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JRRCマガジン No.420 2025/5/29
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日5月29日は「幸福の日」です。
「幸(5)福(29)」の語呂合わせから、世界中の人々が幸せで平穏に暮らせることを祈って制定された日だそうです。
さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/
◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━
9 室内装飾の著作権侵害事件とその解説
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中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
1.はじめに
近年、商業空間における視覚体験の重要性が高まる中、芸術性を備えたインテリアデザインは、ブランドの認知および消費者の注目を集める重要な要素となっている一方、室内装飾デザインが著作権法上の「作品」として保護され得るかが、司法実務において課題となっています。特に、公有領域の要素を取り入れたり、機能性を含む設計との融合がある場合において、独創性の判断および実質的類似性の比較は、裁判所の判断力を試すものともなります。
本稿で分析する室内装飾の著作権侵害事件は、宝飾店舗のインテリア設計に関する著作権紛争をめぐるものであり、著作権者の認定、実質的類似性の判断、さらにはフランチャイズ形態における責任分担に至るまで、多くの示唆に富んだ事案となります。
2.事件の概要
原告(控訴人):孫氏
被告1(控訴人):北京水点桃花芸術有限公司(以下、「水点桃花社」ともいう)
被告2(被控訴人):南昌宮匠珠宝有限公司(以下、「南昌宮匠社」ともいう)
第一審裁判所:北京市朝陽区人民法院
第二審裁判所:北京知識産権法院
(1)主な争点
[1] 孫氏が本件訴訟を提起する権限を有するか(孫氏は著作権者であるか否か)
[2] 被告1(水点桃花社)および被告2(南昌宮匠社)の行為が著作権侵害に該当し、責任を負うべきか
[3] 第一審で認定された損害賠償額が妥当か
(2)裁判所の判断要旨
争点1について:
孫氏が提出した《作品登記証書》、《設計契約》、《補充協議》、《創作説明》などの証拠から、三間堂社に委託して創作された本件作品の著作権が孫氏に帰属する旨が明示されており、これに反する証拠も存在しないことから、孫氏は正当な著作権者であり、本件訴訟を提起する権限を有すると認定された。
争点2について:
(イ)著作権法が保護するのは、作品中に含まれる独創的な表現である。たとえ作品の中に他人の創作を借用・引用していたり、すでにパブリックドメインに入った要素や作品が含まれていたとしても、作者が創作的労力を注いで形成した表現については、やはり保護の対象とされる。
本件作品は、宝飾品店舗のインテリアデザインであり、作者は、赤色・黒色・複数のアーチ形の間仕切りといったパブリックドメインで一般的に見られる要素を採用しているものの、層を重ねるように配置されたアーチ状の間仕切りによって通路を形成し、その縁に白色のライトを埋め込み、空間の奥には反射鏡を設置し、全体として赤色の壁および天井、黒色の反射床を採用することで、一体感のある視覚的効果を創出し、空間の層次感や奥行きを強調している。これらの設計には、作者による取捨選択、構成の工夫が含まれており、一定の独創性を備えている。したがって、本件作品は著作権法が求める「独創性」の要件を満たしており、著作権法によって保護されるべきである。
(ロ)実質的類似性の認定、すなわち本件作品と対象店舗の比較においては、対象店舗のデザインが本件作品の独創的表現を利用しているかどうかを重点的に検討し、一般公衆の視点から全体的な視覚効果をもとに判断すべきである。
比較の結果、本件作品と対象店舗の外観とが類似する点は、いずれも赤いアーチ状の間仕切りを採用しており、その縁には白色のライトが埋め込まれ、奥の壁には反射鏡が設置されており、アーチ状の間仕切りによって通路が形成され、床は黒色の反射素材で仕上げられ、アーチの白いライトが黒い床に映り込むことで一体感のある視覚効果を生み出している。さらに複数のアーチが組み合わさることにより、空間の層次感や奥行きが強調されており、これらの類似点はすべて本件作品の独創的な表現に該当する。
両者の相違点としては、対象店舗では各アーチの間に「朵形」の窓が設けられていたり、カウンターの形状や材質が完全には一致していないこと、黒色の床に白い模様が加えられていることなどが挙げられる。しかしながら、全体の視覚的印象を一般公衆の目で観察した場合、これらの違いは視覚効果における実質的な差異とは言えない。したがって両者は実質的に類似していると判断される。
すなわち、対象店舗は、本件作品と実質的に類似するデザインを使用しており、本件作品を平面から立体へと再現したものであるといえる。
(ハ)加盟店のVI(ビジュアル・アイデンティティ)デザインはブランド側から提供されており、ブランド側は加盟店と連帯して著作権侵害の責任を負うべきである。
被告1は「宮匠造办」というブランドの本部であり、その他の会社が本ブランドに関連する業務を行うには基本的に同社の承認が必要であり、各店舗の外観も本部の統一的な指示に基づいている。被告1と被告2は、それぞれが加盟関係にあり、前者がライセンサー、後者が加盟者であると主張している。したがって、被告1が被告2に対して加盟サービスを提供する過程で、対象店舗の外観についても統一的なアレンジを行っていたことが認められ、被告1は当該店舗の外観デザインに関与し、被告2と共同で複製権の侵害行為を実施したと認定されるため、著作権侵害の責任を負うべきである。
争点3について:
現時点で孫氏が被った経済的損失や被告の不正利益を立証する証拠はなく、参考となるロイヤリティの基準も存在しないことから、裁判所は作品の独創性、侵害行為の性質、両者の関係性等を総合考慮して、一審裁判所に認定された損害額や合理的費用は合理的かつ適法とされた。
(3)判決結果(控訴棄却・原判維持)
被告両社は、判決確定日以降、直ちに著作権侵害行為を停止すること
被告両社は、10日以内に孫氏に対し10万元の損害賠償を支払うこと
被告両社は、10日以内に孫氏の合理的費用1万元を支払うこと
-(2024年)京73民終1868号
3. 分析
(1)作品の帰属および訴権の根拠の確認
裁判所は、《作品登記証書》・《設計契約》・《補足協議》など一連の文書に基づき、本件作品が原告である孫氏によって第三者会社に委託されて創作されたものであり、かつ著作権が孫氏に帰属することが契約上明確に定められていることを確認しました。被告側が有効な反証を提示できなかったことから、裁判所は孫氏が正当な著作権者であり、本件訴訟を提起する権限を有すると認定しました。このような判断の枠組みは、反証が存在しない場合において、登記証書および書面契約が著作権帰属の証拠として重要な役割を果たすことを示しています。
(2)独創性の判断および実質的類似性の認定
裁判所は明確に、著作権法が保護するのは独創性を備えた表現であると指摘しています。たとえ作品の一部の要素がパブリックドメインに由来するものであったり、一般的なデザインであっても、全体として作者の個性的な選択と創作的労力が表現されていれば、それは保護される作品と見なされます。
本件において、問題となったインテリアデザインは、アーチ型の扉や赤黒の配色など一般的な要素を取り入れているが、それらを段階的に重ねた構造、照明と鏡面の反射の組み合わせ、空間配置の統一性などにより、特有の視覚効果と空間的奥行きを形成しており、一定の独創性を有していることから、著作権法における「作品」の認定基準を満たしていると認定されました。
侵害の有無の比較判断において、裁判所は「全体的な視覚効果」の観点を採用し、一般公衆の認識を基準として判断しました。被告店舗のデザインは、アーチの配置、照明の設置、鏡の使用など、核心的な表現において原作品と高度に類似しており、実質的類似性が認定されました。
すなわち、完全な複製でない場合であっても、侵害か否かを判断する要点は、被告作品が原作品の「最も独創性を体現している本質的部分」を利用しているかどうかにあるとされました。裁判所は、作者の取捨選択が現れている核心的な構図や構造要素、たとえばアーチの組み合わせ、照明と鏡の視覚的効果、色と光の統一感などに着目し、それらが本件作品の核心的な表現内容であると認定しました。
このような核心的部分に基づけば、たとえ被告作品がカウンターの材質やアーチ間の間隔などの非核心要素において変更を加えていたとしても、全体の表現として十分な「視覚的距離」が確保されていなければ、原作品の実質的内容の複製と見なされ得るとされました。
また、被告が主張した「細部の不一致」による弁解については、裁判所はこれを採用せず、その理由として、それらの細かな相違は視覚的印象の核心部分を変えるものではなく、観客の全体的認知に実質的な影響を及ぼさない点を挙げています。
(3)フランチャイズ形態における共同侵害責任の認定
本件のもう一つの重要な論点は、ブランド本部と加盟店との間の責任分担に関するものです。裁判所は、ブランド側である被告1のフランチャイズにおける具体的な役割を審査し、被告1がVI(ビジュアル・アイデンティティ)デザインの提供にとどまらず、店舗の外観についても統一的な設計・承認権限を有していたことを確認しました。これにより、被告1は本件侵害デザインに実質的に関与していたと認定され、被告2の加盟店と共同で著作権侵害の責任を負うべきであると判断されました。
このような認定は、チェーン展開を行う本部企業に対して、知的財産権に関する法令遵守義務を一層重視させるものであり、また、業界実務における権限の所在と管理責任の境界についても明確な指針を提示するものと考えられます。
4. 結語
本件判決は、室内装飾デザインが独創性のある表現である場合、著作権法により保護されることを明確に示しました。また、実質的類似性の判断基準をさらに具体化するとともに、フランチャイズというビジネスモデルの下でブランド側が負う法的責任についても指針を提示したものとなります。また、デザイナーにとっては、本件は創作成果を法的に権利化することの重要性を再認識させるものであり、ブランド企業にとっては、統一的なデザイン提供に際して著作権遵守の審査を強化する必要性を示唆するものと考えられます。
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