JRRCマガジン第29号 連載記事

半田正夫の著作権の泉 

~第17回 アジアにおける著作権侵害の横行とわが国の対応~

中国をはじめアジアの発展途上国においてはわが国の音楽、映画、ゲームソフトなどの著作物の海賊版が横行し、当該国政府の対応が手ぬるいとの批判が、わが国では一般である。だがこのことに悲憤慷慨する前に、わが国の過去の処し方について一考することも必要ではないかと思われる。
いまから76年前の昭和13年、日本語の巧みなプラーゲと名乗るドイツ人が日本国内で商売をはじめ、わが国の音楽界を大恐慌に陥れるという事件が発生した。彼の商売はヨーロッパ各国の音楽著作権を管理する団体から日本における代理人としての資格を手に入れ、日本国内における著作権管理事業を行うというものであった。当時、わが国はベルヌ条約に加盟して同条約の加盟国の国民の著作物についても保護しなければならなかったが、著作権意識の低いわが国では、音楽を使用する場合に著作権者から許諾を受けなければならないということをほとんどの者が知らず、無断で使っていたのである。彼が目をつけたのはここである。彼は、新聞広告などで音楽会が開催されることを知ると、開催間近まであえて放置し、直前になってからおもむろに主催者に対し、法外な許諾料の支払いを請求し、支払わないものに対しては法的な手段に訴える旨の脅しをかけるという手段に出たのである。彼は精力的に動き回ったため、当時のわが国の音楽界は大恐慌に陥ることとなった。名前を翻訳するというのはおかしい話であるが、プラーゲ(Plage)という名は、ドイツ語で「災厄」という意味であったため、彼は名前通り日本の音楽界に災厄をもたらすものとして忌み嫌われたとのことである。彼のやりかたは多少えげつないものではあったが、無断で外国の音楽を使っていたわが国の演奏者側のほうがはるかに問題であり、彼の行動は正当な権利の行使であったのである。
彼の傍若無人ぶりの使用料の取り立てに音を上げた国民の怨嗟の声に押され、政府は立法によって解決を図ろうとした。まず行ったのは著作権法の改正である。すなわち、昭和9(1934)年に、条約違反の可能性があるにもかかわらず、レコードに収録されている音楽の演奏と放送については著作権者の許諾を得なくても自由にできるということにした。これによってNHKが行うレコード放送と喫茶店、レストランやバーなどが顧客へのサービスとして行う店内でのレコード演奏がプラーゲの束縛から離れ、使用料の支払いが免責されることになった。これによって、プラーゲの活動の場面がいくぶん減ったことになるが、それでも演奏団体による生演奏においては彼の活躍する部分が残されており、猛威はいぜん止むことはなかったのである。
そこで政府は、第二の手段に出た。昭和13(1938)年の著作権仲介業務法の成立である。この法律は、プラーゲのように著作権者に代わって著作物の利用契約を行う業者は内務大臣の許可を受けなければならないものとし、さらにこの仲介業務者の受け取る使用料は内務大臣の認可が必要であることなどを規定したものだった。この法律の成立によって、現在の日本音楽著作権協会(JASRAC)の前身である大日本音楽著作権協会が設立され、また文学的著作物関係では大日本文芸著作権保護同盟が設立され、それぞれ内務大臣の許可を得て業務を行うことになった。
プラーゲも日本国内において音楽著作権の仲介業務を行うにはこの法律の適用を受けるので、書類をそろえて許可申請をしたところ、内務大臣は待ってましたとばかりに彼には許可を与えないという措置に出たのである。周知のように、許可は認可と異なり、所定の要件がすべてクリアしていても許可を与えるか否かは許可権者の自由裁量に委ねられているので、これを最大限に行使できるようにしたのがこの法律の眼目であったのであり、いわばプラーゲの息の根を止めるための立法であったとみても過言ではない。この法律の制定によって彼は日本国内で業務を継続できなくなり、長い間吹き荒れていたプラーゲ旋風もやっと終息をみたのである。
プラーゲ旋風の顛末を知ったとき、わたしはわが国政府のやりかたがあまりの条約を無視した強引さに驚くと同時に、政府自身、著作権意識が低かったのではないかと感じ、そのような趣旨を述べたこともある。だが、いまはその考えを否定している。当時、わが国はすぐれた西洋文明を数多く摂取し、文化国家としての国際的な知名度を高めようと朝野を挙げて懸命に取り組んでいる時期に当たっていたのであり、そのためには著作権侵害もある程度やむなしとの考えを抱いていたのではないかと思われるフシがあるからである。
このようなことから、わたしは、いま東南アジアなどにおいて多発している海賊版の実態とその取締りの緩慢さは、わが国が昭和初期に歩んだ途と同じ行程をたどっているように思え、少し寛大なこころで当該国の文化の成熟度のアップを待つゆとりがあってもいいように感じられてならないのである。

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JRRCなうでしょ 第17回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
秋も深まり、すっかり紅葉の季節になりました。
紅葉狩りや温泉旅行には最適のシーズンですね。
もっとも北海道や東北ではとっくに降雪のお知らせがあってもいい頃ですが、今年は例年になく積雪が遅いようです。
スキー旅行を楽しみにしている人にとっては少々気がかりですね。
それでは11月号の最初のお知らせです。
JRRCでは、2013年4月1日に使用料規程の改定を行い、それまでの頁単価2円を4円とさせていただきした。
但し、2013年及び2014年の2年間は、経過措置として4円ではなく3円としてあります。
この経過措置期間満了まで余すところ4か月となりました。
2015年4月1日からは頁単価4円が適用となりますので、契約者の皆様にはここに改めてお知らせいたしますと共に、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
なお、詳細につきましてはJRRCのホームページ「改定使用料規程本運用開始のお知らせ」をご参照ください。
次は、読者プレゼントのお知らせです。
JRRCでは、このほどメルマガ掲載の半田正夫弁護士(前青山学院理事長)と山本隆司弁護士による連載コラムを、一冊の小冊子にまとめた「実務者のためのコラム集Ⅰ」として発行いたしました。
この小冊子は、JRRC広報活動の一環としてご契約者の皆様用として制作いたしましたが、特別にメルマガ読者の皆様にも抽選で30部を贈呈いたします。
ご希望の方は、12月5日(金)までに JRRCHP上の「お問い合わせ」から宛タイトルを「小冊子希望」とし、会社・団体名、所属名、送付先、氏名、メールアドレス、電話番号をご記入の上お申し込みください。
なお、JRRCではいただいた個人情報は、小冊子の発送等メルマガ運用に関する業務のためだけに使用し、第三者等に開示することはいたしません。
申し込み締め切り後、厳正な抽選を行い、当選者の方へ順次発送させていただきます。
以上11月号JRRCなうでした。

以上

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