JRRCマガジン No.139 著作物等の公衆送信に関する諸問題について(1-2)

川瀬真

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JRRCマガジン No.139  2018/7/19
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グンと伸びた向日葵が日差しをめいっぱい浴び、
まだまだ足りないと頑張っている夏の日。
寝苦しい夜が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「著作物等の公衆送信に関する諸問題について」の2回目
「公衆送信権創設の経緯とその内容(その2)」です。
送信関係の権利に関する法改正の経緯を分かり易くお話しくださいました。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━

第24回 著作物等の公衆送信に関する諸問題について(1)
    「公衆送信権創設の経緯とその内容(その2)」

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4 1997(平成9)年の著作権法改正
(1)「著作権に関する知的所有権機関条約」(WPT)及び
  「実演・レコードに関する知的所有権機関条約」(WPPT)の制定
国際社会におけるデジタル・ネットワーク社会の進展は目を見張るものがあり、
特に先進国間においては、デジ・ネット社会にふさわしい新たな権利保護の
秩序形成を求める機運が高まりました。このような状況の中で、世界知的所
有権機関(WIPO)において、1996(平成8)年に標記の2つの条約が作成されました。
これらの条約のうちWPTの特徴は、デジ・ネット社会の到来を踏まえた上で、
①コンピュータ・プログラムやデータベースの保護等に加えて、②リクエスト
型の送信や利用可能化(ネット上にアップロードすること)に関する権利を創設
すること、③技術的保護手段の回避利用に関する法的保護等を定めること、
④電磁的な権利管理情報の改ざん等に関する法的救済を定めること等を内容
としています。また、WPTは、ベルヌ条約の加盟国しか参加できないことに
なっており、いわばベルヌ条約における先進国グループのための条約という
位置付けになっています。

また、WPPTについてですが、この条約は保護の対象を「音の実演」と「レコ
ード」に限定しています。また、WPPTは、WPTと異なり、独立した条約ですので、
実演及びレコードを保護するための一般的なルールを定めることに加え、
最低限保護すべき権利を定めており、その中で利用可能化に関する権利の創設
を定めています。更に上記③、④について義務化されているのはWPTと同じです。
両条約について、わが国は何回かの著作権法の改正を経て、WPTについては
2000(平成12)年に、またWPPTについては2002(平成14)年に条約を締結しました。
なお、視聴覚実演の保護については、2012(平成24)年にWIPOにおいて「視聴
覚実演に関する北京条約」が作成され、わが国は2014(平成26)年に条約を締結
しましたが、まだ未発効です。さらに、放送機関に関する条約については現在
検討中という状況です。

(2)改正の内容
1997(平成9)年の著作権法改正のうち、著作者の公衆送信権及び実演家・レコー
ド製作者の送信可能化権について説明します。
①著作者の公衆送信権
公衆送信に関する権利は、前回説明したとおり、1970(昭和45)年の現行著作権
法の制定時に放送権と有線放送権が創設され、1986(昭和61)年の著作権法改正
で有線放送権が有線送信権に改められ、放送権と有線送信権(有線放送は有線
送信の一形態)が並列する形になりました。
改正当時、放送についてはリクエスト型の放送がなかったので、このような変
則的な形になったのですが、その後の技術革新の進展とWPTの内容(8条)を踏まえ、
有線か無線かの区別をすることなく放送と有線送信を融合した形で「公衆送信」
の概念を定義し(2条1項7号の2)、その定義を踏まえた上で、公衆送信権(23条1項)
を創設しました。

(公衆送信の3つの類型)
そうした上で、送信形態を3種類の内容に分けました。
1つ目は、現行著作権法の創設時の放送と有線放送と同じ概念である「公衆に
よって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的とする無線通信の送信」
(2条1項8号、有線放送については「無線送信」を「有線電気通信」に読み替え
(同条同項9号の2))です。これに該当するのが、NHKや民放が行う通常の放送、
ケーブルテレビ局の有線放送、音楽有線放送等のいわゆる伝統的な送信です。
2つ目は、リクエスト型の送信のうち、利用者(公衆)の求めに応じ、自動的に
当該利用者に送信される形態のもので、著作権法上これを「自動公衆送信」
(2条1項9号の4)といいます。この形態の送信の典型的な例が、利用者の求めに
応じて行われるネット上のサーバーからの送信です。官庁、企業、個人等のHP
からの送信、音楽、映像等の配信サービス、動画等の投稿サービス等について
はおおむねこの形態の利用です。
3つ目は、リクエスト型の送信のうち、自動公衆送信以外の送信です。例えば、
利用者からの電話やメールでのリクエストに応じ、ファックスやメールにて
送信することです。いわば手動で行う公衆送信といってもいいと思います。

(自動公衆送信と送信可能化)
また、2つ目の自動公衆送信については、利用者からのリクエストがあればいつ
でも送信できる状態に置く、すなわちアップロードする行為を「送信可能化」
(2条1項9号の5)と定義し、送信可能化に該当する行為も公衆送信権の内容の一部
としました(23条1項)。この措置はWPT上の義務でもあるのですが、この措置により、
権利者は例えば公衆送信権侵害の主張をするに当たり、送信行為の立証をする
必要はなく、権利者の作品がネット上にアップロードされていることさえ確認
できれば、公衆送信権侵害を主張できることになります。この措置は権利者側
の立証負担を大幅に軽減できる画期的な仕組みといえます。

(送信可能化の内容)
ところで、送信可能化の内容ですが、大別して蓄積型と入力型の2つがあります。
蓄積型については、①サーバー(自動公衆送信装置)に情報を記録すること、
②情報が記録された記録媒体をサーバーに接続している記録媒体として加える
こと(注1)、及び③情報が記録されている記録媒体を送信可能な記録媒体に変換
すること(注2)が該当します。
これらのうち少なくとも①の「記録をする」という行為は「複製」に該当する
行為でもあるので、この場合、無断利用に当たっては公衆送信権(23条1項)と
複製権(21条)の二重の権利侵害になることになります。

(注1)昔スナック等の飲食店にあったレーザーディスクカラオケを想像してください。
仮にこのカラオケ装置がネットでつながっているとして、利用者はネット経由
でリクエストをして好きな曲を選択して聴けることになります。この場合、毎月
カラオケリース事業者は係員をお店に派遣して、レーザーディスクが格納されて
いるオートチェンジャーに新曲が入ったレーザーディスクを装着するのですが、
この装着行為が「加えること」に該当します。
(注2)コンピュータに接続されている記録媒体であるがそのままではネットに流せ
ない形式の情報をネットに流せるようその形式を変更すること等を「変換」といいます。

また、入力型については、サーバーに情報を入力し続けることをいいます。入力
については一般に蓄積を伴わないので、例えばインターネットを使ったライブ中継
の場合、リクエスト型の特徴である作品を最初から視聴することはできないことになり、
一般のテレビやラジオと同様、リクエストした時間以降の映像しか視聴できません。

なお、今までの解説はサーバーが通信回線に接続されていることを前提にしていま
すが(2条1項9号の5イ)、反対に送信する準備が整ったサーバーを通信回線に接続
することも「送信可能化」になります(2条1項9号の5ロ)。

②実演又はレコードに関する送信可能化権
WPPTは、レコードに固定された実演とレコードについて利用可能化に関する権利
の創設を締約国に求めています(10条、14条)。
わが国の著作隣接権制度は、1970(昭和45)年の現行著作権法の制定時に初めて創設
されたものですが、当時の内容については1961(昭和36)年に作成された「実演家、
レコード製作者及び放送機関の保護に関する条約」(実演家等保護条約又はローマ
条約)の内容に従い構成されています(わが国は1989(平成元)年に条約締結)。実演
家等保護条約については、WPPTと異なり、映像実演と音の実演を区別していない
ところから、「送信可能化権」の創設にあたっても、同条約の考えを踏襲し両者
を区別していません。なお、「送信可能化」の内容については著作権の場合と同様です。

5 2002(平成14)年の著作権法改正
この改正により、放送事業者と有線放送事業者に送信可能化権が付与されました
(99条の2、100条の4)。例えば、放送事業者の送信可能化権は、当該放送事業者の
「放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する
権利」と規定されていますので、権利が及ぶ範囲は現に発出されている放送電波等
を受信して直接的に行われるサーバーへの記録や入力等に事実上限定されています。
したがって、放送波を受信して一旦録音録画をした複製物を用いて送信可能化する
行為については、送信可能化権の対象にはならないことになりますが、録音録画の
時点で放送事業者の複製権(98条)が働きますので、事前に無断で録音録画をして
送信可能化をすればいずれにしても権利侵害を問われることになります。また、
例えばドラマのように事前に撮影が行われ編集も行った完成品を放送する場合は、
当該作品はおおむね映画の著作物として考えられますので、著作隣接権とは別に
著作権である公衆送信権(23条1項)が働くことになります。

次回は、放送と通信の融合が進む中で、放送・有線放送と入力型自動公衆送信の
境界がなくなりつつあることからの生じた諸課題とそれに対処した2006(平成18)
年の著作権法改正の内容について解説します。
 

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編集責任者 JRRC代表理事・副理事長 瀬尾 太一

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