JRRCマガジン No.130 原著作物と二次的著作物との関係

半田正夫

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JRRCマガジン No.130   2018/3/20
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卒業シーズンとなり、
袴姿の女子学生の眩いばかりの笑顔につい魅せられてしまう今日この頃ですが、
皆さま いかがお過ごしでしょうか?

さて、
今回の半田先生のコラムは、「原著作物と二次的著作物との関係」です。
映画やテレビドラマ、翻訳本などの二次的著作物。
その保護について、制度構築の背景を含めてお話しくださいました。

◆◇◆半田正夫の著作権の泉━━━

第56回「原著作物と二次的著作物との関係」

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デンマークの童話作家アンデルセンの出世作となったのは「即興詩人」であるが、
これをわが国で最初に邦訳したのが森鴎外であり、
その典雅な擬古文は原作を超えた名訳としていままで知られているところである。
この訳書に刺激を受けた多くの日本人がこの小説に登場した土地を歴訪したと
伝えられているほどだ。
作品の翻訳の場合には、原文に忠実に翻訳すると、かえって難解なものとなり、
特に小説の場合などは、文章のよどみない美しい流れを破壊する結果となることが多く、
そのために、時には意訳したり、原文を一部省略したりして、
作品全体の雰囲気を残そうと翻訳者の努力が必要になってこよう。
森鴎外の邦訳はまさにこれに該当すると言ってよい。
この例のように翻訳の場合には一般に翻訳者の創作性が認められるところから、
原著作物に対して二次的著作物と言われ、
著作権法上で保護を受ける意味が出てくることになる。
これは翻訳の場合だけではない。
編曲、脚色、翻案についても同様であり、
これらは二次的著作物として保護を受けることになる。

ところで、問題となるのは、二次的著作物が原作者に無断で作られた場合でも、
著作権法上の保護を受けることができるかについてである。
現在の著作権法制定前の旧著作権法は、二次的著作物のいくつかの場合において、
それが著作物として保護されるためには適法に作成されたものでなければならない
との趣旨のもとに適法条件の具備を要求していた。
たとえば、
美術著作物の異種複製(絵を彫刻にする、あるいは彫刻を絵にするなど)の場合に、
「原著作物ト異ナリタル技術ニ依リ『適法』ニ美術上ノ著作物ヲ複製シタル者ハ
著作者ト看做シ本法ノ保護ヲ享有ス」(『』筆者)(旧著作22条ノ2)が
その典型であり、同様の規定は編集の場合(旧著作14条)と美術著作物の写真に
よる複製の場合(旧著作23条3項)にも置かれていた。
そしてこの適法条件の意味については、原著作物の著作権者の許諾が得られないかぎり、
二次的著作物に著作権が成立しないものと解されていた。
ところが、これ以外の二次的著作物、すなわち翻案・変形(旧著作19条但書)、
翻訳(旧著作21条)、映画化(旧著作22条ノ4)の場合については
適法条件が課せられておらず、したがってこれらの著作物が著作権法上の保護を
受けるためには、原著作物の著作権者の許諾を要しないものとされており、
二次的著作物全体からみるとき不統一の感が免れず、
ここに批判が集中したと言ってよい。そこで現行法はこれを改め、
すべての二次的著作物につき適法条件を外したうえ(著作2条1項11号)で、
「二次的著作物に対するこの法律による保護は、
その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない」と規定し(著作11条)、
さらに「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、
この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと
同一の種類の権利を専有する」と規定する(著作28条)に至った。
そして通説は、二次的著作物の著作権法上の保護については旧法のごとき
適法条件が全面的に撤廃されたことを理由に、原著作物の著作権者の許諾がなくても
二次的著作物について著作権が成立し、11条と28条の規定により、
原著作物の著作権者の許諾が得られない場合には、
実際上これを利用し得ないだけと解している。
たしかに、現行著作権法の制定の経緯から考えるならば、
原著作物の著作権者の許諾を受けないで作成された二次的著作物も、
そこに創作性が認められるならば著作権が発生し、
著作権法上の保護が与えられると解するのが妥当であるかもしれない。
しかし、私は、あえて原著作物の著作権者の許諾を受けないで作成された二次的著作物は、
いかに創作性が認められようとも、著作権は成立しないと考えるべきだと思う。

その理由は次のとおりである。

1 翻訳権、翻案権などの改作利用権が原著作物の著作権者に排他的に帰属する旨が
著作権法に明記されるに至り(著作27条)、そのために許諾を受けない翻訳、
翻案等はすべて原著作物の著作権侵害となるに至ったことに留意すべきである。
前述のように、旧法においては一定の改作の場合にのみ適法条件を課し、
この条件を満たしたときに限り二次的著作物として保護していたのに対し、
現行法ではこの適法条件を法文からすべて削除する代わりに27条の規定を新設している。
このことは、
原著作物の改作のすべてが
――創作性の如何を問わず――
原著作物の著作権者の許諾を要すること、
言いかえれば改作すべてが適法条件を課せられるに至ったことを意味するものであり、
二次的著作物の場合もその例外ではないと解するのが妥当であること、
また著作権侵害の効果として差止請求が認められるようになった今日(著作112条)、
原著作物の著作権者による差止請求によって二次的著作物の利用は
まったく成し得なくなるのであるから、
無許諾の二次的著作物に著作権法上の保護を与えてもその実効性がないことをも
指摘することができるのではないか。

2 通説によれば、
原著作物の著作権者の許諾を受けないで作成された二次的著作物にも著作権が成立し、
原著作物の著作権者が差止請求をしないかぎり、
二次的著作物の著作権者による同著作物の利用は可能であり、
それによって得た収益のすべては二次的著作物の著作権者の手中に帰せられるものと考えており、
この点に無許諾の二次的著作物について著作権の発生を認める実益がある
と捉えられているようである。
しかし、原著作物の不法利用に気付いた原著作物の著作権者が差止請求をする傍ら、
二次的著作物の著作権者に対して損害賠償を請求した場合においては、
その損害額は著作権法114条2項により、
二次的著作物の著作権者の受けている利益が原著作物の著作権者の損害額と推定され、
前者の受けた利益すべてを吐き出させることが可能なのであるから、
たとえ無許諾の二次的著作物の著作権の成立を認めても、
それはまったく保護を受けないに等しいと言わなければならない。

3 さらに付け加えるならば、
原著作物の著作権者の許諾を受けて二次的著作物を適法に作成した場合と、
無許諾で、その意味では不適法に作成した場合とを、
著作権法上の保護の点で同列に扱うことは、
一般国民の正義感情に著しく反することも指摘できるのではなかろうか。

「他人のフンドシで相撲を取って利益を上げて知らん顔をすることは許せない」
という考えが筆者の根底にあるのだが、
それはあまりにも潔癖すぎるとの批判を受けるであろうか。

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