JRRCマガジン第56号(試験あれこれ)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.56 半田正夫の著作権の泉
                 第35回「試験あれこれ」
                                2016/5/10配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

GW期間中、30度近くまで気温が上がった東京地方、ここ数日で夏サキどり!?と
いった装いをたくさん見掛けるようになりました。
新緑の季節 梅雨までの爽やかなひと時 皆様はいかがお過ごしでしょうか?

それでは、
「半田正夫の著作権の泉 第35回」をお送りいたします。
今回は、「試験あれこれ」です。

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半田正夫の著作権の泉 第35回 「試験あれこれ」
                       

<挿話1>
30年ほど前の話になろうか。私が大学で著作権法の講義を担当していた頃、定期試験
の答案のなかに、末尾に次のような記述を発見し、思わずニヤリとした。

        「著作権所有者 甲野太郎(学生の氏名) 無断複製禁止」

もちろん、私は答案を読むだけで複製する気はさらさらない。それにしても彼はこの答
案が著作物であると思っているのか、私の講義を聴いてそれをただ書き写しているだ
けではないか、むしろ無断複製しているのは彼のほうではないかとさえ思える。もっとも
彼の複製は私的目的の複製であるから著作権法30条によってセーフと考えているのか
もしれない。でもノートに書くことと違い、答案に書くことは私的使用の範囲を逸脱して
いるのではないか。まてよ、授業課程における複製として35条によって許される範囲に
入るのか。さらに考えると、彼が答案に書いた内容は私の講義したものとは多少表現が
違っている。とすれば二次著作物とみるべきシロモノか・・・など、と考え出すときり
がない。
著作権にからむ問題は深く考えれば考えるほど複雑である。

この答案にどのような評価を下したのか、残念ながら記憶に定かではない。

<挿話2>
試験問題を作成する際に他人の著作物の一部を使う場合がある。それがたとえ一部
分であろうと、他人の著作物の複製にあたるのであるから、本人の許諾を得なければ
ならないはずであるが、試験問題としての性質上、事前に許諾を得ることは問題が外
部に漏れる可能性があるところからそれは出来ない相談である。そこで法は著作権者
の許諾を受けることなしに試験問題への採用を認めるにいたっている(著作権法36条
1項)。
 
ところで、これも今から数十年前になるが、NHKラジオで遠藤周作が次のようなことを
話していた。

「国語の入試問題に私の文章の一部が取り上げられ、『作者はここでなにを言おうとし
ているのか、次の中から選びなさい』として5択形式の文章が並べられていた。面白い
ので挑戦してみたが、5択のなかに自分が言おうとしているものは見当たらなかった。
そこであわてて正解を見てみたところ、これは絶対間違いと思っていたものが正解とな
っていた。自分の文章がまずいからこのような誤解を生じてしまったらしい」と彼一流
の皮肉っぽい口調で話していた。この入試問題は形のうえでは著作権侵害にも著作者人
格権侵害にも当たらないが、遠藤の自尊心を傷つけたという点では著作者人格権侵害以
上の打撃を著作者に与えたということができるかもしれない。他人の文章というものは
読者によってさまざまな受け取られ方をするものであるから、出題にあたってはその点を
よくわきまえていなければならないと痛感したしだいである。

<挿話3>
これもかなり前の話である。当時、私は皇族がよく通う大学に非常勤講師として通って
いたことがある。担当科目は「法学概論」であり学部が法学部であったこともあって必
修科目のためか400名ほどの学生が聴講していたようである。
前期の定期試験が終わったある暑い夏の日、当時わが家にはエアコンの設備がなか
ったため、ステテコ1枚の軽装のまま書斎で仕事をしていると、玄関で呼び鈴の音。
郵便かなと思ってステテコスタイルのままドアを開けると、そこには一見、侍従とおぼし
き品のいい紳士が暑い日差しのなかをキチッと黒っぽいスーツを着込み、純白の手袋
をはめた両手に紫色の大きな風呂敷包みをうやうやしく捧げ持って立っているのを見
て仰天。彼はその大学の職員で非常勤のわたしのために答案用紙を自宅まで持って
きただけだということが間もなく判明。ステテコスタイルの私はどぎまぎしながら応対
した。その姿はおそらくぶざまであったろうが、彼は謹厳そのものという様子で、笑い
もせず帰っていった。

あとで答案を見ていた私はそこに某皇族の名前を発見し、また仰天したのであった。

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