JRRCマガジン第90号(地図の著作物性)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.90 

半田正夫の著作権の泉   第44回「地図の著作物性」

                                2017/2/6配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

いつの頃からか、節分の日には、恵方巻を食すといった文化が東京でも普通に行われ
るようになりました。大阪出身の知人に聞くと、「そうだったんだ~って、東京に来てから
思ったよ~」と。
地域により様々な文化があり、東京でも’イワシの頭を柊の枝に刺して玄関先に飾る’、
‘イワシの梅干し煮を食す’などなど。
以前は「鬼は~外、福は~内」と豆まきして歳の数だけ豆を食すといっただけだったよ
うな~と思いつつ、美味しいしね~と数軒のお店で恵方巻を購入していましたが、
皆さまは、節分の日はどのように過ごされましか?

それでは、JRRCマガジンNo.90は、
「半田正夫の著作権の泉 第44回~地図の著作物性~」です。

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半田正夫の著作権の泉 第44回 「地図の著作物性」
                       
 数年前の暑い夏の日、千葉県は香取市にある伊能忠敬記念館を訪れた。古風な土
蔵が立ち並び文化庁の重要伝統的建造保存地区に指定されている一画にこの記念館
はあった。記念館自体はそれほど広くはないが、忠敬が測量に使用した器具・器材の
類が並べられ、彼が全国を踏破して作成した地図が展示されており、その精巧緻密な
仕事ぶりにただ驚嘆するのみであった。
 彼の行った仕事に限らず、およそ地図の作成には大変な努力が要求されるとは思う
が、実際には単に地形をなぞるのみで、そこには創作性は考えられず、地図を著作物
と考えることはできないものと当初、私は考えていた。その蒙が開かれたのはいまから
40年ほど前、I県の中学校で使用される社会科教材としてA社の発行したI県地図が、同
業者B社によって無断複製されたとして、AがBを相手取り著作権侵害の訴訟を提起し
た際に、裁判所から地図の著作物性の鑑定を依頼されたのがきっかけであった。この
ときに、わたしはAの地図とBの地図を比較するだけにとどまらず、I県の地図を集める
かぎり集めて比較照合したのである。その結果わかったことは、それぞれ独自に作った
地図が内容的にピッタリ一致することはありえないということであった。たとえそれが社
会科教材という共通の目的をもったものであったとしても、道路は国道に限るか、それ
とも県道も入れるか、河川は一級河川に限るか、二級河川まで含めるか、駅名はすべ
て網羅するか否か、産業の分布まで入れるか否か、など作成者の編集意図によって盛
り込むべき項目の取捨選択が違ってくるからであった。とくに学識経験の豊かな地図作
成者の手になる地図は、それの乏しい地図作成者の地図に比べ、格段にその内容が
優れていることを発見したのは私にとって得難い経験であったといってよい。

 旧法においては保護すべき著作物として条文上地図を明記していたわけではなかっ
たが、判例はこれを肯定していた(たとえば、大阪地判昭和26・10・18下民集2巻10号
1208頁など)。現行法は疑いのないように10条1項6号に明記している。国際的にはベル
ヌ条約が2条(2)に規定を置いており、各国ともこれを著作物として保護している。ちなみ
に、地図を著作物として保護することを定めた最初の国は、私の記憶に間違いなけれ
ば米国である。米国では1790年(わが国では寛政2年に当たる)に成立した著作権法に
おいて、①題名の登録、②登録した旨の新聞広告、③納本、の3つの要件を充たした書
籍、地図、海図の著作者およびその承継人に対し、14年間(さらに14年間の更新が認
められる)著作権が保障されるという内容を示していたのであり、音楽が保護されたの
が1831年(天保2年)、演劇が保護されたのが1856年(安政3年)、美術が保護されたの
が1870年(明治3年)であったことにくらべれば、いかに地図が早く保護されていたかを
知ることができよう。地図が米国においてなぜこのように早く保護されたかについてであ
るが、おそらく米国では建国当時、西武開拓の熱が高まり、多くの移住民が西へ西へと
多くの困難と闘いつつ進んでいった時期に当たることから、未知の土地を通るに際し、
先人の血と汗で作られた地図が唯一の手がかりとなったであろうし、そのために地図が
高い取引価値のあるものと考えられたためではなかろうかと推察されるのである。
 
 ところで、話は変わるが、戦前の日本地図を見ると、いたるところに虫食い状態のよ
うに、赤線でくくられて内部が空白になっている箇所を発見するはずである。これは軍
港や要塞地帯などで、軍事機密に属するということで、あえて標高や水深を空白にした
ことによるものである。このことから明らかなように、地形など国土に関する精密な情報
は重要な国家機密に属すると考えられたことから、地図の作成権限は陸軍参謀本部の
所管とされ、実際の業務は同本部の陸地測量部が担当していたのである。戦後は参謀
本部が解体されたので、昭和23年に建設省の地理調査所に移管され、国土の測量は
この調査所が担当することになった。同調査所は昭和35年に国土地理院に名称変更
され、さらに平成13年省庁の再編成に伴い、国土交通省の特別機関として位置づけら
れて現在にいたっている。したがって公共の測量地図の著作権は国に帰属し、これを
利用するには国の許諾が必要ということになる。測量法29条は測量成果の複製を行う
者は国土地理院の長の承諾を得なければならないと規定しているが、この承諾は著作
権法上の許諾に当たるものと考えてよいように思われる。

 伊能忠敬記念館を外に出ると、かまびすしい蝉の鳴き声が響いてきた。それを聞きな
がら、忠敬の多分歩んだであろう道をヨタヨタと歩きながら駅に向かったのであった。

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