JRRCマガジン第136号(日本版フェアユース)

山本隆司

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JRRCマガジン No.136  2018/6/21
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東京地方 雨の匂いが若干漂う梅雨の晴れ間もつかの間、
再び雨模様に見舞われた昨日。
皆さまいかがお過ごしでしたか?

今回の山本隆司弁護士のコラムは「日本版フェアユース」です。
ついに平成31年1月1日に施行されることとなった日本版フェアユース。
新設される法30条の4について、山本先生の見解をお話しくださいました。

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━

第65回 「日本版フェアユース」

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今国会で成立した著作権法改正案は、これまで導入に紆余曲折の
あった「日本版フェアユース」を新第30条の4に規定しています。
その内容と注意すべき点についてお話ししたいと思います。

アメリカのフェアユースを導入することを求める声が産業界を
中心に根強くありました。一般的権利制限規定であるアメリカの
フェアユースは、条文では抽象的な考慮要素のみが規定され(107条)、
その具体的な適用方法は裁判所の自由な法形成に委ねられて発展
してきました。日本は、そのような裁判所による自由な法形成を
予定していないので、アメリカ著作権法107条をそのまま入れても、
機能しません。そこで、アメリカにおいてフェアユースの適用方法
として発展したトランスフォーマティブユース(transformative use)
の法理を、日本風にアレンジして、一般的権利制限規定を定めようと
考えられました。

新第30条の4は、技術開発等のための試験における著作物の利用(第1号)、
情報解析の過程における著作物の利用(第2号)、
コンピュータによる情報処理の過程における著作物の利用(第3号)のほか、
「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受
させることを目的としない場合」に著作物を利用できる(本文柱書き)を
規定しています。

しかし、本文柱書きの類型は、著作権の原理からもトランスフォーマティブユースの法理からも、
問題があるように思います。すなわち、本文柱書きの類型は、
著作物のアイデア(著作物に表現された思想又は感情)の享受を
目的にしなければ、著作物の表現を利用することができるという
ことを意味しています。著作権は、著作物の表現を保護しますが、
著作物に表現されたアイデアは保護しません(最高裁平成13年6月28日判決・江差追分事件)。
それゆえ、アイデアを表現するための不可避または平凡な表現も、
著作権では保護されません。アイデアの利用を目的としなければ、
表現の利用に権利制限が及ぶという論理自体が著作権の原理と矛盾します。

すなわち、著作物を鑑賞する場合、表現されたアイデアに鑑賞価値
のある場合も、表現自体に鑑賞価値のある場合もあります。
著作権の原理からいえば、表現されたアイデアの持つ鑑賞価値を
享受することを目的とする行為は許され、表現自体の持つ鑑賞価値を
享受することを目的とする行為は許されない、したがって、
アイデアの持つ鑑賞価値を享受することを目的とする場合には
その目的に必要な範囲で表現の利用も許される、という帰結になるはずです。

たとえば、①音楽や美術については、鑑賞者は、表現されたアイデアの持つ
鑑賞価値の享受ではなく、もっぱら表現自体の持つ鑑賞価値の享受を
目的にしていると思います。他方、②学術書については、もっぱら
表現されたアイデアの持つ鑑賞価値の享受を目的にしていると思います。
ところが、①の場合に、本文柱書きの類型は、表現されたアイデアの
持つ鑑賞価値の享受を目的にしていないから、表現自体の持つ
鑑賞価値の享受をやってもいいということになります。他方、
②の場合に、本文柱書きの類型は、表現されたアイデアの持つ
鑑賞価値の享受を目的にしているから、そのアイデアの抽出に必要な
範囲であってもその表現を利用できないということになります。
このように、本文柱書きの類型は、著作権の原理に矛盾するように見えます。

また、トランスフォーマティブユースの法理は、一言でいえば、
著作物の持つ鑑賞価値の享受を目的としない著作物の利用を
フェアユースとして権利制限を認めます。「著作物の持つ鑑賞価値」を、
表現されたアイデアの持つ鑑賞価値と考えれば、本文柱書きの類型と
同じになります。しかし、トランスフォーマティブユースの法理は、
「著作物の持つ鑑賞価値」を、表現自体の持つ鑑賞価値と考えます。
したがって、表現自体の持つ鑑賞価値の享受を目的としない場合には、
当該表現を利用できるという点に、トランスフォーマティブユースの法理
の意味があります。つまり、著作物の表現を利用する場合にも、
その表現の鑑賞価値の享受を目的とする場合と、その表現の鑑賞価値の
享受を目的としない場合とがあり、後者に対して広くフェアユース
の成立を認めるのがトランスフォーマティブユースの法理です。
たとえば、リバース・エンジニアリングは、そこでの複製・翻案が
プログラム中のアイデアを抽出(○アイデアの鑑賞価値の享受)
することを目的とするが、プログラムの用益価値の享受を目的としない
(×表現の鑑賞価値の享受)ので、当該プログラムのフェアユースの
成立が認められています。また著作物を裁判手続で証拠として利用
する行為も、表現の鑑賞価値の享受を目的としない利用方法であるので、
フェアユースの成立が認められています。

以上のとおり、本文柱書きの類型には、第1に、音楽や美術のように、
表現されたアイデアの持つ鑑賞価値の享受ではなく、もっぱら
表現自体の持つ鑑賞価値の享受を目的にする行為にまで適用範囲が
広がらないかという懸念があります。第2に、リバース・エンジニアリングのように、
表現されたアイデアを利用するが、その表現の鑑賞価値の享受を
目的としない行為には適用がないという限界があります。

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