JRRCマガジン第25号 連載記事

半田正夫の著作権の泉 

~第13回 電子出版時代に対応した著作権法改正(1)~

アナログ時代に作られた現著作権法はその後に到来したデジタル時代に対応するために部分的改正を繰り返し、その数は20回を数えるにいたっている。著作権法が施行されたのが昭和46年で今から43年前であるから、ほぼ1年おきに改正を繰り返していることになる。その改正箇所はほとんど法の全般に及んでいるが、ただ1箇所だけ手つかずに無風状態に置かれていたところがあった。それはほかでもなく「出版権」に関する79条から88条の規定群である。じつはこの規定は戦前の著作権法時代に設けられ、それがそのままそっくり受け継がれたものである。これは昭和9年に、当時流行った円本時代で隆盛を極めた出版業者を保護するために設けられた規定群であり、80年を経た現在にいたるまでほとんど無風状態のまま維持されていたというのはむしろ奇跡に近い現象であったといわなければなるまい。
しかし、この分野においても改革の斧が加えられるにいたった。ネットワーク時代の到来とともに電子書籍が登場し、電子書籍専用端末、スマートフォン、タブレット端末などの普及によってひとつの市場が形成されるにいたったが、これに伴って違法に複製されたいわゆる電子海賊版が横行するようになり、出版者が自分の名において差止め請求をする道を確保することが急務となってきたからである。これまでの出版権の規定は、当然のことながら、紙媒体の出版のみを対象としたもので、インターネットによる送信で行われる電子出版には全く対応していないことから、出版者を保護するためにはなんらかの立法的措置を講ずる必要があったのである。
この問題を検討するために設けられた文化審議会著作権分科会出版関連小委員会ではいくつかの提案が提起され、その結果、次の2つの案に集約されていったようである。一つは、出版者に著作隣接権としての新しい権利を創設するという案であり、他の一つは、従来の出版権制度に手を加え電子出版にも対応できるように整備するという案であった。このうち前者は、現在、著作隣接権者として保護されている実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者と同様に、出版者もまた編集作業という準創作活動に携わっているのみならず、著作者と一般大衆の間にあって著作物の内容を伝達する媒介者としての役割を果たしているのであるから、著作隣接権者として保護するのが妥当であるとするものであった。この見解の長所は、著作権とはまったく別個の権利として出版者に権利を創設するもので、著作者との間に設定契約を結ぶ必要はなく、著作者に気兼ねをすることなく電子海賊版を流す者に対して自らの名で差止請求などの権利の行使が可能となる点である。これに反し短所は、電子出版をもくろむ者は著作権者の許諾を受けるだけでなく出版者の許諾をも受けなければならないという二重の手間がかかるうえ、そもそも出版者を著作隣接権で保護することは実演家等保護条約にも規定はなく、国際的な保護は受けられないのではないかとの指摘がなされていた。さらにマンガ作家の団体からは、マンガの場合、コマ割りなどの編集作業はマンガ家自身がやっており出版者はなんらその作業に関与していないのに彼らに権利が発生することに容認しがたいなどの反対が提示されたようである。そのようなことから審議会では後者の案が最終的に採用され、この線に沿った形でこのたび法の改正が行われた。この改正法は来年の1月1日施行の予定となっており、関係各団体はその準備に大わらわといった状況である。
私もこの法改正について若干考えてみたので次回にその点について述べてみたいと思っている。

山本隆司弁護士の著作権談義

~第22回 Aereo判決~

6月25日に、米国の連邦最高裁が、Aereoのサービス(テレビ局に無許諾でテレビ放送番組を利用者にインターネット経由で視聴・録画させるサービス)を違法とするという判決を出ました。前回に引き続き、米国議会下院の公聴会での議論をご紹介する予定でしたが、今回は、Cablevision判決とともに注目を集めた事件ですので、ホットニュースとして判決内容をご紹介したいと思います。
Cablevision事件においては、ケーブル放送会社が視聴者による放送番組の録画をケーブル放送会社のサーバで行えるストレージサービスを提供しました。米国の第2巡回区連邦控訴裁判所の判決(確定)は、かかるサービスのためのバッファーへの一時的蓄積が「複製権」の侵害には当たらない、と判示しました。また、当該サーバに録画された放送番組を視聴者が再生して視聴することは、録画物の送信における送受信の1対1性ゆえに、「公衆実演権」の侵害には当たらないと判示しました。
Aereo事件の地裁も控裁(第2巡回区連邦控訴裁判所)も、「公衆実演権」の侵害を理由とする仮処分命令の申立てに対して、Cablevision判決に従って、AereoのサービスにおいてAereoのサーバに録画された放送番組を視聴者が再生して視聴することに着目して、「公衆実演権」の直接侵害には当たらないと判示し、申立てを却下しました。その上告を受けた連邦最高裁は、この判決において、Cablevision判決と異なる解釈を示して、原審の判決を破棄差戻しました。
Aereoのサービスは、まず契約者ごとにサーバ内のハードディスクと指先サイズの小型アンテナを割り当てます。契約者がAereoのウェブサイトにログインし、放送中の番組の中から再生あるいは録画したい番組を選択すると、契約者専用のアンテナが稼動し始め、選択した番組を受信します。受信した番組は、Aereoの変換器でインターネット送信可能なデータに変換された後、契約者専用のハードディスクに送られます。ハードディスクでデータを複製(録画)しながら、契約者が接続しているPC等に送信されます。契約者は、これによって、ほぼリアルタイムでテレビ番組を視聴することができる、という仕組みです。なお、番組終了までに視聴者が「録画」ボタンを押さなければ、ハードディスクに複製されたデータは消去されます。
連邦最高裁の判決は、現行法はCATVに公衆実演権を及ぼす意図で制定されたので、CATVと同様に視聴者による放送の視聴を増強・可能にする行為が「実演」である、と認定しました。また、録画物の送信だけを見ると1対1の送受信でしかありませんが、各視聴者に録画物を作成されるのは、同一の放送の視聴を増強・可能にするプロセスの1ステップにすぎないと判断し、Aereoのサービスにおいては、同一の放送の視聴を増強・可能にする「実演」行為が複数の送信行為によって公衆に向けて行われているので、その実演には「公衆性」があると認定しました。このようにして、Aereoに公衆送信権の侵害を認めました。
この判決には3人の判事の反対意見も付いています。反対意見は、被告自身の意思による送信行為がなければ、機器の提供によって視聴者による視聴を増強・可能にしても、被告には実演行為が認められない、と主張しています。このようにして、Aereoによる公衆送信権の直接侵害を否定していますが、その行為を許されるべきものではないと判断しており、公衆送信権の間接侵害または複製権の直接侵害もしくは間接侵害を理由とすべきであると考えています。
Aereo事件は差し戻されましたので、控裁では複製権侵害も争点になりますが、先例であるCablevision判決に従って、バッファーへの一時的蓄積が「複製権」の侵害には当たらないとの解釈をとるものと思われます。しかし、今度は、この解釈を争うために最高裁に上告され、最高裁は上記の反対意見から推測されるとおり、Cablevision判決の解釈を退け、伝統的な複製概念に戻る可能性があります。今後の展開に目が離せません。
さて、話は変わりますが、NBLの1027号と1028号に論考「クラウド環境における著作権使用料に対する源泉所得税」を掲載しましたので、関心のある方は是非お読みください。

JRRCなうでしょ 第13回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
先日九州と関西・四国地方が梅雨明けしましたが、本日いよいよ関東地方が梅雨明けしました。
やっと夏休みのシーズン突入ですが、今年は晴れていても突然の豪雨や雷雨という天候急変が多く、外出の時も傘が離せませんね。
とは言え、暑い中、外出の際の熱中症には十分ご注意ください。
それでは今月号の最初のお知らせです。
7月4日(金)に開催いたしましたJRRC第5回著作権セミナーですが、準備の都合で皆様へのご案内が遅れてしまい、ご迷惑をおかけしました。
ご案内が遅れたにもかかわらず、おかげさまで約420名の皆様のご参加をいただくことができ、事務局一同皆様に心より感謝しております。
今回いただきましたアンケート内容を参考にして、次回以降も皆様のお役に立てるような内容のセミナーを企画していく所存ですのでどうぞご期待ください。
次は、前回もお話しさせていただきましたご契約者の皆様に対する2014年度複写使用料請求のためのご報告手続きのご案内のお知らせです。
JRRCでは、原則毎年7月にご契約者の皆様に対する複写使用料請求のためのご報告手続きをお願いしていますが(一部単年度契約等対象とならない契約もあります)、今年も7月7日と22日の2回に分けて対象となるご契約者様宛にメールあるいは郵送でお知らせをいたしました。
おかげさまで既に相当数のご契約者様からホームページを通して入力の手続きが実施されています。
もし、まだ入力手続きがお済でないご契約者様がいらっしゃいましたら、御面倒でも入力をよろしくお願いいたします。
また、もし、入力方法等お分かりにならない点がございましたら、いつでも結構ですので
JRRCまでご連絡ください。丁寧に最後までサポートさせていただきます。
次は前号でお話しいたしましたJRRCを構成している4つの権利者団体について、これから毎号一つずつ皆様にご紹介したいと思います。
最初は著作者団体連合についてご紹介いたします。
著作者団体連合は、個人の権利者が集まってできた団体の連合体で、日本文藝家協会、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、日本美術著作権連合、日本写真著作権協会の5つの団体で構成されています。
即ち、作家、脚本家、美術家、写真家の皆さんの連合体です。
著作者団体連合の事務局は写真著作権協会内にあり、理事長は、日本文藝家協会理事長で作家の篠弘さんです。
また、副理事長が瀬尾太一で、現在JRRCの総括をしています。
著作者団体連合の加盟者の合計は14,278人となっており、これら著作者の著作物全てがJRRCに管理委託されています。
現在、JRRCの著作物検索データベース上では、著作者団体連合に関しては著作物単位ではなく、著者名リストでの表示となっておりご不便をおかけしていますが、近いうちに著作者団体連合に加盟している著作者を対象にした著作物を表示できるようにする予定でいますので、もうしばらくお待ちください。
以上著作者団体連合のご紹介でした。
次回は出版者著作権管理機構(JCOPY)をご紹介いたします。

以上

アーカイブ

PAGE TOP