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JRRCマガジン No.64 半田正夫の著作権の泉
第37回「彫刻品の破壊」
2016/7/8配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。
先日 自転車に笹を差し、
一心不乱にペダルを漕いでる人を見かけました。
七夕飾りのため、友人知人から譲り受けたのでしょう。
微笑ましい光景と思いました。
そして、昨日は七夕。
東京地方では雨は免れましたが、
「天の川」は見れましたでしょうか?
短冊にこめられた皆様の願いが届くことを祈って、
それでは、
「半田正夫の著作権の泉 第37回」をお送りいたします。
今回は、「彫刻品の破壊」です。
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半田正夫の著作権の泉 第37回 「彫刻品の破壊」
かつてこんな事件があった。
都内某デパートでは増築を機に、ニューヨーク在住の日本人彫刻美術家下田治氏に
依頼して鉄製のモニュメントを作製してもらい、これをデパートの屋上に新たに設けられ
た庭園のシンボルとして設置した。このモニュメントは、5個の巨大な鉄製の積み木を空
中に投げあげその一瞬の静止をとらえた形態をとっており、「空間の中の五」と題され、
5つの鉄製の箱が長さ約3.6メートル、高さ約2.4メートルで構成されていたとのことである
。作者の下田氏は、ニューヨークに定住して米国内の大学や公園、カナダやマレーシア
の日本大使館のモニュメントを手掛け、海外では高い評価を得ている芸術家であった。
その彼が、デパートに納品してから8年ぶりに帰国してこの作品との再会を楽しみに同デ
パートに行ったところ、影も形もなくなっているのを知り、びっくり仰天。デパートに問い合
わせたところ、「溶接部が錆びてきて倒れるおそれが出てきたので業者に解体させた。
客商売なので万が一の事故が心配だった」との返答が帰ってきたとのことであった(昭
和58年6月14日朝日新聞から)。
このモニュメントの所有権が下田氏にあり、デパートに貸与されていたにすぎない場合
であれば、下田氏としては、所有物を無断で破壊されたことを理由に所有権侵害でクレ
ームを付けることが可能であるが、デパートに売却あるいは贈与されて所有権がデパー
ト側に移っている場合にはそのような主張をすることはできないのは当然である。しかし
、所有権はともかく、著作権は依然下田氏のもとにとどまっているので、これに基づいて
なんらかのクレームを付けることはできないだろうか。
ここで考えられるのは、同一性保持権に基づくクレームである。同一性保持権とは、著
作物とそのタイトルの同一性を保持し、無断でこれの変更、切除その他の改変を行うこ
とを禁止する著作者の権利のことである(著作20条1項)。著作物は著作者が苦心の末
作成したもので、いわば著作者の人格が投影されているといっても過言ではない。したが
って、著作者は当然のことながら自分の作った作品に対してあたかも自分の分身である
かのような愛着心を抱いているのがふつうであり、他人が勝手にそれに手を加えること
は――たとえそれによって作品がよりいいものになったとしても――著作者の心を傷つ
けることになることが多いものである。そこで、著作者のこのような精神的利益を保護す
る趣旨で同一性保持権が設けられたものである。
作品が著作者に無断でゆがめられたり、一部破壊された場合にこの権利が働くことに
まったく異存がない。問題なのは、本件のように完全に撤去されてしまった場合にも同一
性保持権の侵害となるかについてである。考え方としては2通りある。その1は、一部分
の破壊が同一性保持権の侵害になるなら、最大の破壊行為である全部破壊や撤去は
当然同一性保持権の侵害となるというものであり、その2は、同一性保持権が及ぶのは
一部破壊の場合に限られ、滅失してしまった場合には及ばないというものである。どちら
も法的には解釈可能であろうが、私は後者を採りたいと考えている。
彫刻作品は、一面において著作権や著作者人格権の対象となる著作物であるが、他面
においてそれは所有権の対象となる有体物でもある。所有者は本来自分の所有物を自
由に処分することができるはずであるのに、彫刻の場合にはそれができないというのは
おかしな話である。作者としては形あるものはいずれ滅却することのあることを予定して
いるはずであり、一部がいびつな形で残り、そのために「あの程度の作品しか作れなか
ったのか」と世のそしりを受けることには耐えられないとしても、全部滅失の場合は作者
としての名声が傷つけられることもなく甘受できるものと思われるからである。一種の美
術作品である建築著作物の場合については、人間が居住するという特殊性を有するが
ため、増築、改築、修繕または模様替えによる改変については同一性保持権が働かな
いことをあえて条文で明記しているが(著作20条2項2号)、全部破壊・撤去については規
定が置かれていない。これは全部滅失・撤去が同一性保持権と抵触するものではない
ことを暗に示しているとみるべきではなかろうか。してみれば、この理屈は建築著作物以
外の一般の美術著作物についても当てはまると考えていいように思われるが、いかがで
あろうか。
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