JRRCマガジン第45号(奇妙な権利)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.45 半田正夫の著作権の泉
                 第32回「奇妙な権利」
                                2016/2/3配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

2016年がスタートし、あっという間に2月ですね。
今日は「節分」です。
数年前、節分の日に各家庭から「鬼は~そと♪福は~うち♪」との声が聞こえてくるなか、
どこからか「オニは~そと♪オニは~うち!?」との声が、、、
つい間違えてしまったのだろうね~といった記憶があります。
みなさまも、くれぐれもお間違いないように。。。

さて、それでは『半田正夫の著作権の泉 第32回「奇妙な権利」』をお送りいたします。

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半田正夫の著作権の泉 第32回 奇妙な権利

現在の著作権法の立法当初から私には違和感を抱いている権利が一つある。それは
公表権である。公表権とは、著作物を公表するか否か、公表するとした場合にその時期
および方法をどうするかについて決定する著作者の権利のことであり、ドイツ、フラン
スにならってわが国では昭和46年施行の現著作権法において認められたものである。こ
の権利がどのような場合に使われるかというと、たとえば、小説家Aが小説を1本作成し
たが、出来栄えに若干の違和感を覚え、これの発表をためらっていたところ、B出版社
がAに断りなしに出版してしまったという場合に、AはBに対し、出版の差止め、つまり
公表の取り止めをこの権利に基づいて主張できるという形で使用されることになる。
作者本人が不満を持つ作品が不本意に世の中に出て非難を受けるのは耐えられないだろ
うという著作者の人格的利益を尊重する権利として著作者人格権の中に位置づけられて
いる。

 そのことはそれなりに分かるのであるが、はたしてこの権利が必要かという点になる
といささか疑問なきをえない。というのは、Bが出版する場合には必ず著作物の複製が行
われているはずであるから、わざわざ公表権のお出ましを願わなくても複製権の侵害で
Aは対処できるからである。同様に、無断上演の場合には上演権の侵害、無断放送の場
合には放送権の侵害などで対処でき、公表権の侵害として処理する必要はないといわ
ざるをえない。つまり、著作物は複製、放送、上演などいわゆる著作物の利用という手
段を通じて公表されるものであるから、利用権が著作権を構成する権利として認められ
ている以上、あえて公表権を認めることは屋上屋を重ねるようなものではないかと考え
られるからである。

もっとも、著作者が利用権をもっていない場合には公表権が機能する余地はあるといえ
るかもしれない。たとえば、上記の例で、Aが未公表の小説の著作権をB に売却・譲渡
した場合である。著作権は譲渡されても公表権はA のもとにとどまっているから、Bが
これを出版した場合にA は公表権を根拠に出版の差止めをすることができるというこ
とが形のうえではできることになるはずである。しかし、これが不当なことはいうま
でもない。著作権を譲渡するということは、譲受人が著作物を複製しようと公衆送信
しようと自由のはずであり、A はこれを承知のうえで譲渡しているとみるべきだから
である。そこで法は、未公表の著作物の著作権を譲渡した場合には著作者は公表につ
いて同意したものと推定するとの規定を置き(著作権法18条2項1号)、Aによる公表権
の行使を抑えている。

 上記の例は、著作者が公表について承諾していたとみてよい場合であるから、公表権
の行使を抑えてもいいだろうと考えることもできるかもしれない。だが、著作者本人が
公表をまったく望まないばかりか、他人がみても公表を望まないであろうと考えられる
場合であっても公表権の行使が許されない場合もある。それは、建築確認申請の際に
私人が行政機関に提出した未公表の文書、図画、写真などのように、私人の作成した
著作物が公文書扱いになっている場合などである。これらは情報公開法の規定によって
国民からの開示請求があれば原則として公開されることになっており(行政機関情報
公開法18条3項1号)、公表権の行使がまったく否定されているからである。
また、愛の告白をした恋文を、受け取った相手方が面白がって友人などに見せたような
場合、この恋文が著作物に該当するようなものであれば公表権の侵害として処理するこ
ともできようが、それが著作物性を有するか否かに関係なくプライバシーの侵害として
処理することができるので、わざわざ公表権を持ち出すまでもないといえるように思
われる。

 こうみてくると、公表権が独自に機能する場合はほとんどないといってよいようである。
現に公表権に関する判例がほとんどないことからもこのことが裏付けられるのではなか
ろうか。

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