JRRCマガジン第127号(映画著作権の帰属)

半田正夫

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JRRCマガジン No.127   2018/2/13
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いよいよ平昌オリンピックが開幕し、現地の厳しい寒さが伝えられている中、
大会4日目には日本勢がメダル獲得との嬉しいニュースが届き、
ますますTVより目が離せなくなる今日この頃ですが、
皆さま いかがお過ごしでしょうか?

さて、
今回の半田先生のコラムは、「映画著作権の帰属」です。
これまでにも何回かお話しいただいている映画に関する著作権。
映画に関する著作権の難しい条文構成などについて、
問題提起と共にわかりやすく解説くださいました。

◆◇◆半田正夫の著作権の泉━━━

第55回「映画著作権の帰属」

━━━━━━━━━━━━━◆◇◆

正月が来れば、決まってあの終戦直後の映画館のことを想い出す。
当時は娯楽といえば映画しかなかったので、老いも若きもこぞって
映画館に足を運んだ。戦災に遭って撮影所などは焼けたであろうと
思われたのに、リンゴの唄が主題歌となった「そよかぜ」をはじめ、
木下惠介監督の「大曾根家の朝」、バンツマの「狐の呉れた赤ん坊」、
ロッパやエンタツ、アチャコなど喜劇人総出の「東京五人男」、
原節子の「わが青春に悔なし」などの映画が相次いで上映されたし、
洋画も「ユーコンの叫び」、「キューリー夫人」、「カサブランカ」、
「運命の饗宴」、「心の旅路」、「荒野の決闘」などの名作が輸入
されて上映された。映画館は立錐の余地がないほどの人で溢れ、
中に入りきれずに廊下まで黒山の人で埋まり、肩の隙間から時々眺める
ことができるという状態であった。ただ入れ替わり制が採られて
いなかったので、1時間ほど待てば次回の上映で観ることができた。
それを幸い、好きな映画のときは何回も繰り返し観たものである。
当時はたばこの煙で換気は悪く、トイレの匂いも漂うという劣悪な
条件のなかでの鑑賞であったため、映画館を出ればしばらく頭が
ズキズキ痛んだものである。しかし、そのような過酷な状況で観た
映画のほうがなぜか懐かしく思い出すようだ。

ところで、このような映画については、著作権法上いくつかの問題点
がある。たとえば、①映画著作権のなかには頒布権が認められているのに、
映画以外の著作物には頒布権が認められていない代わりに譲渡権と
貸与権が認められていること、②歌手などの聴覚的実演家には
放送事業者に対して商業用レコードの二次使用料請求権と
貸レコード対策としての商業用レコードの貸与権(販売の日から1年間)と
貸与報酬請求権(販売の日から1年を経過したのち)が認められているのに、
映画俳優などの視聴覚的実演家にはこのような権利が認められて
いないこと、などの不均衡があることであるが、
①については、本コラム集Ⅰの22ページ以下(*1)に、
また②については、本コラム集Ⅱの25ページ以下(*2)で触れている
のでここでは省略する。だが、これ以外にもまだ問題点が存在する。
それは映画著作権の帰属の問題である。
言うまでもなく映画は、プロデューサー、監督、脚本家、カメラマン、
俳優、美術や衣装担当者など数多くの人の関与によって製作されるので、
著作権を誰に帰属させるかは著作権法上大きな問題である。
現行法の立法の際に意見が激しく対立したとのことである。ひとつの
考え方(かりに「A説」と言おう)は、そもそも著作者とは著作物の
全体について創作意図を有しそれを完結させる者をいい、映画について
言えば、単に創作的に関与したということだけではなく、映画に対して
一貫したイメージを抱きそれを実現する者を著作者と解すべきであり、
これに該当する限り、シナリオ・ライター、作曲家、監督、プロデューサーなど
職種のいかんに関係なく、そのすべてを著作者とし(したがって
これらの者は共同著作者となる)、映画はこれらを著作者とする
共同著作物であるという考え方である。これに対しもうひとつの考え方
(かりに「B説」と言おう)は、映画は映画製作者(映画製作会社)の
構想の枠内で作られるものであり、製作上・興行上の責任を負担するのも
映画製作者である以上、著作権も映画製作者に帰属するのが当然とする
考え方である。A説は主として監督協会が、B説は東宝、松竹などの
映画製作会社が主張した。著作権制度審議会においては意見の一致を
みるにいたらず、結論としては異例の両論併記という形を採らざるを得なかった。
このような答申を受けた立法当局はその対応に苦慮したようであるが、
結局は両者のメンツを立てる形で決着を図った。すなわち、映画については
著作権者と著作者とを分離し、著作権は映画製作者に帰属させて映画の
円滑かつ敏速な利用に資する一方、映画の著作者には監督、カメラマンなど
映画の全体的形成に創作的に寄与した者(本稿では「監督等」と略称)を当て、
これに著作者にのみ認められる著作者人格権を帰属させるとして、
権利の二分化を図ったのである(ただし、原作者、シナリオ・ライター、
映画音楽作曲者は映画と切り離して独立に利用できる著作物の著作者
であるため、映画著作物の著作者から除外されている)。
このような権利の二分化は形の上では極めて巧みな処理の仕方と言えたが、
実際には監督等の著作者側に不利であることを、私は立法の際にすでに
指摘していたが、現実にはそれを裏書きすることとなった。
まず、監督等は著作者として公表権を持ち、未封切の映画について
これを公表するか否かの諾否の権利を有するから、もしも映画製作者が
映画館に対し上映の許諾を与えて上映を認めようとしても、監督等が
公表権をタテに拒むことができるとすれば、映画製作者は監督等の意向を
無視することはできず、結局は両者の協議が必要になろうし、
この協議の過程で監督等は自己の満足のいく結果をもたらすことが
可能になるものと思われる。だが、実際にはそのようになってはいない。
著作権法18条2項2号により、映画著作物の著作権が映画製作者に
帰属したときは、著作者は公表について同意したものと推定される
ことになっているからである。
また、監督等は著作者として同一性保持権を持っている。この権利は
著作者のみが著作物の内容やタイトルを変更することができ、他人が
著作者の意に反してこれに手を加えたときは異議を申し立てることが
できることになっている。実際問題として、映画をテレビで放映する際に、
時間的制限やコマーシャル挿入の必要から内容をカットする場合が多いが、
監督等が同一性保持権の侵害を主張してカットを制限したり、カットを
認める代わりになにがしかの対価を要求したりすることができるとすれば、
彼らの利益は一応保障されたと言うことができよう。
ところが、著作権法20条2項4号は、「著作物の性質並びにその利用の
目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」については
同一性保持権は働かない趣旨を述べている。民放などで映画をテレビで
放映するに当たり、放送時間の制約やコマーシャルの挿入のため一部を
カットするなどの行為は、民放としての性質上やむを得ないと認められる
改変に該当すると考えられるので、同一性保持権を行使することは
ほとんどできないものと思われる。
このように見てくると、映画製作者と監督等に権利の平等配分を図ったか
にみえるが、実際には後者に与えられた著作者人格権の行使をする場面は
ほとんどなく、結果的には監督等は決定的に不利になっていることが
明らかとなる。
立法当初に私が指摘した映画製作者と監督等との間の不均衡さは、
今から20年ほど前にようやく一般に認識されるようになった。それは、
映画がそれまでの映画館における上映という利用方法から、テレビに
おける放映、ビデオ化されての一般への市販、有料レンタルなど多岐に
及ぶ利用が可能となり、さらに放映も多チャンネル時代を迎え、
重要なコンテンツとして頻繁に利用されるようになってきているが、
これにより収益のすべては映画製作者に帰属し、監督等には一円も
行かないという結果になっているからである。現在の立法時には
このような多角的利用が予期できなかったことを考えれば、利益の一部を
監督等に回す配慮が今後必要になってくるのではなかろうか一考を
要するものと思われる。

最近は、自宅の居間などで寝そべりながらテレビやスマホを通じて
気楽に映画を観ることができるようになった。技術の進展の恩恵は
計り知れないものがあるが、このように気楽な姿勢で観る映画は、
終戦直後の劣悪な環境で観た映画にくらべ印象が薄く、受ける感動も
乏しく感じられるのは、私自身の感受性が衰えたことによるものであろうか。
そうではないような気がするが、いかがなものであろうか。

(注記)
*1:実務者のためのコラム集Ⅰ
  [半田正夫の著作権の泉(7)~条文表記についての疑念(3)~]   または、
  JRRCホームページ「マガジンバックナンバー No.19」
  URL:/topics_info/%EF%BD%8A%EF%BD%92%EF%BD%92%EF%BD%83%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%B8%E3%83%B3%E7%AC%AC19%E5%8F%B7%EF%BC%88%E6%9D%A1%E6%96%87%E8%A1%A8%E8%A8%98%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AE%E7%96%91%E5%BF%B5/

*2:実務者のためのコラム集Ⅱ
  [半田正夫の著作権の泉(22)~映画俳優の保護~]   または、
  JRRCホームページ「マガジンバックナンバー No.34」
  URL:/topics_info/%EF%BD%8A%EF%BD%92%EF%BD%92%EF%BD%83%E3%83%9E%E3%82%AC%E3%82%B8%E3%83%B3%E7%AC%AC34%E5%8F%B7%E6%98%A0%E7%94%BB%E4%BF%B3%E5%84%AA%E3%81%AE%E4%BF%9D%E8%AD%B7%E3%80%81%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9/

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