JRRCマガジン第35号 連載記事

半田正夫の著作権の泉 

~第23回 TPP交渉と著作権~

周知のようにTPP交渉が継続している。このような国際的条約においてはいち早く加入の名乗りを挙げるはずのわが国が、この条約に関する限り、その加入にためらいを見せているのは、国内産業の利益保護をいかに果たすかという線でのせめぎあいが続いているからである。
ところで、この交渉においてはコメと自動車の扱いが焦点となって日々報道されているが、知的財産権の問題もこの交渉の枠組のなかに入っていることを忘れてはならない。なかでも著作権の保護期間の延長問題が懸案事項のひとつとして挙げられており、国内世論も二分しているようである。
周知のように、わが国における著作権の保護期間は創作時から始まって著作者の死後50年までとなっている。ところが、米国が死後70年を採っているところから、TPP交渉ではわが国に70年を採るように要求しているということだ。そこでわが国においても70年に切り替えるべきかが喫緊の課題となってきている。

保護期間をどこで切るかは、著作物を創作した著作者の利益とその著作物を人類の文化財産として自由に利用したいと考える一般大衆の利益をどこで調整するかの問題として各国の立法政策に委ねられている。明治32年制定の旧著作権法は当時のドイツにならって死後30年としたが、著作権の保護を目的とするベルヌ条約が死後50年説を採用し、その後50年を最低限保護することを義務付けたため、わが国の現著作権法も死後50年保護することにして現在にいたっている。ドイツでは1934年に50年に改め、戦後、著作権法の全面改正を行ったときにも政府提案では50年説を採る予定でいたところ、音楽関係者の強い要請で70年に改めて現在に至っている。その影響がEU加盟国に及び、英仏伊などすべての加盟国が70年を採るにいたっている。米国も1998年に70年に切り替えたこともあって世界の趨勢は死後70年に傾きつつあるというのが現状と言えるかもしれない。

このような状況を踏まえて、国内においても70年延長に賛成する者と反対する者との論戦が激しくなってきているようだ。賛成者は、①延長することにより、創作者の創作意欲は高まり、いい作品が世に残り、文化の発展という点からも望ましいことである。②                                                                                                                                       作者は創作のため心血を注ぎ、自分のため、家族のために頑張るものであり、そのためには70年ですら短いというべきである。③作家への敬愛の念にふさわしい適正な保護期間を与えるべきである。若死にする作家の場合、死後50年の保護期間だと妻子がまだ生きている例が少なくない。たとえそれがまれなケースであっても、気の毒な個人の権利は守られるべきだ、などと主張している。それに対し、延長反対者は、以上の①~③に対応して、①すでに死後50年も保護されているものを、さらに伸ばしたところで創作の意欲が高まるとは思われない。②家族を守りたいと思うのは誰も同じ。なぜ作家の家族だけが不労所得を得ることになるのか。また、なぜ遺族は権利収入がないと生活できないようなイメージで語られるのか。③権利延長で利益を得るのは、著作者の孫・ひ孫など一部の人にすぎない。一部の人のために社会全体が不利益を受けるのはおかしい、などと反論している。それぞれもっともな言い分であるように思われる。
 
ところで、わが国が著作権の保護期間を著作者の死後50年と定めたのは、ベルヌ条約が保護期間を最低限死後50年と定めていたことと、著作者は自分の稼いだカネによって自分とその家族の生計が賄われることを望むもので当時の日本人の平均寿命からみて死後50年が妥当であろうと考えられたがためである。当時から比べると日本人の平均寿命は延びているので、それからすると、70年への延長も納得のいく線ということもできよう。ただここで注意すべきは、わが国が50年と定めた現行法の立法当時はまだアナログ技術の時代であったということである。アナログ技術の時代は、著作物が世に知られ印税等によって著作者に利益が還元されるようになるまでには相当の時間がかかったので保護期間もそれに相応してある程度の長期間必要であったいうことができる。しかし、デジタル時代においてはインターネットによって瞬時に世界のすみずみまで著作物の内容が知られるようになっているのであるから、保護期間はむしろ短縮されるか、少なくとも現状維持でよいと考えるのが筋のようにも思える。米国が70年を主張している背景には、ディズニー作品を始めとする映画や音楽作品の海外輸出による利益の確保がねらいとしてあるようだが、著作物をそのような収益財としてのみとらえることがはたして妥当といえるのか、著作権制度の本質論とからめて一考する時期にさしかかっているように思われる。

♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  

山本隆司弁護士の著作権談義 

~第31回 オンライン配信の準拠法~

前回は、著作権侵害事件の国際裁判管轄についてお話ししました。今回は、これに関連して、著作権侵害の準拠法についてお話ししたいと思います。
昨年(平成26年)11月25日に最高裁が、米国のインターネットサイトから日本向けにAV画像を配信する行為が刑法175条1項のわいせつ物頒布罪に当たるとの判決を下しました。わいせつ物頒布罪は、国内犯です。国内で行われた行為のみが日本の刑法上、罪に問われ、国外で行われた行為には犯罪は成立しません。最高裁は、ネットによる頒布を「不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいう」と判示しました。すなわち、サイトからの発信を国外で行っても、日本国内のユーザーのPCにわいせつ物をダウンロードさせれば、日本国内でのわいせつ物頒布行為が存在します。なお、被告人は、被告人のサイトにダウンロードの指示を出したのはユーザーであるから、ダウンロードさせたのはユーザーであると主張しましたが、最高裁は、ユーザーによるダウンロードの指示は被告人による配信の契機にすぎず、ダウンロードさせたのは被告人であると認定しました。
著作権侵害として問題になるのは、国外のサイトから国内のユーザーに向けて著作物を配信した場合に、第1に、日本の著作権法上、著作権侵害が成立するのか、第2に、当該国外の著作権法上、著作権侵害が成立するのか、という点です。
まず、日本の著作権法上、著作権侵害が成立するのかという点を検討します。侵害の成否が問題になるのは、①ダウンロードの場合には複製権侵害(ダウンロードによるユーザーPCへの複製)、②ストリーミングの場合には上演・演奏権侵害、③公衆送信権侵害、④送信可能化権侵害、⑤頒布権・譲渡権侵害です。刑法の国内犯と同じように、著作権については属地主義に基づき、日本の著作権法は日本国内の行為についてのみ適用されます。したがって、上記の成否は当該行為が日本で行われたか否かが問題となります。①ダウンロードの場合の複製権侵害と②ストリーミングの場合の上演・演奏権侵害は、いずれも日本国内に行為がありますので、その成立に疑問はありません。他方、④送信可能化権侵害については、その行為であるサイトへのアップロードが海外で行われるので、明らかに、成立しません。また、⑤頒布権・譲渡権侵害については、刑法と異なり、有体物の頒布・譲渡のみが予定されているので、明らかに、成立しません。
③公衆送信権侵害の成否は、議論のあるところです。公衆送信は「公衆によって直接受信されることを目的として…送信…を行うこと」(2条1項7号の2)と定義されているところによれば、送信の概念は「頒布」とは異なり、発信を意味するに止まり、受信を含まないと解されます。そうすると、送信行為はサイトのある海外で行われますので、公衆送信権侵害は成立しないと考えられます。
つぎに、サイトのある国外の著作権法上、著作権侵害が成立するかという点を検討します。著作権法については、いずれの国も日本と同様に属地主義をとっています。したがって、考え方は、日本法について検討したところと同じです。しかし、権利構成の仕方が違うので、公衆送信権や頒布権については注意が必要です。たとえば、米国は、公衆送信権を定めていませんが、頒布権が(日本のわいせつ物頒布罪の「頒布」概念と同様に)ネット配信にも適用されています。また、EU諸国は、公衆送信権ではなく、公衆伝達権を定めています。公衆伝達権は、ユーザーに受信させる権利を含みます。したがって、日本と異なり、欧米では、国外のサイトから国内向けに著作物を配信する行為は、著作権侵害(頒布権ないし公衆伝達権)を構成します。

以上

♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  

JRRCなうでしょ 第23回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
先日の地震で事務局が入居しているビルもかなり揺れました。
東京では久々の震度4でしたね。
以前から続いている箱根大涌谷の火山活動と関連があるのかないのか心配なところです。
それでは、5月号の最初のお知らせです。
JRRCでは、新規事業として今年度より著作権の初心者を対象とした「JRRC企業・団体のための著作権基礎講座」を6月から隔月開催いたします。(ホームページをご参照ください)
これは公益事業推進の立場から著作権啓発活動の一環として実施するもので、JRRC契約者、
メルマガ会員、一般の方のどなたでも無料で参加できる講座となっています。
これまで多くの契約者あるいはメルマガ読者の方から、関西地区でのセミナー開催の要望が寄せられていましたので、10月と来年4月は、関西地区での開催を予定しています。
関西地区の皆さん、ぜひご期待ください。
講座の内容は、1時間半の講演に加えてQ&Aと講師との懇談を予定しています。
講師は、先週ご紹介いたしました元文化庁著作権課流通推進室長の川瀬理事です。
川瀬氏の豊富な知識と経験を基に、著作権の基礎知識と最近の侵害事例紹介も含めた初心者向けの分り易い講座を予定しています。
読者の皆様のご参加をお待ちしています。
なお、会場の都合により各回30-40名程度の募集となります。
受付は先着順となります。
定員に達しましたら受付を締め切らせていただきますのでご了承願います。
お申し込みはホームページからの受付のみとさせていただきます。
次に恒例のJRRC著作権セミナー開催のお知らせです。
JRRC第7回著作権セミナーを7月14日(火)14時30分より有楽町朝日ホールで開催いたします。
今回は「企業等において注意すべき著作権問題等」をテーマに、第一部基調講演を川瀬理事にお願いし、「企業における著作権教育」をテーマに第3部としてパネルディスカッションを行います。
パネラーには、文化庁著作権課著作権調査官、弁護士の小林 左和氏、?コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事の久保田 裕氏、千代田化工建設㈱ プロジェクト開発業務ユニット知財・ライセンスセクション 上席専門長の工藤 秀彦氏の3名をお招きしています。
セミナー詳細および申し込み方法等は、6月中旬にホームページに掲載予定ですのでお見逃しなく。
以上5月号JRRCなうでしょでした。

関連記事

PAGE TOP