JRRCマガジン No.131 私的領域における著作物等の利用について(9-2)

川瀬真

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JRRCマガジン No.131  2018/4/20
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東京地方、初夏を思わせるような日が何日か続き、
自宅近くの燕の卵の孵化やひなの巣立ちも例年より早まる予感がする今日この頃ですが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
『「私的使用のための複製(30条)」と著作物の利用責任について』の第2回目。
間接侵害を巡る問題に関して、
文化庁文化審議会著作権分科会におけるこれまでの検討について
お話しくださいました。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━

第23回「私的領域における著作物等の利用について(7-2)
   「私的使用のための複製」(30条)と
        著作物の利用責任について(その2)」

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3 立法的解決に向けての検討
(1)経緯
前回お話しした範的利用主体論については、
昭和63(1988)年のクラブキャッツアイ事件最高裁判決以来「カラオケ法理」と称され、
その後の様々な事件に適用されてきました。

規範的利用主体論は、直接的行為者の行為を間接的行為者の行為と認定した上で、
間接的行為者に法的責任を課そうとするものです。
特に侵害行為の幇助者に差止請求が認められにくいわが国においては、
間接的行為者を作物等の利用主体と認定することで差止請求が認められやすい
という大きな効果があります。
ただし、一方で「カラオケ法理」の適用範囲が広がることによる弊害の指摘もありました。
すなわち、適用範囲が拡大することにより、権利侵害かどうかに関する予測が困難になり、
例えば新しい事業を展開する場合に委縮効果が起こるのではないか等の意見です。

この弊害をなくすためには、直接的行為者と間接的行為者の行為を法律上分離し、
一定の行為類型を定めた上で、
間接的行為者に対する差止請求を認めるといういわゆる「間接侵害」規定を創設する必要が
あるのではないかという指摘が行われました。
また、この意見は、利用者側だけでなく、権利者側からも一定の支持を得ることができ、
文化庁の文化審議会著作権分科会において平成14(2002)年度から検討が行われました。

(2)法制問題小委員会司法救済ワーキングチームによる検討結果
文化審議会著作権分科会においては、
平成17(2005)年度から同分科会の法制問題小委員会に司法救済ワーキングチームが設置され
本格的に検討されました。
同チームでは、判例、外国法、民法、特許法等の多くの角度から調査・研究を重ねました。
その結果、著作物の利用の特性を考えると、
特許法で採用されている間接的行為者の行為を「侵害とみなす行為」(特許法101条)ととらえて
特許権侵害ではないがそれに類似する侵害行為として事実上権利侵害の範囲を
拡大して差止請求を認める方法よりは、
著作権法112条に一定の行為類型を追加して差止請求可能な範囲を明確化する方法が
適当ではないかとの見解を示しました。
また、その見解を踏まえた上で、
同チームは、平成24(2012)年1月に『「間接侵害」等に関する考え方の整理』
(以下「考え方の整理」という)を公表しました。

この考え方の整理によりますと、
差止請求の対象者は直接的行為者に限定されるものではなく、
一定の範囲の間接的行為者も対象とするべきであるとした上で、
直接的行為者の権利侵害の成立を前提とするかについては、
例えば直接的行為者の行為が権利制限規定によって適法であった場合、
間接侵害行為者がその適法行為を助長ないし容易化等する行為を行ったとしても、
その行為を適法な行為とするのは適当ではないことから、
直接的行為者の違法行為を前提とする立場で制度設計をすることを求めました(「従属説」の採用)。

さらに、差止請求の対象となる行為については、
①専ら侵害の用に供される物品(プログラムを含む。以下同じ)・場ないし
侵害のために特に設計されまたは適用された物品・場を提供する者
②侵害発生の実質的危険性を有する物品・場を、侵害発生を知り、
又は知るべきでありながら、侵害発生防止の合理的措置を採ることなく、
当該侵害のために提供する者
③物品・場を、侵害発生を積極的に誘引する態様で、提供する者
の3類型を提案しています。
この類型化については、これまでの判例等の分析が大きな影響を与えていると思います。
例えば、カラオケ装置、複製機器、送受信設備(サーバー等)を提供している事業者については、
いずれかの類型に該当する可能性が高いと思われます。

しかしながら、従属性説を採用することになれば、
直接的行為者の著作物の利用行為を権利者の許諾が必要な行為とする必要がありますので、
例えば、昭和59(1984)年の音や映像のダビング業への対応を行った著作権法改正の時のように、
「私的使用のための複製」(30条)の適用範囲の更なる縮小が必要になるかもしれません。
ただ、これは、後述する関係者からのヒアリングでも指摘されたように、
直接的行為者と間接的行為者を分離し法的に明確化することは、これまでの判例との関係、
すなわち規範的利用主体論との関係がどうなるのか等の新たな問題点が生じることになります。

また、昭和59(1984)年改正の際はたとえ私的使用目的であっても
「公衆の利用に供する自動複製機器を用いて」行う複製を30条の対象外にしましたが、
例えば送受信設備(サーバー等)は自動複製機器かどうかとの問題点の指摘もあるとおり、
技術の発達が急な現在において、法律で技術を固定化することがいいのかどうかの議論も
あるところです。

(3)文化審議会著作権分科会の提言とその後の対応
このような司法救済ワーキングチームの結果を踏まえ、
平成25(2013)年2月に法制問題小委員会では関係者からのヒアリング等の結果も踏まえた上で
審議の経過を公表し、同月の文化審議会著作権分科会でこの報告が了承されました。
この審議の経過においては、関係団体や委員からも賛否両論やもう少し時間をかけて
議論すべきであるとの意見があったところから、
立法措置についてはさらに検討すべきということになり、
立法的解決については継続審議となりました。

このようなことから、著作権法改正は当面見送られることになりました。
このような結果になったのは、
前回でもお話ししたように平成23(2011)年1月のロクラクⅡ最高裁判決において、
規範的利用主体論が再整理され、
昭和63(1988)年の最高裁判決を合わせた2つの最高裁判決によりこの考え方が定着したことが
大きく影響していると考えられます。

4 おわりに
以上のようにわが国では規範的利用主体論が定着し一定の秩序形成が図られているところですが、
個人的には昭和59(1984)年の著作権法改正との関係が気になるところです。
すなわち、この改正では、私的使用目的であっても、
公衆の利用に供する自動複製機器で著作物等を複製する場合を30条の適用から外した上で(30条1項1号の新設)、
新たに119条2項2号を設け、
営利目的で当該自動複製機器を顧客に使用させた者を罰則の対象としております。
また、一方で、当時文献複写が社会問題になっていなかったこと等の理由から
附則5条の2を設け、当分の間の暫定措置ではありますが、文献複写機器は対象外にし、
コンビニ等で行う利用者の複写行為を適法なものとしています。

この改正は、昭和63(1988)年の最高裁判決前の改正でしたので、
音又は映像のダビング屋の機器を利用して複製を行う利用者の行為とダビング屋の
機器・場の提供行為を分離して、利用者は罰則なしの著作権侵害、
店は独立犯として罰則の適用で対応したところです。
最近は技術の進歩により、出版物に掲載されている著作物を裁断した上で、
スキャナーで読み取りパソコン等に複製することができますが、
これをビジネスにしている業者が現れています。
この業態には、顧客から出版物を預かり業者自らが複製をして顧客に複製物を提供するものと、
店頭に出版物の裁断機やスキャナーを設置し顧客が自ら複製をする業態
(世の中では「自炊」といわれている)とがあるようです。
前者の業態については、業者自ら複製をする形態ですので当然違法と考えられますが、
もう一つの業態については、
附則5条の2により自動複製機器には「専ら文書又は図画の複製に供するものを含まない」
ことになっているので、自炊の機器がこの自動複製機器に該当するのかどうか、
また、規範的利用主体論により業者の行為を利用主体と認めて法的責任を課すことが出来るのかどうか、
見解が分かれるところです。
このほか、クラウド業者が提供する記憶領域を使って利用者が私的使用目的で著作物を複製する場合についても、
平成27(2015)年2月の文化審議会著作権分科会の著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会において、
ロッカー型クラウドサービスの利用については原則30条の適用があるとの見解が示されていますが、
業者の関与の程度によっては業者の利用主体性が認められることがあるかもしれません。
以上、この問題については,今後の判例の動向に注意しておく必要があると考えます。

「私的使用のための複製」(30条)を巡る法律改正や判例の動向は今回で終了します。
次回からは、放送、有線放送、インターネット送信等の公衆送信に係わる制度改正や判例について解説します。
どうぞお楽しみに。
  

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