JRRCマガジン第60号(著作権法の分かり難さ)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.60 半田正夫の著作権の泉
                 第36回「著作権法の分かり難さ」
                                2016/6/1配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

昨夜の天体ショー「スーパーマーズ」をご覧になった方も多いのではないでしょうか?
ここ近年、天体ショーの目白押し。天文好きには、嬉しいようですね。
火星人の存在など、ミステリアスなイメージの火星。
次回2年後の「大接近」では、火星人の姿も!?

それでは、
「半田正夫の著作権の泉 第36回」をお送りいたします。
今回は、「著作権法の分かり難さ」です。

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半田正夫の著作権の泉 第36回 「著作権法の分かり難さ」
                       
 書棚を整理していたら、林修三の「法令作成の常識」が出てきた。林は鳩山・石橋・岸・
池田内閣の約10年間にわたり法制局長官として在職し、法律作成の生き字引とまでい
われた人物である。彼はこの本のなかで、法令立案にあたって心すべきことをいくつか
挙げているが、そのなかで、わかりやすい法文を書くべきことを提唱し、カッコ書きの文
章が読みづらいものであることに触れ、「とくに二重カッコの場合には、カッコの表現は
一様に( )でなされるために二重カッコがどこで終わっているかを発見しがたく、とくに
分かり難いものになっている。カッコ書き、とくに二重カッコの濫用なども避けたいことの1
つである。」と述べている(同書39頁)。
 彼が例に挙げたのは、当時の租税特別措置法35条1項であるが、同様の例は著作権
法にもみられる。たとえば、2条1項7号の2では、「公衆送信」の定義について、「公衆
によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通
信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その
構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)
にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」
がこれである。林が避けるべきだとされた二重カッコがここになんのためらいもなく使用
されている。林の指摘を俟つまでもなく、これを一読して理解できる者はまずいないと思
われる。事柄の正確さを担保するためにはある程度の悪文もやむをえないというべきだ
ろうが、それが度を越しては法としての機能が十分発揮できるのか疑問なしとしない。
だが、著作権法にはこのような法文が随所にみられ、現在では専門家でも理解しづらく
なっているといわれている。
 わが国の著作権法は、昭和45年に制定されたもので、戦後における機械技術の進展
による著作物利用の多様性を十分に見据えた立法であり、世界に誇り得るすばらしい
内容の法であったということができる。ただ当時はアナログ時代であり、そこに前提とさ
れていた著作物の利用方法はすべてアナログ技術に依存するものであった。ところが
昭和60年代以降になって世の中がデジタル技術に席巻されるようになると、著作権法も
この影響を受けて改正を余儀なくされ、爾来、20数度の手直しがこれに加えられている。
ただアナログ技術を予定して作られた法文にデジタル技術による手直しが継ぎはぎ細
工のように切り貼りを繰り返しているので、全体がいびつで、分かり難くなってきている
のも事実である。著作権法は文化法であるから文化に関心のある者であれば一読して
理解できる内容になっているのが理想であるが、現実ではむしろ逆の途を進んでいると
しか思えないようなものとなっている。私はかねてから、アナログ技術をベースにした著
作権法をデジタル時代に当てはめようということがムリなので、デジタル時代を十分に見
据えた新しい著作権法の制定を構築すべきだと主張してきている。だが、この衝に当た
るべき役所は文化庁著作権課であろうが、日々の行政事務に追われてその暇がないう
え、わずか2~3年で配転される係官の現状をみるとき、いままでの著作権法をリセット
して新しい理念で作り出す時間的余裕はないといってよい。とすれば、このような作業を
遂行するもっとも妥当な組織は著作権法学会を措いてないのではないか。幸い同学会
は会員数が大幅に増え多くの俊秀がそろっているので、彼らを動員して未来に向けて
の新しい著作権法の構築に学会挙げて協力するという態勢がとれないものかと考える
昨今である。

 林修三は法制局長官を退官後、一時、著作権審議会の委員に就任していたことがあ
り、その際、私も末席をけがして謦咳に接したことがあるが、その時の彼の頭の回転の
速さに驚いたことがある。いまの著作権法の条文を彼がみたらなんと言うだろうかと、
彼岸にいる彼に聞いてみたい気がする。

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