JRRCマガジン第26号 連載記事

半田正夫の著作権の泉 

~第14回 電子出版時代に対応した著作権法改正(2)~

今回の法改正の特徴は、従来の出版権に関する規定の枠組みをそのまま維持しながら、電子出版に関する部分をその中に押し込んだことにある。したがって出版権は、①従来より認められている、頒布目的で著作物を原作のまま印刷その他の機械的または化学的方法により文書または図画として複製する権利(著作80条1項1号、以下「1号出版権」という)のほかに、②原作のまま電磁的記録媒体に記録された複製物を用いて公衆送信を行う権利、つまりインターネット送信による電子出版の権利(著作80条1項2号、以下「2号出版権」という)が加わり、この双方またはいずれか一方のみを対象として出版権の設定が可能となったのである。

こうなると、出版者としては、当分は電子出版の計画がないとしても、将来に備えて、1号出版権のみならず、2号出版権をも設定契約の際に確保しておくことが望ましいといえるようである。ところが仄聞するところによると、出版者は2号出版権の取得に躊躇する傾向にあるとのことだ。それは、2号出版権には6月以内公衆送信の義務が課せられているため(著作81条2号イ)、否応なしに電子出版が強制されることを慮ってのためらいであるようである。しかし、この義務は設定行為によって変更が可能であるから、この義務の適用を排除することはできないまでも、大幅に期限を後に延ばすことは可能であり、これによって対処すればいいだけの話であり、2号出版権の取得をためらう必要はないと思われる。それどころか、これを取得しておかなければ、もしも第三者が海賊電子出版を行って、このために1号出版権者である出版者の利益が侵害されるようなことが起こったとしても、なんら手を打てないという結果になることを出版者としては覚悟しなければならないであろう。

もっとも、書籍出版者が2号出版権を取得していたとしても、海賊出版が発生した場合にこれの差止請求をするとは限らない。2号出版権者の権利行使は義務として課せられているものではないからである。したがって、2号出版権を手に入れた出版者がこれを行使しなければ、2号出版権はいわゆる塩漬けの状態となってしまい、著作権者が不利益を受けることも起こり得るといえる。これを防ぐには、設定行為の際に、出版者に差止請求の義務を課し、これの不履行の場合には著作権者は出版権設定契約を解消できる旨の解除権留保の特約をしておき、いざという場合には著作権者みずから差止請求ができるような途を確保しておく配慮が肝要となろう。

今回の法改正の長所は、従来の法のもとでは出版権者が著作物の複製を第三者に許諾することができないとしていたものを、著作権者の承諾を得た場合には許諾することができるとした点にある。現行法が第三者への複製許諾禁止を定めた趣旨は、著作権者が多くの出版者のなかから特定の出版者を選んで出版権を設定するのはその出版者のスキルや信用度などを勘案してのことであるから、それを勝手に第三者にマル投げするのは著作権者との信頼を裏切ることになるとの判断によるものである。この理由付けはそれなりに理解することができる。しかし、これはあけまでも著作権者の不利益にならないようにとの配慮に基づくものであるから、肝心の著作権者がそれを認めるという場合ですら禁止するいわれはないといわなければならない。現に第三者への複製許諾と類似の形態をとる出版権の譲渡については複製権者の承諾を得た場合にこれを許しており(著作87条)、これとの整合性から考えても、従来の規定は妥当性を欠くものであった。これを改めたことは、当然のこととはいいながら評価したいと思う。

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山本隆司弁護士の著作権談義

~第23回 テキスト・データ・マイニング~

最近立て続きに、権利制限を規定する著作権法47条の7(情報解析のための複製等)について、問い合わせがありました。この規定は、あまり馴染みのない規定ですが、活用範囲の広い権利制限です。JRRCからの要望もあって今回はこの規定を簡単に解説します。
すでに、インターネットの活用によって情報社会化が進んでいます。インターネット上で飛び交う情報を解析することを利用した研究開発も進んできています。インターネット上の文字やデータを、コンピュータを使って掘り起こすので、テキスト・データ・マイニング(Text and Data Mining、略してTDM)といわれています。このTDMの過程において、クローリングソフトを利用して、インターネット上の情報をそのまままたは加工していったんサーバに蓄積します。この蓄積が複製・翻案に該当します。知財戦略本部での決定を受け、文化審議会著作権分科会が2009年1月に出した報告書において、TDMに対する権利制限規定の方向性を決定しました。著作権法47条の7はこれを立法化したものです。
この規定は、①電子計算機による情報解析を目的とする場合には、②それに必要と認められる限度で、③著作物を複製・翻案できると規定しています。
まず、①情報解析目的の要件ですが、(a)電子計算機で情報解析することが必要です。情報解析は、「多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うことをいう」と定義されています。したがって、高度な解析を行う場合だけでなく、単に情報を比較するだけでも単に情報を分類するだけでも、この要件を満たします。また、(b)情報解析の目的には制限がありませんので、前記の報告書が取り上げた「ウェブ情報解析」(ウェブ情報をデータベース化やポイントを抽出して分析など)、「言語解析」(語句の用例を辞書化・データベース化など)、「画像・音声解析」(放送番組を録画・蓄積して検索技術や映像処理技術の開発)のほか、「その他の技術開発等」や「その他の研究目的」でも、情報解析が行われれば、この規定の対象となりえます。非営利目的であるか営利目的であるかを問いません。さらに、(c)解析されるべき情報には制限がありませんので、インターネット上の情報に限られません。電子計算機で収集した情報だけでなく、手動で収集した情報も排除されません。さらに、(d)電子計算機による情報解析が著作物複製・翻案の目的であれば足り、必ずしも電子計算機による情報解析が実際に行われることは必要ではありません。
つぎに、②必要性の要件ですが、電子計算機による情報解析のために合理的な必要性が認められる範囲であれば、著作物を広範・長期にわたって複製・翻案できる状況もありえます。
最後に、③複製・翻案できる著作物ですが、法律上「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」はこの権利制限の対象から除外されています。
なお、欧州では、この権利制限が非営利目的に限定していないことに対して、批判があります。しかし、米国では、このようなTDMは営利目的か非営利目的であるかを問わずフェアユースと考えられます。というのは、情報解析の過程で著作物の複製・翻案が行われるものの、情報解析は著作物が持つ本来の視聴価値を利用するものではないので、いわゆる「トランスフォーマティブ・ユース」に該当するからです。したがって、著作権法47条の7は、個別具体的な権利制限規定ですが、一般的包括的な権利制限規定であるフェアユースの神髄を端的に取り込んだともいえる規定です。

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JRRCなうでしょ 第14回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
連日の35度越えから東京もやっと秋らしく涼しくなってきました。
今年は本当に異常気象の連続の年ですね。
これから台風シーズンに入りますが、もうこれ以上来て欲しくないというのが正直なところではないでしょうか。
それでは8月号の最初のお知らせです。
JRRCでは今年度も引き続き、著作権啓発事業の一環として無料講師派遣サービス事業を実施していますが、おかげさまで利用者の皆様からの問い合わせが増え、最近では企業のみならず地方自治体あるいは各種協議会、研究会等からの申し込みもいただいています。
本事業は、契約企業・団体を対象にしたサービスですが、最近のゆるキャラ全盛時代に伴う著作権に関する様々な報道等もあり、著作権に関する関心はますます高まりつつあります。このような中でCSRあるいは企業ガバナンスの観点から、社員・職員に対する著作権講習会を検討されている企業・団体も多いと思われます。
JRRCでは、このような企業・団体に対する支援を行っていますので、著作権に関する講習会等を検討されている企業・団体がございましたら是非ご一報ください。
それぞれの企業・団体の事情に合わせて講習会の内容もオーダーメイド方式で用意いたします。お問い合わせはJRRCのホームページからどうぞ。
次は前号から開始いたしましたJRRCを構成している4つの権利者団体について、皆様にご紹介いたします。
今回はその2としてJCOPY(一般社団法人出版者著作権管理機構)についてご紹介いたします。
JCOPYは、出版者による著作権を管理している団体で、文化庁登録の著作権等管理事業者です。その構成団体として、(社)日本書籍出版協会、(社)日本雑誌協会、(社)自然科学書協会、(社)出版梓会、(公社)日本専門新聞協会、(社)日本図書教材協会、(社)日本楽譜出版協会の7つの団体があります。
JCOPYは、国内の出版者から直接管理委託を受け、独自に管理を行っている著作物と、JRRCに再委託を行っている著作物の2種類の著作物を管理しています。
JRRCのホームページにある管理著作物検索システムにおいて、管理団体がJCOPYとあれば、この著作物はJCOPYの独自管理著作物であり、この著作物を複写利用するためにはJCOPYとの契約が必要となります。
JCOPY独自の管理著作物は、約13万7千点あり、著作物の内容は、一般書から専門書まで幅広い分野にわたっています。
また、JRRCに再委託している著作物数は約8万点となっています。
以上JCOPYの紹介でした。
次号ではJAC(一般社団法人学術著作権協会)をご紹介します。
以上

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