛好家を減少させる結果となる。低廉な金額とし、共存共栄を図るほうが無難というべきではなかろうか。

 ところで、公園でひとりギターを爪弾いているストリートミュージシャンがいたとしよう。彼の前にはギターケースが開かれたまま置かれている。彼の演奏している曲は他人の著作物である。このような場合、著作権法上はどのように扱えばよいのであろうか。
 公園というだれでも自由に通行する場所での演奏であるから、ヒトが通る通らないに関係なく「公の演奏」に当たるだろう。彼の前にある開かれたケースは通行人からの喜捨を求める趣旨か、そうだとしてそれは報酬を求める趣旨ととらえるべきか、単なる寄付の願いととるべきか、ただ開けておいただけにすぎない行為であるが、カネが入っていたのでそれを受け取った場合、それは報酬を受けとったと捉えられてしまうのだろうか、考えるとなかなかに難しい。

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