JRRCマガジン第95号(米国における人格権)

山本隆司

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   JRRCマガジン No.95 

山本隆司弁護士の著作権談義
第53回「米国における人格権」

                            2017/3/30配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

いかがお過ごしでしょうか。
東京地方の桜は、開花宣言より一週間いよいよ今週末に満開を迎えそうですが、
海を越えたワシントンD.C.では約100年前に日本から贈られた桜がいち早く見頃を迎え
ている、と報道されていました。
さて、今回の山本弁護士のお話は「米国における人格権」です。
著作者本人と切っても切り離すことのできない権利、著作者人格権について、米国にお
ける最近の動向などをお話しいただきました。

それでは、
山本隆司弁護士の著作権談義
第53回「米国における人格権」
をお送りいたします。

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山本隆司弁護士の著作権談義 
第53回 「米国における人格権」
                               
 アメリカの著作権局は、いま著作者人格権(氏名表示権と同一性保持権)のために何
らかの法改正が必要かという問題についてパブリックコメントを求めています
(https://www.copyright.gov/policy/moralrights/)。今回は、その背景についてお話しし
たいと思います。
 アメリカは、その独特の著作権法ゆえに、1989年までベルヌ条約に加盟しませんでし
た。その理由の一つは、ベルヌ条約は著作者人格権を保護しますが、アメリカには著作
者人格権の概念が存在しなかったためです。1988年に至り、ベルヌ条約に加盟してい
ないことがアメリカの国益にマイナスになると判断し、ベルヌ条約に加盟する法律改正
(1988年ベルヌ条約加盟実施法)を行い、1989年3月1日に加盟しました。しかし、著作
者人格権については、何ら立法措置はとられませんでした。アメリカでは、当時、ベルヌ
条約加盟賛成派と反対派が対立しており、賛成派も著作者人格権を規定すべきである
という立場と、現状の法制度(契約、不正競争、名誉毀損による保護)でベルヌ条約の
定める保護が存在するから特に規定を入れる必要はないという立場に分かれていまし
た。また、WIPO事務局長がその立場を支持する見解を示したので、米国はベルヌ条約
参加に漕ぎ着けることができました。
 その後、現状の法制度で、ベルヌ条約の定める著作者人格権の保護は十分ではない
と考える立場からの巻き返しがあり、1990年に至って視覚芸術著作物(works of visual art)
の著作者に一定の著作者人格権を与えるよう(106A条)、著作権法が改正されました。
 ところが、2003年の連邦最高裁判決によって、問題状況が大きく変わりました。それ
までの理解では、不正競争法が禁止する虚偽出所表示(false representation of origin)
には著作物に対する著作者の表示も含まれ、その違反は連邦商標法43条(a)(1)(A)に
当たると解されていました(Smith v. Montoro, 648 F.2d 602 (9th Cir. 1981))。これに対
して、2003年、連邦最高裁は、ダスター事件 において、不正競争法の虚偽出所表示は
商品の製造者を指すものであり、著作物に対する著作者の表示は含まれないと、著作
物に対する氏名表示権に類似する機能を果たすことを真正面から否定しました。そこで、
現行法では、ベルヌ条約が同盟国に求める氏名表示権の保護がアメリカでは存在しな
いとの疑問が生じてきました。
なお、同一性保持権については、そもそもベルヌ条約が同盟国に求める保護は、著
作物の改変のうち、自己の名誉または声望を害するおそれのあるものが対象ですので、
名誉毀損による保護(Clevenger v. Baker Voorhis & Co., 168 N.E.2d 643 (N.Y. 1960))
がその保護義務を満たすと考えられています。
 そこで、2014年に、下院でこの問題について議題に上り、また2015年には下院で著作
権局長が著作者人格権の検討を提案しました。その後著作権局は、検討を始め、2016
年に著作者人格権について公開のシンポジウムを開きました。著作者人格権のための
法改正については賛否の議論がありますが、差し迫った問題として認識されているのは
やはり氏名表示権のための法改正です。コロンビア大学のギンズバーグ教授は、現状
では氏名表示権の保護を欠いており、それは条約上の義務違反であるだけではなく、連
邦憲法の規定する著作権条項の目的にそぐわないと主張しているのが注目されます。
 アメリカ著作権局がパブリックコメントを求める質問事項には外国で著作者人格権が
どのように保護されているかというのもあります(No.8)ので、日本からもコメントを送って
みてはいかがでしょうか。期限は、5月15日です。

以上

 
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