JRRCマガジン No.138 音楽教室における音楽の使用

半田正夫

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JRRCマガジン No.138   2018/7/4
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家路を急ぐ道すがら、漏れ聞こえてきた七夕の歌。
声のする方に顔を向ければ、
鈴なりとなった短冊に微笑ましい願いごとが。
皆さまの願いごとが叶うことを祈りつつ、
JRRCマガジン第138号をお送りいたします。

さて、
今回の半田先生のコラムは、「音楽教室における音楽の使用」です。
いわゆる音楽教室問題に関して、
半田先生の見解をお話しくださいました。

◆◇◆半田正夫の著作権の泉━━━

第59回「音楽教室における音楽の使用」

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わが国において音楽著作権を管理する最大手の団体である
JASRAC(日本音楽著作権協会)は、2018年4月1日より、
楽器メーカーや楽器店が運営する音楽教室から演奏使用料を
徴収することを開始した。
いうまでもなく音楽著作権のなかには演奏権が含まれており、
著作物を公衆に直接聞かせることを目的として演奏する場合
には著作権者の許諾がなければならないものとされている(著作22条)。
ここにいう演奏には器楽演奏だけでなく歌う行為も含まれる(同2条1項16号)
のみならず、録音・録画物の再生と電気通信設備による伝達
もまた含まれている(同2条7項)。したがって、コンサート
ホールにおける有料の演奏会だけでなく、飲食店などで来客
へのサービスとして店内でBGMを流すこともまた演奏権の及ぶ
範囲内に入っていることになり、演奏権の及ぶ範囲は相当に
広いということがこれで明らかである。唯一の例外は、公の
演奏の場合であっても、①営利を目的としないこと、②聴衆
または観衆から料金を受けないこと、③演奏者に報酬が支払
われないこと、の3要件をすべて充たすときにかぎり演奏権
が働かないとしているだけである(同38条1項)。

このように演奏権の及ぶ範囲は非常に広いが、それでも実際
には使用料の徴収のままならない業種が多く存在していた。
そこでJASRACはこれらの業種について、ひとつずつ粘り強く
交渉を進め、成果を上げてきた。それは、カラオケ法理の語源
となった「クラブ・キャッツアイ事件」において、クラブや
バーにおける客の歌唱行為も歌唱の主体は店の経営者にある
とする判決が契機となり、その勢いが加速されたといってよい。
2011年4月にはフィットネスクラブからの徴収、2012年4月
にはカルチャーセンターからの徴収、2015年4月には社交ダ
ンス以外のダンス教授所(社交ダンス教授所については1971年から)
からの徴収、2016年4月にはカラオケ教室、ボーカルレッスン
を含む歌謡教室からの徴収を行っており(以上、JASRACのHPから参照)、
残された領域が音楽教室における音楽の使用であったのである。
ピアノやバイオリンなどを教える音楽教室は大小さまざまで
あるが、大手ではヤマハのそれは全国で約3300か所、生徒数
約39万人、河合楽器のそれは直営4400か所、生徒数約10万人
とのことである。このような大手を中心に収益をあげている
音楽教室にJASRACが目をつけたのは当然といえるであろう。
もっともバイエルのような著作権の保護期間のないものに
ついては使用料を徴収することはできないが、最近の音楽教室
では生徒の好みの変化などからアニメソングや流行曲などを
中心に学ぶ傾向が増えてきていると聞く。そうなると、JASRAC
など音楽著作権者との関係が問題となってこざるをえない。

ところで、音楽教室においては、教師による指導のための
演奏と生徒による練習のための演奏とに分けられるが、後者に
ついては演奏者である生徒は38条1項の3要件を充たしている
ので演奏権に抵触することはないといちおういえるが、カラ
オケルームにおける客の歌唱についても店の経営者が演奏の
主体と判断した判例法理を敷衍すると教室内での生徒の演奏に
ついても演奏権の抵触と解される可能性が高いといえるのでは
なかろうか。また前者についてはカラオケ法理の適用により、
音楽教室の経営者の営利目的の範囲内で行われているものと
評価され、演奏権に抵触し、したがって事前に権利処理をして
おくことが必要になってこよう。いずれにしても、従来の判例
の流れに乗る限りJASRACの要求は合理性にかなっているといわ
なければならない。かりに、生徒による練習のための演奏に
ついては演奏権が及ばないと解したとしても、教師の演奏に
ついて教室の経営者に演奏権が及ぶとなれば、結果的に授業料
が跳ね上がるということになるのは必至で、結局は生徒側が
演奏料を支払わされるのと同じことになるのを覚悟しなければ
ならない。大手の音楽教室が演奏使用料を支払わなければなら
ないとしても、これを弱小の音楽教室にまで及ぼすことには問題
がある。個人の住宅を使用してピアノの個人レッスンを行うよう
な場合を考えてみよう。通常、この場合、教師と生徒は1対1で
の授業であろうから、たとえ教師が営利目的で行っていたとしても、
そこにおける演奏は「著作物を、公衆に直接・・聞かせることを
目的として(以下「公に」という。)・・演奏する」(著作22条)
ものではないから、演奏権が働く余地はないといえるのではないか。

「公衆」とは本来不特定多数者をいうが、著作権法はそれを拡大し、
「特定かつ多数の者を含むものとする」としているが(同2条5項)、
それでも生徒が一人という場合にこれを及ぼすというのは無理である。
たしかに有料での演奏会を広い会場で開催したところ聴衆が一人
しかいなかったという場合でも演奏権が働くと解されているが、
これは公衆に向けて演奏を行おうとしていたが、たまたま一人の
入場しかいなかっただけで、演奏者自身は公衆を対象としていた
のであるから演奏権がおよぶケースとみられても差し支えないが、
個人レッスンの場合は初めから特定個人のみを対象にしているので
あるから、これと同視するわけにはいかない。よってこの場合に
演奏権は及ばないと考えるのが妥当と思われる。だが、この教師が
時間を限って一日に何人もの生徒に個人レッスンを行う場合となると、
トータルでみると、特定多数者と考えることもでき、演奏権が働く
という解釈も可能になってこよう。では、何人の生徒を抱えれば
演奏権に抵触するかという点になるとその判断は難しいといわざる
をえないのではなかろうか。JASRACは弱小の音楽教室については
当分演奏料の支払いを免除するという挙に出ているようであるが、
賢明の措置といえるものと思われる。

いまから40年ほど前になろうか、わが家の娘がまだ小さかったころ、
近所の初老の婦人が教えている家にピアノのレッスンに通っていた
ことがあった。バイエルの教則本を抱えて週1~2回通っており、
教師からおだてあげられてわが娘は天才ではなかろうかと思った
こともあった。当時はわが家の近所に同じ年頃の子が多く住んでいて、
夕方になればどの家からもピアノを練習する音が聞こえてきたもの
であった。だが、気づいてみれば、いつのころかどの家からも
ピアノの音色を聞くことがなくなった。子供の天分を過大評価して
高価なピアノを買ったわが家では、ピアノはいまやその上に物を
載せる台としてしか使われなくなっている。隣近所の家々も
そのような扱いになっているのかなと思う昨今である。

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