JRRCマガジン第54号(公衆利用可能化権)

山本隆司

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   JRRCマガジン No.54 

山本隆司弁護士の著作権談義
第42回「公衆利用可能化権」

                               2016/4/28配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

熊本地震から2週間が経過しました。
思いがけない地域での地震、と驚かれた方も多いのではないでしょうか?
未だ続く余震に、被災地の方々は心身ともに疲弊されていることでしょう。
被災された方へのお見舞いを申し上げ、1日も早い復興をお祈りいたします。

それでは、
山本隆司弁護士の著作権談義
第42回「公衆利用可能化権」
をお送りいたします。

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山本隆司弁護士の著作権談義 
第42回 「公衆利用可能化権」
                               
2016年2月に、米国著作権局が「米国における利用可能化権」(The Making Available
Right in the United States)という報告書を連邦議会に提出しました。
米国が加盟するWIPO著作権条約8条の後段は、著作物を公衆の利用に供する権利
(以下「公衆利用可能化権」といいます)を保障しています。この報告書は、米国の著作
権法が、公衆利用可能化権を保障しているかを検討し、どのような対応が必要かを論じ
ています。

公衆利用可能化権は、「公衆のそれぞれが選択する場所からまた選択する時期におい
て著作物へのアクセスが可能となる方法にて当該著作物を当該公衆の利用に供する」
権利です。

 この報告書では、WIPOの公衆利用可能化権を、「公衆」に著作物へのアクセスを「提
供」する権利と理解しています。そのうえで、米国の著作権法がこの権利をカバーしてい
るかを検討しています。結論的には、報告書は、米国著作権法106条規定の「頒布権」、
「公衆実演権」および「公衆展示権」が「公衆」に著作物へのアクセスを「提供」する権
利をカバーしていると判断しています。

 米国著作権法106条の頒布権は、著作物の公衆送信(→ダウンロード)を含むと理解
されています。問題は、公衆送信の「提供」(offer)まで含むかです。多くの裁判所は、
実際に送信していなくても、送信の提供があれば、頒布権に抵触すると解釈しています
が、そうではないとする裁判所もあります。

 米国著作権法106条の公衆実演権は、著作物のストリーミング配信を含むと理解され
ています。また、公衆展示権は、著作物をインターネット上で表示することを含むと理解
されています。裁判所は、著作物が公衆に実際に配信・表示された場合だけでなく、公
衆のアクセスがあればそれが可能となる状態にしただけ(→「提供」)でも、公衆実演権
や公衆展示権への抵触を認めています。

報告書は、以上のように分析し、連邦議会に対して、必要があれば、米国著作権法101
条に、頒布権には著作物へのアクセスを提供する権利を含むという確認規定を入れるよ
う提言しています。また、EUのように支分権として、公衆利用可能化権を106条に追加する
という対応策については、それに対する権利制限や他の支分権との調整など大きな再
編成を必要とするので、WIPO著作権条約の完全な履行という目的からは、利口な方法
ではないと提言しています。

 さらに、WIPO著作権条約の完全な履行という目的から離れて、WIPO条約後の技術の
発展に対応するための問題として、報告書は、著作物をアップしている他人の(適法)
サイトへリンクを張って、当該著作物へのアクセスを提供することも、公衆利用可能化権
の対象にするか、という問題を検討しています。一般に、違法サイトへのリンクは、違法
サイトによる送信を直接侵害とする寄与侵害(教唆・幇助)の成立が問題となりますが、
ここでは適法サイトへのリンクですので寄与侵害(教唆・幇助)の成立が問題となること
はありません。しかし、リンク行為自体が公衆に著作物へのアクセスを提供する行為な
ので、公衆利用可能化権の直接侵害に当たるのではないか、という問題です。欧州共同
体司法裁判所(CJEU)は、「新たな公衆」を基準に、それを肯定しています(Rafael Hotels,
2006 EUR-Lex CELX 62005CJ0306)。すなわち、元のサイトにアクセスを制限されている
公衆(新たな公衆)に、著作物へのアクセスを新たに提供するリンクは、公衆利用可能化
権に抵触するという解釈です。

 「リンク」を巡る法律問題は、リンク技術の発展につれて、今後議論が展開しそうです。

以上

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