JRRCマガジン第39号 連載記事

半田正夫の著作権の泉

~第27回 カラオケ法理とその文脈(1)~

カラオケという言葉が国際語になってかなりの時間が経過する。歌好きの私にとっては国際的に認知されたかと嬉しいかぎりである。カラオケとは空(カラ)のオーケストラの意味で、かつては伴奏音楽だけの録音を指す言葉として一般に広く使用されていたようである。昭和30年代の初め、レコーディングのスタジオにおいて歌手の調子が悪いためディレクターが伴奏のみを収録したのが始まりとされているが、昭和50年に某レコード会社が個人向けに商品化したのが今日の隆盛の端緒となったといわれている。

 ところで、カラオケには演奏権が当然のごとくからんでくるが、これとの関係はどうなっているのであろうか。
周知のように、演奏権とは、著作物を公衆に直接聞かせることを目的として演奏する権利のことで、この「演奏」には歌唱を含む(著作権法2条1項16号)ほか、著作物の演奏で録音・録画されたものを再生すること(放送、有線放送または上映に該当するものを除く。)を含むものとされている(著作権法2条7項)。したがって、音楽を直接演奏することはもちろん、音楽を吹き込んだレコードやCDを著作権者に無断で公衆に聞かせることもまた演奏権、ひいては著作権の侵害となるはずである。しかし、紙数の関係上ここでは省略するが、戦前から戦後にかけてしばらく効力を保っていた旧著作権法においては、市販されているレコードを喫茶店、ホテル、パチンコ店などが入手してこれを店内で流す行為には、演奏権が及ばないものとしていた時期があった。だが、これはベルヌ条約に違反する行為であり、欧米の著作権者などから批判されているところであった。そこで昭和45年に制定された現行著作権法においては、適法録音物を用いてする演奏の再生についても演奏権が及ぶものとした。だが、これをいきなり適用すると、いままで自由であっただけに業界に大きな混乱を引き起こすのではないかと危惧し、とりあえず「政令で定める事業」以外は、当分の間、自由に行っても差し支えないとの経過規定を設けて対処したのである。そして、「政令で定める事業」として、①喫茶店その他客に飲食させる事業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、または客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの、②キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる事業、③音楽を伴って演劇、演芸、舞踊その他の芸能を観客に見せる事業、が指定されたのである。

 こういった状況下で、カラオケの設備を設けてクラブを経営する業者に対して、音楽家から権利の委託を受けて管理しているJASRAC(日本音楽著作権協会)が演奏権を根拠に使用料を請求することができるかが問題となる事件が発生したのである。
カラオケによる音楽の再生事業が「政令で定める事業」に当たるのであれば、演奏権がこれに及ぶことになるのは間違いないが、はたしてどうなのか。②③に該当しないことははっきりしているので、①に当たるか否かが問題となる。ただカラオケの装置は「客に音楽を鑑賞させる」ための設備ではなく、「客に歌唱させる」ための設備であるから、厳密にいえば①に該当しないといわなければならない。だが、①~③に演奏権が及ぶことにした趣旨は、著作権者保護の見地から、録音物の再生を営利目的として事業を営む者に対してだけは演奏権を適用することが妥当であるとの判断に基づいたものである。この立法当時にはカラオケが存在していなかったために列挙されていないが、もしも当時存在していたならば当然にここに含まれていたことは間違いないところといえる。そこで私はカラオケ問題が発生した当時、「政令で定める事業」の趣旨を類推適用して、カラオケの場合にも演奏権が及ぶものと解したほうがよいと提唱したのである。
 ところが、最高裁の判例(クラブ・キャッツアイ事件における最判昭和63・3・15民集42巻3号199頁)は、「政令で定める事業」が限定的に列挙されていることから、これをカラオケに類推適用することに難色を示し、カラオケ設備の設置、ホステスによる歌唱はもとより、客の歌唱もすべてカラオケ店経営者により営業政策の一環として組み込まれているところから、客の歌唱も店の経営者の歌唱と同視できるとし、営利目的の歌唱を経営者が行っているとの判断のもとに、経営者に演奏権侵害の責任を追及するという途を選んだ。この判例は、実際には客が歌唱行為を行っているにもかかわらず、①カラオケ行為の全体が店の経営者の管理・支配下に置かれていること、そして②経営者はこれによって利益の帰属を意図していること、の2要件を具備していれば経営者自身がカラオケ歌唱の主体ととらえるものである。この考え方は一般にカラオケ法理と呼ばれ、公衆に直接聞かせることを目的として演奏しているといえるかどうか疑問のある個室カラオケやカラオケボックスの場合についても及ばされるに至ったのである。店の経営者に演奏権侵害の責任を追及する結論において異議はないものの、自らは歌ってもいない経営者を歌唱行為の主体と捉えることに違和感を覚え、このような解釈がはたして許されていいのかと疑問を持ったところであった。

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山本隆司弁護士の著作権談義

~第35回 包括許諾と独禁法~

JASRACは、その管理する音楽著作物の放送使用について、年間の包括利用許諾を行っています。最高裁は、これを私的独占(独禁法2条5項)に当たるとの判決を平成27年4月28日に下しました。この判決は、JRRCも含めて管理団体に対する影響が大きいと思われるので、問題点を考えてみたいと思います。
問題の包括利用許諾が私的独占に該当するか否かは、かなり微妙な事案です。公取委は、当初、私的独占に該当するとしてJASRACに排除措置命令を出しましたが、JASRACが申し立てた審判において排除措置命令を取り消しました。しかし、これを不服とするイーライセンス社が東京高裁に審決の取り消しを求めたところ、東京高裁と最高裁は、私的独占に当たると判決したものです。
 私的独占は、「事業者が、・・・他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義されています。「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という要件は、JASRACのように価格支配力を持つほどの市場占拠率がある場合には、認められます。このような事業者による行為は、多くの場合、「他の事業者の事業活動を排除し、または支配する」結果(「排除効果」)を生じますので、主たる問題は、その結果が自然発生のものか、自由競争の範囲を超えて人為的に作り出されたもの(「人為性」)か、になります。
 JASRACの放送事業者に対する利用許諾には、個別利用許諾と包括利用許諾の二つのメニューが用意されています。しかし、個別利用許諾は包括利用許諾に比較して著しく高額になるため、現実に利用されるのは包括利用許諾です。包括利用許諾は、放送局の放送事業収入に所定の料率を乗じて算出されますが、利用される音楽著作物のうちJASRACの管理楽曲の利用割合がいくらであるかによって金額は変わりません。
 最高裁論旨は、以上の契約形態を前提にして、①JASRACの管理楽曲と他の事業者の管理楽曲の間には「代替的な性格」がある。②その結果、この契約形態では、放送局がある番組で音楽著作物を使おうとすると、JASRACの管理楽曲を使うには追加費用は必要ない(限界費用がゼロ)が、他の事業者の管理楽曲を使うにはその使用料が追加費用として必要となる(使用料全額が限界費用)ので、他の事業者の管理楽曲を使うことが抑制され、他の事業者の事業活動が排除される効果がある(なお、公取委はこの効果の存在を否定しました)。③JASRACがあえてこのような契約形態(JASRACの管理楽曲の利用割合に使用料が変動しない料金体系)を採ることには、原則として、人為性がある、というものです。
 なお、最高裁の判決文には明示されていませんが、JASRACが放送局による音楽著作物の利用実態について調査(使用料分配のためのサンプリングを通じて)している、という実態が判決の前提になっていると思います。JASRACはその管理楽曲の利用割合を把握しているから、JASRACがその管理楽曲の利用割合に使用料が変動させる料金体系を採ることも可能であるのに、あえてそうしないところが人為性を認定する事情となっていると思われます。
 ところで、JRRCの包括利用許諾形態は、JASRACと同じようにJRRCの管理著作物の利用割合に使用料が変動しない料金体系となっています。では、その包括利用許諾はやはり私的独占に当たるのでしょうか。二つの理由で、JASRACの場合とは別の結論になると思います。第1に、JRRCの管理著作物(書籍・雑誌・新聞)と他の事業者の管理著作物との間には、音楽著作物におけるような「代替的な性格」はないように思います。第2に、代替性がある場合には書籍等の著作物を管理する他の事業者もともに市場プレーヤになりますので、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という要件への該当性が問題となります。

以上

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JRRCなうでしょ 第26回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
今年もあっという間に10月に入り、ぐずぐずしているとすぐに年末がやってきますね。
感覚ではつい先日まで35度以上の猛暑が続いていたのに朝晩めっきり涼しくなってきた今日この頃です。
皆さんも薄着で風邪を引かないようご注意ください。
それでは少し遅くなりましたが9月号の最初のお知らせです。
これまで本メルマガ及びホームページでご紹介しました関西地区を対象にしたJRRC著作権基礎講座が、いよいよ10月21日(水)14時から大阪産業創造館で開催されます。
関西地区は年2回の開催を予定していますので、参加人数を東京地区の2倍の100名として募集しましたが、おかげさまでほぼ満席となりました。
これも読者の皆様の著作権に関する関心の高まりの表れとして、事務局一同深く感謝いたします。
なお、若干名でしたらまだ受付可能ですので受付がまだお済でない方がいらっしゃいましたら今からでも間に合います。
JRRCホームページからお申し込みください。
次は東京地区でのJRRC著作権基礎講座ですが、これまで6月と8月の2回開催いたしましたが、いずれも募集開始後3日間程度で満席となり、参加できなかった皆様には大変ご迷惑をおかけしました。
このため、12月の開催回以降募集人数を40名から80名に大幅に増加いたします。
これまで参加したくても参加できなかった読者の皆様は是非12月以降ご期待ください。
以上9月号JRRCなうでしょでした。

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