JRRCマガジン第49号(納本制度をめぐる珍事件)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.49 半田正夫の著作権の泉
                 第33回「納本制度をめぐる珍事件」
                                2016/3/4配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

ここ2、3日の日差しの温もりが嬉しいですね。
もうすぐ、東日本大震災から5年となります。
あの日、あの時・・・日常に追われてしまうこの頃ですが、
今日という日に感謝し、3月11日を過ごしたいと思います。

では、
『半田正夫の著作権の泉 第33回「納本制度をめぐる珍事件」』を
お送りいたします。

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半田正夫の著作権の泉 第33回 納本制度をめぐる珍事件
                               
 世界のもっとも古い著作権法といわれているのは、1709年に制定されたイギリスの
アン女王の法律(Statute of Anne)である。これは、著作者およびその権利承継人に
対し、すでに印刷された著作物については、1710年4月1日から21年間、また新たに印
刷される著作物については出版後14年間にわたり出版権を保障し、権利者たることの
証明のために著作者に対し出版業組合への登録と一定の図書館への納本を義務づけた
ものである。正確には著作権法というよりは出版権法といったほうが事柄の本質をあ
らわしているといえようが、当時は著作物の利用方法としては出版しか考えられなか
ったので、これが著作権法のはしりといってもあながち間違いとは言い切れないので
ある。それはともかく、この法律によって著作者が権利を獲得するには一定の図書館
への納本が必要になった。そしてその図書館には、オックスフォード大、ケンブリッ
ジ大などが指定されていたので、これらの大学図書館は出版されるすべての書籍を無
償で手に入れることができたのである。これら大学図書館が膨大な蔵書量を世界に誇
れる所以となった原因はここにあるとみて差し支えないようである。

 一方、わが国においては著作権法の立法当初から、ベルヌ条約の定めに従い、著作
権の成立に無方式主義を採用し、納本などの手続きなしに、著作物の成立と同時に著
作権が発生するという仕組みをとっているため、納本制度とは無縁の存在であったと
いってよい。そのため、わが国においては国内で出版されるすべての文献を国の財産
として所蔵するというシステムが取られていなかったのである。
著作権の成立と納本を結びつけないのはいいとしても、発行されるすべての書籍を国
内のどこかで完備するという方法は一国の文化の質を確保するためにも絶対に必要な
仕組みであった。そのことに思い至ったわが国では、昭和23年に制定された国立国会
図書館法において初めてこの制度を採用した。同法によれば、国や地方公共団体が発
行する出版物はもとより、それ以外の者の発行する出版物についても、発行の日から
30日以内に最良版の完全なもの1部を国会図書館に納入しなければならないものとし、
(国会図書館法25条1項)、正当の理由なく出版物を納入しなかった場合には出版物の
小売価額の5倍に相当する金額の過料に処する旨の罰則規定を設けている(同法25条の
2)。他方、納入した場合には、当該出版物の出版および納入に通常要すべき費用に
相当する金額を代償金として交付することになっており(同法25条3項)、実際には小
売価格の5割プラス送料程度が支給されているようである。

 ところで、ここに「亜書」なる奇妙な本が登場する。この本はアレクサンドル・ミ
ヤコフスキーなる著者名(架空の人物)でギリシャ文字等をアトランダムに並べたものに
すぎず、1冊480頁で定価は64,800円、これが132巻からなる大著?で、「りすの書房」と
いう出版社の刊行によるという触れ込みであった。このうち78巻が国会図書館に納本と
して納入され、代償金として136万円がすでに支払われたというのである。これが代償金
目当ての新手の詐欺ではないかとマスコミでたたかれ、大騒ぎとなっている。
 国会図書館法によれば、納入すべき出版物として、図書、小冊子、逐次刊行物、楽譜等
が列挙されているだけで、その内容については全く触れていない。したがって、本書のよ
うにまったく意味をなさない内容のものであっても、図書としての体裁を整えていれば、
同法による納入の対象となり、また代償金交付の対象となるのであって、本書はこの点を
突いた脱法行為といえるかもしれない。だが、同法25条1項をよく読めば、「文化財の蓄
積及びその利用に資するため」納入しなければならないということが明記されており、
この目的に合致しない本書の類は同法にいう「出版物」に該当しないと解すべきで、はじ
めから納入を拒否すべき対象ではなかったかと思われるのである。

 最近の新聞報道では、国会図書館はすでに支払った代償金の返還を求めたとのことであ
る。そのことは当然であるにしても、なぜ代償金を支払う前に国会図書館が収納すべき
「出版物」か否かをチェックできなかったのかと疑問の残るところではある。

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