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JRRCマガジン No.102 2017/6/16
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蒸し暑い日が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回の半田先生のコラムは、「将棋の棋譜の著作物性」です。
さて、連日のようにニュースなどで話題となっている史上最年少プロ棋士
藤井聡太四段の快進撃には、将棋ファン以外も注目とのこと。
時折見せる中学生らしい、あどけない笑顔の奥に秘められた闘志は、
「とにかく負けず嫌い」と評される性格からくるものらしい。
次の対局でも、是非頑張ってもらいたいですね。

◆◇◆半田正夫の著作権の泉━━━

第48回「将棋の棋譜の著作物性」

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 放送法の規定によれば、各放送会社は放送番組の適正を図るため、7名以
上の学識経験者からなる放送番組審議会を設置し、同審議会は放送会社の
諮問に応じ必要な事項を審議することになっている(放送法6条、7条)。この
規定に基づき、私は某テレビ局の番組審議会委員をかれこれ十数年仰せつ
かっているが、この委員の中にかつて米長邦雄がいた。
 周知のように彼は、日本将棋連盟会長を務め,永世棋聖の称号を受けてい
る棋士であるが、東京都の教育委員なども務め、そのユニークな言動で知ら
れている人物であった。番組審議会は、局から指定された番組を予め観てお
き、これの合評をするのが恒例となっていたが、彼は時折、番組を観ずに審
議会に現れ、「この番組はさておき・・」と述べて、番組とは関係のないテレビ
に関する持論を述べて、我々を慌てさせるということもあった。
 その彼からある日、「棋譜には著作権があるのですか」と尋ねられたことが
あった。私が答える前に会議が始まってしまったので、そのままになってしま
った。当時、彼は、武者野勝巳棋士の監修した将棋ソフトの著作権を侵害し
たとの理由で武者野棋士から訴えられていたようである。この事件は和解で
決着がつけられたようであるが、この事件があったことから、彼は棋譜の著作
物性いかんについてかなり関心を持っていたのではないかと、今にして想像
されるところである。

 ところで、棋譜の著作物性についてはなかなか難しい問題を含んでいるよう
である。対局者同士が互いに知力の限りを尽くして戦い、勝敗を決するもので
あり、しかも一方の棋士の駒の動かし方だけを取り上げても意味をなさないこ
とから、棋士双方による不可分の協力によって作り出されるものと捉えるなら
ば、優に共同著作物としての条件を満たしているように考えられる。このよう
な観点から、棋譜を対局者による共同著作物と捉える見解もある(加戸守行
「著作権法逐条講義(6訂新版)」120頁)。しかし、棋譜が共同著作物に当たる
かを議論する前に、そもそも著作物としての要件を満たしているかが問題に
されなければならない。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもので
あって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条
1項1号)が、ここに言う「思想又は感情」とは哲学上のあるいは心理学上のそ
れとは異なり、単に「かんがえ・きもち」程度のものを差し、「創作的に表現」と
いっても作者の個性が何らかの形で表現されておればよい程度の軽みで考え
られているところからすれば、対局者がそれぞれ相手に勝とうとの信念に基づ
き知力を尽くし合い、相手方の予想を超えた一手を打つことによって勝ちを
制するという棋譜は、正にこの要件に合致するものと考えて差し支えないも
のと思われる。問題は、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」ことが
必要となるが、棋譜そのものは文芸にも美術にも音楽にも当てはまらず、強
いて言えば「学術」の範疇かと思うが、これもしっくりこない。だが、「文芸、
学術、美術又は音楽の範囲に属する」ものに限定した趣旨は、産業の発展を
目的とする工業所有権との区別を述べたものに過ぎず、判例の言うように「知
的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である」(東京
高判昭和62.2.19無体例集19巻1号30頁)と捉えるべきとされ、これが通説とな
っている以上、あえて棋譜を著作物から排除する必要は無いように思える。
このように見てくると、将棋の棋譜に著作物性ありとし、対局者二人による共
同著作物とみても良いように考えられる。
 だが、見方を変えると、将棋は囲碁やチェスと同様、一定のルールに従って
コマを動かして優劣を競うゲームであり、この点では一定のルールのもとに競
い合うスポーツ競技となんら変わるところはなく、スポーツ競技に著作物性が
無いとすれば将棋についても同様に考えられるのではないか(もっともスポー
ツは体力を使うのに対し、将棋は知力を使うという差異があるという反論が提
起されるかも知れないが、スポーツは体力だけではなく戦略も重要な要素であ
ることを考えれば、両者間にそれほどの差異があるとは考えられない)と捉え
ることもでき、さらに棋譜に著作物性を認めると、棋士が将棋を指す際に絶え
ず先人の棋譜に捉われ、自由な指し方が出来なくなるという弊害が生じる恐
れが出てこよう。こういったことから、私は今のところ、将棋の棋譜には著作物
性を認めず、誰でも自由に真似て良いものと考えてい
る。

 米長は2012年にコンピュータ将棋ソフト「ボンクラーズ」と対戦して敗れ、AI技
術はここまで進歩を遂げたのかと我々を驚かせたが、仮に棋譜に著作物性
を認めるとすると、この場合、米長と共同著作者となるのは誰なのかが問題
となろう。「ボンクラーズ」は人間ではないから著作者とはなり得ないし、かと言
って将棋ソフトの開発者も一手ごとのコマの動かし方について自身で考えたわ
けではないので、彼を著作者とみることも妥当とは言えないだろう。さすれば、
人間を抜きにして将棋ソフト同士が戦うとなったとき、その棋譜の著作権はど
うなるのだろうか。最近のニュースによると、第27回世界コンピュータ将棋選
手権大会が川崎市で催され、将棋ソフト同士の熾烈な戦いが行われたとのこ
とである。その結果、江戸川区の会社員瀧澤誠氏の開発したソフトが予想を
裏切って優勝したが、瀧澤氏自身は将棋を指すことが全く出来ないとのことで
あった。この事実からすると、将棋ソフトの開発者を棋譜の著作者とみること
は出来ないということになろうし、ましてやAIそのものを著作者とみることは現
行法上無理である。このように見てくると、人知の及ばぬところで戦う高次元の
AI将棋の棋譜に著作物性が無いとしなければならないであろうし、これに引き
換え生身の人間同士が戦う低次元?の棋譜に著作物性ありと認めることはい
ささか違和感を覚えることになるのではなかろうか。あれこれ考えると、やはり
将棋の棋譜には著作物性は無いとしておいたほうが無難であるように思われ
るが、いかがなものであろうか。

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