JRRCマガジン No.135 著作物等の公衆送信に関する諸問題について(1-1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.135  2018/6/13
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梅雨に入り、
色とりどりの傘が街を彩り始めました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
今回より「著作物等の公衆送信に関する諸問題について」お話しいただきます。
第1回目は、「公衆送信権創設の経緯とその内容(その1)」です。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━

第24回 著作物等の公衆送信に関する諸問題について(1)
    「公衆送信権創設の経緯とその内容(その1)」

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1 はじめに
今回からは、著作物等の公衆送信に関する様々な問題について、
著作権法の改正で対応済みの事項も含め解説していきます。
今回は、公衆送信権の創設の経緯とその内容について、
公衆に著作物を無線又は有線で伝達する手段の開発普及の推移を踏まえ、
権利の内容がどのように変遷し現在に至ったのかを解説していきたいと思います。

2 旧著作権法における公衆送信に係る権利
わが国においてラジオ放送が開始されたのは1925(大正14)年です。
現在の日本放送協会(NHK)の前身である社団法人東京放送局が最初に放送を行いました。
放送というものは、
一度に多数の人に著作物を伝達することができる手段として画期的な方法でしたが、
当時の著作権法ではこの利用形態に対応する権利がありませんでした。
また、国際的にもその対応策について議論が行われたところです。
そのため、1928(昭和3)年のベルヌ条約ローマ改正会議において放送に係る権利の創設を
条約上の義務とすべきかどうかについて議論され、その結果次のような条文が追加されました。

「第11条の2 (1)文学的及び美術的著作物の著作者はその著作物を無線放送によりて
公衆に伝うることを許諾するの特権を享有す。(2)<略>」。

わが国ではこの改正を受けて、1931(昭和6)年の旧著作権法の改正により、
「文芸、学術又は美術の範囲に属する著作物の著作権は
その著作物の無線電話による放送を許諾するの権利を包含す。(後略)」(旧著第22条の5)
との規定が追加され、著作物の無線放送を著作権が働く利用形態であることを認めました。
次に、著作物の有線放送ですが、戦後、レコードを使用した音楽有線放送が普及してきましたが、
有線放送について著作権が働くかどうかについて争われた
ミュージック サプライ事件において最高裁判所は有線放送に係る権利は
著作者に与えられた「興行権」に含まれるとする判断をしました(1963(昭和38)年12月25日判決)。
したがって、旧著作権法の下では、無線放送については法改正により、
た有線放送については最高裁判例により、著作権が働くことになりました。

3 1970(昭和45)年の現行著作権法の制定
1970(昭和45)年の現行著作権法制定時には、
ベルヌ条約ブラッセル改正条約(当時の最新条約。現在の最新条約はパリ改正条約)等を踏まえ、
「著作者は、著作物を放送し、又は有線放送する権利を専有する」(23条1項)と規定されました。
また、その際、「放送」は「公衆によって直接受信されることを目的として
無線通信の送信を行うことをいう」(2条1項9号)と定義され、
「有線放送」は「公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信
(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内
(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)
にあるものによる送信を除く。)を行うことをいう)」(2条1項17号)と定義されました。
有線放送の定義については括弧書があるのでわかりにくいのですが、
おおざっぱに言えば、放送か有線放送かの違いは無線通信か有線電気通信か
どちらの手段を用いて送信するかの違いということです。
なお、制定当時は、利用者の求めに応じ当該者に送信するという
いわゆるリクエスト型の送信はなかったため、放送も有線放送も同一の情報が
同時に送られることを念頭に置いて定義されたことは間違いありません。

(注)有線放送の定義の括弧書の意味ですが、
例えば1つのビルを1つの会社が占有(使用)している場合に
当該ビル内にある放送室から有線電気通信設備を用いて
各部屋に備えてある受信機に著作物を送信したとしても、
同一構内での著作物の利用として有線放送には該当しないということです
(例えば、著作物が音楽の場合であれば有線放送ではなく演奏に該当します)。
また、括弧書内の括弧書きですが、
先の例でいうとある会社の占有は20階建ての10階から15階であるとすれば、
同一構内とはその10階から15階までをいうという意味です。

さらに、現行著作権法では、
送信行為とテレビやラジオの受信機を通じて著作物を公衆に伝達する行為を分離したため、
23条2項において「著作者は、放送され、又は有線放送されるその著作物を受信装置を用いて
公に伝達する権利を専有する。」と規定されました。
具体的に言いますと、
不特定又は特定多数の人が、テレビ、ラジオ等の受信機を通して、
著作物を視聴する際に、その伝達行為に働く権利と理解してもらうと分かりやすいと思います。

4 1986(昭和61)年の著作権法改正
(1)著作権審議会での検討
現行著作権法制定時後の技術の発展はめざましいものがあり、
例えばデータベースのオンライン・サービスや、
キャプテンサービスと呼称された利用者の求めに応じ基地局から文字や
静止画を家庭用の受信装置に送信するビデオテックスといわれるいわゆるリクエスト型の送信が
徐々に普及するようになりました。このようないわゆるリクエスト型の送信も含めて、
当時の社会では新しい情報の伝達手段が次々と開発され、
それらを総称してニューメディア という用語が頻繁に利用されるようになりました。
このような状況の中で、
いわゆるリクエスト型の送信は1970(昭和45)年の現行著作権法制定時には
想定されていなかった利用形態であったところから、
これが有線放送に該当するかどうか議論になったところです。
当時、コンピュータ・プログラムの法的保護について検討した著作権審議会第6小委員会において、
次のような見解が出され、いわゆるリクエスト型の送信であっても有線放送の範囲に含まれるとしました。

「プログラムの今後の提供の方法としては、
電話回線などを利用したオンライン・システムによる提供が考えられるが、
この場合有線放送権が及ぶかどうかが問題となる。
このような場合におけるプログラム供給者からのプログラムの送信は、
利用者からの要求に応じて個々に行われるので、
その点が一般の有線放送のように特定多数の者に同時に供給するものとは異なる。
しかし、この点については、
オンライン・システムによるプログラムは特定多数の者に対して反復して伝達されるので、
各々の送信の時間的なずれを除けば、それらの送信の総体は一般の有線放送と同様に考えられ、
それに対して有線放送権が及ぶと考えられる。」
(著作権審議会第6小委員会中間報告書(1984(昭和59)年)より)。

また、データベース・ニューメディア関係の課題について検討した著作権審議会第7小委員会においては、
いわゆるリクエスト型の送信については同審議会第6小委員会の見解を踏襲しながらも、
次のような見解が出され、著作権法改正による権利関係の明確化を提言しました。

「有線放送が同時に不特定多数の視聴者に送信する形態として従来から観念され、
社会的にも定着していることから、
解釈のみによって対処することは必ずしも適切ではない面もあるところである。
このことから、現在の有線放送の定義(第2条第1項第17号)を改正し、
データベースのオンライン・サービスのような利用者の求めに応じて情報が送られるものも
著作権法上の有線放送に該当することを明確にすること、または、有線放送という用語を用いず、
従来観念されている有線放送の他、データベースのオンライン・サービスのようなものを含む
著作物の有線電気通信による送信に関する権利を新たに設定する等の措置を講ずることが望ましい
と考えられる。」(著作権審議会第7小委員会報告書(1985(昭和60)年)より)。

(2)改正の内容
①著作者等の有する権利の明確化
改正の内容ですが、
「有線放送」の定義を同一の情報が同時に送られるいわゆる伝統的な有線放送を念頭に定義した上で、
いわゆるリクエスト型の送信も含めた広く公衆に送信する形態のものを一括して「有線送信」と定義しました。
具体的には、いわゆるリクエスト型の送信も含まれると解釈されていた改正前の「有線放送」の定義を
「有線送信」と置き換えた上で、新たに「有線放送」の定義を設け、
「有線送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行うもの」
(2条1項9号の2)としました。
なお、無線によるリクエスト型の送信については、当時その実態がなかったことから、
将来の課題とされ、改正はされませんでした。
このことから、改正後の著作権法では、
形式上「放送」と「有線送信」がおおむね同じ概念と規定されたたわけですが、
「放送」についてはいわゆるリクエスト型の実態がなく改正が行われなかったので、
有線送信という用語だけが突出し、やや違和感のある権利 構成になってしまいました。
なお、この定義の改正に伴って、例えば、実演家の権利についても、
「有線放送する権利」が「有線送信する権利」に改正されるなど(92条1項)、
関係規定の整備が行われたことは言うまでもありません。

②有線放送事業者の保護
①のとおり、有線放送に係る権利を整備したのと同時に、当時の有線テレビジョン放送事業者が、
放送の再送信だけでなく自主放送も行うようになったこと、
大規模多チャンネルのいわゆる都市型の事業者が出現してきたこと等の実態の変化を踏まえ、
有線放送事業者を著作隣接権者として法律上位置付け(「第5節 有線放送事業者の権利)の新設」等)、
放送事業者とほぼ同様の権利(複製権(100条の2)、放送権及び再有線放送権(100条の3)、
有線テレビジョン放送の伝達権(100条の4))と
特権(例えば、有線放送のための一時的固定制度(44条2項)の新設)を与える一方で、
放送事業者の義務と同様の義務を負うように関係規定が整備されました
(例えば、商業用レコードの二次使用料の支払い義務(95条1項の改正))。
なお、有線放送事業者の保護については、
わが国が加盟している隣接権関係の条約では保護の対象となっておりませんので、
現在においてもわが国独自の制度であり、原則として外国の事業者は保護しておりません(9条の2)。

以上のとおり、紙幅の関係で、送信関係の権利に関する整備等の経緯については、
1986(昭和61)年の著作権法改正まで説明しました。
次回は、その後の法改正の経緯について説明をします。

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