JRRCマガジン第81号(ラチェスの法理)

山本隆司

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   JRRCマガジン No.81 

山本隆司弁護士の著作権談義
第49回「ラチェスの法理」

                                   2016/11/24配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

ここ数日の寒暖の差で木々の色付きと落葉が進み、通勤途中の歩道に黄金色の絨毯
が敷かれたようになっていました。
皆さま いかがお過ごしでしょうか?
先日の東北から関東にかけての早朝の地震には、オロオロしてしまいました。
震災は忘れた頃にワタシにやってくる・・・と肝に銘じる今日この頃です。

それでは、
山本隆司弁護士の著作権談義
第49回「ラチェスの法理」
をお送りいたします。

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山本隆司弁護士の著作権談義 
第49回 「ラチェスの法理」
                               
 米国には、時効制度に類するものとして、出訴制限(statute of limitations)の制度の
ほかに、ラチェスの法理(doctrine of laches)があります。近年、ラチェスの法理の適用
を拡大する裁判例が第9巡回連邦控訴裁判所で続いていましたが、2014年5月19日の
連邦最高裁判所の判決(Petrella c. MGM, 572 U.S. __ (2014))でひっくり返されました。
私も米国で著作権侵害事件を提起したことがありますが、第9巡回連邦控訴裁判所の
管轄内の連邦地裁であったため、ラチェスの法理が立ちはだかってきました。今回は、
このラチェスの法理をご紹介したいと思います。
米国の著作権法507条(b)は、出訴制限を規定しており、著作権法に基づく請求権は、
その発生後3年以内に訴訟を提起しないと、裁判を受けられなくなります。出訴制限の
制度は、時効に似ていますが、時効とは異なり時効中断や時効利益の援用に当たるも
のがないので、どちらかというと除斥期間に近い制度です。
  他方、ラチェスの法理は、権利者による権利行使が不合理に遅れ、そのために被告
に不当な損害を生じさせる場合に、その権利に対する救済を否定するという衡平法上
の判例法理です。著作権法には規定されていませんが、出訴制限の制度と併存して、
適用されると考えられています。ラチェスの法理の適用において、権利行使の遅れが
不合理と判断されるのは、事案によって異なりますが、侵害を知ってから訴訟準備に要
する期間として6ヶ月程度は合理的な遅れと見られます。
  また、ラチェスの法理は、損害賠償請求権にのみ適用され、衡平法上の救済(差止
請求権など)には適用されないと考えられてきました。しかし、第9巡回連邦控訴裁判
所は、2001年8月27日のジャンダック判決(Danjaq LLC v. Sony Corp., 263 F.3d 942 (9th Cir. 2001))
において、ラチェスの法理に基づいて損害賠償請求のみならず差止請求をも排除する
解釈を打ち出しました。その後、第9巡回連邦控訴裁判所とその管轄下の地方裁判所
は、その適用範囲を広げてきました。
  上記の事件では、第9巡回連邦控訴裁判所は、ラチェスの法理を広く適用し、ラチェ
スの法理に基づいて、差止めのみならず、損害賠償についても3年以内の侵害分も含
めて、すべての請求を棄却しました。連邦最高裁は、この判決を破棄しました。
連邦最高裁の判決では、まず、著作権法が出訴制限のみを規定しているので、原則
としてラチェスの法理を著作権法上の救済に適用することはできないと判示しました。
ただし、救済を与えないことが衡平の原理に適合するような極端な状況では、ラチェス
の法理を適用できるとしています。例として、建築設計図の著作権者が、侵害者による
100件以上の建物建築を知って放置しておきながら、すでに人の住んでいる建物の廃
棄を請求した場合には、ラチェスの法理を適用してその廃棄請求を拒否できると判示
しています。
  また、上記の連邦最高裁判決では、著作権法上の請求にラチェスの法理を適用で
きる場合であっても、衡平法上の請求にのみ適用があると判示しています。具体的に
は、差止請求と、廃棄請求と、利益吐出し請求(504条(b))です。利益吐出し請求は、被
告が著作権侵害で得た利益を原告に支払うことを命ずるものですが、被告利益を原告
の損害と推定する日本著作権法の制度とは異なります。日本の制度は、原告の現実
損害のみの賠償が認められ、現実損害の算定において被告利益を原告の損害と推定
するにとどまります。しかし、米国の制度は、原告の現実損害がいくらであっても、それ
以上の被告利益をすべて原告に吐き出させるものです。たとえば、米国では、著作権
侵害によって原告が受けた現実損害が1,000万円である証拠があるときでも、被告が
(原告よりも商売が上手で)1億円の利益を上げた場合には、1,000万円を損害賠償と
して、残り9,000万円を被告利益として、原告は支払を求めることができます。

 以上

 
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