JRRCマガジン No.147 TVEyes事件

山本隆司

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JRRCマガジン No.147  2018/10/10
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10月10日は何の日?と聞かれた時、皆さまはどのようにお
答えになられますでしょうか。
体育の日が10月の第二月曜に変更されてから18年、世代に
よってはその答えが明確に分かれてくるのかもしれません。

さて、今回の山本隆司弁護士のコラムは「TVEyes事件」です。

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━━━━

第68回 「TVEyes事件」

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来年1月1日に日本版フェア・ユースが施行されます。日本版
フェア・ユースは、もっぱらアメリカのフェア・ユースの法理
として発展してきたトランスフォーマティブ・ユース
(transformative use)の考え方に範を取るものです。今年の
2月にアメリカの第2巡回区連邦控訴裁判所(控裁)が
TVEyes事件について下した判決(Fox News Network,
LLC v. TVEyes Inc., F.3d (2d Cir. 2018))は、
トランスフォーマティブ・ユースの適用方法について、
考えさせる点がありましたので、ご紹介したいと思います。
 この事件の被告は、全米のテレビ放送局とラジオ放送局の放
送番組を録画・録音して、データベースを作りました。その顧
客は、キーワードでそのデータベースから番組を検索すること
ができ、キーワードを含む文字起こし文と10分程度の動画を観
ることができます。原審であるニューヨーク南部地区連邦地方
裁判所(地裁)は被告の行為をフェア・ユースに該当すると認
定しました。そこで、原告は、データベースの作成と検索サー
ビスの点については争いませんでしたが、10分程度の動画を観
せることについてはフェア・ユースに該当しないと主張して控
訴しました。
 控裁は、フェア・ユース判断の第1の考慮要素である「著作
物使用の目的および性格」について、わずかながらもトランス
フォーマティブであると認定しましたが、第4の要素である
「著作物市場への影響」について、重大な被害があると認定し
ました。その結果、10分程度の動画を観せることは、最終的に
フェア・ユースに該当しないと判断しました。
この判決の結論は妥当だと思います。しかし、わずかながらも
トランスフォーマティブであると認定しながら、フェア・ユー
スに該当しないと判断した点には問題があると思います。なお、
この判決に参加したカプラン判事も、トランスフォーマティブ
であるとの認定に反対意見を書いています。
まず、トランスフォーマティブの意味を押さえておきましょう。
トランスフォーマティブ・ユースとは、新しい作品が原著作物
の対象に取って代わるのではなく、新しい表現、意味付けまた
はメッセージで原著作物を改変して新たな目的または異なる性
質の新規物を付け加える使用方法です(キャンベル判決)。
報道目的での使用などのように、二次的著作物の作成でなくて
もトランスフォーマティブ・ユースの成立が認められます。
トランスフォーマティブ・ユースとは、一言でいえば、原著作
物の表現を利用しつつも、原著作物の鑑賞価値を利用せず、原
著作物の表現に別の意味づけを与える使用方法といえます。
パロディや比較広告を含め批判・批評のように著作物に対して
否定的評価をする場合や報道や研究のようにそれ自身は価値中
立的であって著作物の鑑賞を目的としない場合に認められてい
ます。
 つぎに、これまでの裁判例を見ると、もっぱらトランスフォ
ーマティブと認定された事案において、フェア・ユースの成立
が否定されたものはほとんどありません。トランスフォーマテ
ィブであると認められるためには著作物の鑑賞価値の利用を目
的にしないことが必要であるので、その評価においてすでに第
3の考慮要素(使用の量と質)および第4の考慮要素に対する
評価をかなりの程度取り込んでいるからです。また、第2の考
慮要素(使用された著作物の性質)はフェア・ユースに決定的
ではありません。したがって、トランスフォーマティブと認定
されれば、フェア・ユースが成立するかなりの蓋然性がありま
す。
 以上を前提に、TVEyes事件をみてみましょう。控裁は、10分
程度の動画を観せることは検索する番組を特定する機能がある
ので、わずかながらもトランスフォーマティブであると認定し
ました。しかし、番組特定の目的には静止画または数秒の動画
で十分です。番組特定の目的には、10分程度の動画は、過剰で
す。10分程度の動画を観せることは、十分に番組自体を鑑賞さ
せる機能を持っています(被告もその機能を目的としてその長
さにしたとも思えます)。したがって、その行為の性格をトラ
ンスフォーマティブであると認定することは誤りであると思い
ます。
 控裁は、第4の考慮要素(市場への影響)を理由にフェア・
ユースの成立を否定していますが、そこにも矛盾が生じます。
仮に被告が番組特定の目的には静止画または数秒の動画を観て
いただけの場合でも、控裁の認定では被告の収入を根拠に市場
への影響を肯定しているので、控裁の論理では、やはりフェア・
ユースの成立が否定されてしまいます。しかし、控裁も、仮に
被告が番組特定の目的には静止画または数秒の動画を観せてい
ただけの場合であれば、フェア・ユースの成立を肯定していた
はずです。したがって、やはり、被告が10分程度の動画を観せ
る行為の性格をトランスフォーマティブと認定したことに誤り
があったように思います。

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