JRRCマガジン第118号(私的領域における著作物等の利用について(6))

川瀬真

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JRRCマガジン No.118  2017/10/25
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東京地方では秋の長雨のなか、束の間の青空の下、
黄金色の穂をつけたススキがひときわ輝いていました。
秋が深まって参りましたが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「私的領域における著作物の利用について」の6回目。
今回は、技術的保護手段について、
関連法など横断的にお話しくださいました。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━

第18回「私的領域における著作物等の利用について(6)
            技術的保護手段を回避して行う複製」

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1 はじめに
 現行著作権法制定時の「私的使用のための複製」(30条)は、
私的使用目的であること、複製物の使用者が複製を行うことの
2つの要件だけで、無許諾・無償の複製を認めていました。一方、
著作物等を複製する機器は、現行法が制定された1970年以降
急速に普及していきましたが、私的録音録画補償金制度のように
私的録音録画は自由に行えるが、権利者に一定の補償金を支払う
ことにより権利者が被る不利益を金銭で調整するという方法とは
別に、社会の変化に合わせて30条の適用範囲を狭くすることにより
権利者保護を図るべきであるとの指摘が行われていました。
 先に説明した昭和59(1984)年の音のダビング業等に対処した
著作権法改正では、30条の対象範囲から、「公衆の使用に供する
ことを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する
場合」を適用対象外とする改正が行われました。その理由の一つ
として、もともと30条は家庭内という閉鎖的な空間で行われる
複製行為についてその利用実態を権利者が把握できないということ
が事実上の理由になっていましたが、権利者がその利用実態を把握
しようと思えばできる公衆の面前で行われる複製行為についてまで
権利制限の対象とするのは行き過ぎであるとの政策的判断があった
からです。

 今回説明をする技術的保護手段を回避して行う複製についても、
平成11(1999)年及び平成24(2012)年に30条の適用範囲を狭める
ための著作権法改正が行われました。この改正の特徴は昭和59
(1984)年の著作権法改正と異なり、主として家庭内で行われる
当該複製行為について、本来は技術的保護手段により複製が制限
されているにも関わらず、回避装置や回避プログラムを用いて
権利者の意思に反して複製を行う行為まで30条の適用対象にする
必要はないとの政策的判断によるものであり、従来権利行使でき
ないとされていた家庭内に権利を及ぼすというある意味画期的な
制度改正であったといえます。
 もっとも、一般の利用者は通常は複製制限を超えて複製できない
わけですので、いわば悪質な利用者だけに適用される制度改正と
いう見方はできます。
 なお、この改正については、平成8(1996)年に作成された
「著作権に関する世界知的所有権機関条約(WIPO著作権条約)」
及び「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約
(WIPO実演・レコード条約)を締結するための条件整備の一環
でもあったことに留意が必要です。

2 複製制限の導入
 著作物等の複製方法については、例えば音楽の場合、当初は
LPレコードからカセットテープへの録音というアナログ記録媒体
からアナログ記録媒体への複製が主流でしたが、昭和57(1982)
年にデジタル記録媒体を使った音楽CDが発売されると複製先も
カセットテープからDAT、CD-R、MD等へのデジタル記録媒体に
移行してきました。またこのことは映像作品も同様の変化が起こり
アナログ記録媒体(VHSテープ等)からデジタル記録媒体
(DVD、BD等)での流通が進み、また放送についてもアナログ
放送からデジタル放送への転換を通じアナログ複製からデジタル
複製への移行が進みました。
 このようにデジタル方式による複製については、アナログの場合
とは異なり、複製ごとに品質が劣化しない等の特徴があることから、
複製物からさらに複製物が作成されると権利者の許諾を得ていない
複製物が世の中に拡散することになり、そのことが音楽や映像作品
の正規の販売等に影響を与え、売り上げの減少を招くのではないか
という危惧が高まりました。
 そこで、権利者側は録音録画機器の製造業者等との協議を経て、
複製を制限する仕組みを模索することになりました。例えば音楽
CDには、SCMS方式という複製制限が採用され今日まで続いてい
ます。これは、市販の音楽CDにあらかじめ決められた信号を組み
込んでおけば、当該音楽CDを用いて録音用の専用機器で複製しよ
うとする場合、この信号に対応した反応をするというものです。
例えば、市販の音楽CDの場合については、第一世代の複製、すな
わち当該音楽CDからのデジタル複製は何度でもできますが、作成
した複製物には複製禁止の信号が付加されるので、この複製物を
用いて複製物を作成しようとしても複製はできない仕組みになっ
ています。ただし、この仕組みは録音用の専用機器を用いて複製
する場合に限定されており、例えば音楽CDを用いてパソコンで
複製する場合は、複製制限ができないので、複製物からの複製も
可能となっています。
 なお、パソコンを用いた複製は自由ということから、レコード
会社では平成14(2002)年からいわゆるコピー・コントロールCD
(CCCD)といわれるパソコンでコピーができない音楽CDを発売
し始めましたが、この仕組みはパソコンの製造業者との協議を経
て導入されたものではなく誤作動等があること、また音質が劣化
するということにアーティスト側が反対したこと等から導入は途中
で中止されました。

 また、劇映画、アニメ作品等については、一回でも複製が行わ
れると権利者の利益に重大な影響があるとして、通常は複製禁止
の措置が取られています。これは例えばVHSからVHSへのアナログ
複製の時代から同様の措置をとっており、劇映画等の場合、映画
業界は一貫して複製禁止のビジネススタイルをとっているといっ
ても過言ではありません。
 更に地上波デジタル放送については、BS放送、CS放送も含め
複製制限の措置が取られています。例えば、地上波デジタル放送に
ついては、放送開始当初は、コピーワンスという厳しい複製制限
が採用されていました。この方式は放送番組を録画機器のハードディスク
装置に録画したうえで、それを再生し視聴するのは自由ですが、
そのハードデイスク装置からDVD等のデジタル記憶媒体に複製を
すると、ハードデイスク装置に記録されていた放送番組が消去さ
れてしまうというものです。その後あまりにも複製制限が厳しす
ぎるのではないかという指摘が行われ、現在では放送番組が録画
されたハードデイスク装置から当該番組をデジタル記録媒体に9枚
複製した時点でハードデイスク装置内の放送番組が消去されると
いういわゆるダビング10といわれる方式が採用されています。

3 世界知的所有権機関(WIPO)作成の新条約
 先述したとおり平成8(1996)年に世界知的所有権機関(WIPO)
において、WIPO著作権条約及びWIPO実演・レコード条約という
2つの重要な条約が作成されました。この条約は、いわゆるインター
ネット条約と称される新しい条約で、IT社会、とりわけデジタル化・
ネットワーク化の進展の中で、著作者、実演家及びレコード製作者
の適切な保護を図ること等を主な内容としています。
 これらの条約には各締約国が順守すべき項目がいくつかあるの
ですが、その一つが「技術的手段に関する義務」で、「締約国は、
著作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない
行為がその著作物について実行されることを抑制するための効果的
な技術的手段であって、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の
行使に関連して当該著作者が用いるものに関し、そのような技術的
手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済に
ついて定める」(WIPO著作権条約11条)と規定しています。この
条項については、WIPO実演・レコード条約についても同様です
(同条約18条)。
 
4 平成11(1999)年の著作権法改正
 改正の内容ですが、著作権法の定義規定に新たに「技術的保護
手段」が定義されました(2条1項20号)。当時の技術的保護手段は、
音楽CDに代表されるようにソフト側に組み込まれた信号を読み取り、
それに対応した複製制限を行うものが主流で、それに加えて映像
作品の複製制限に使われていたマクロビジョンといわれる映像作
品の複製はできるが複製された映像の画面に乱れを生じさせるこ
とにより事実上複製を抑止するという仕組みが使用されていたこ
とから、その内容について規定されました。
 そうした上で、30条1項に2号が加えられ、技術的保護手段を回避
して行う複製について、回避複製の事実を知りながら行う行為を
30条の適用範囲外にしました。ただし、この措置は30条に限定した
ものですので、他の制限規定に基づき複製するときには適用され
ません。

 なお、このような行為は著作権侵害になることになったのですが、
利用者個人の行為は軽微であるという理由から罰則の適用は見送
られました。
 また、こうした回避装置や回避プログラムの公衆への譲渡、貸与、
譲渡・貸与のための製造等を行った者や技術的保護手段の回避を
おこなう業者には罰則が適用されることになりました(120条の2
第1項1号、2号)。なお、例えば、複製制限の信号が組み込まれて
いる音楽CDをパソコンで複製する場合は、パソコン側にその信号
に対応する複製制限の仕組みがないため結果として複製自由にな
ることになりますが、このような無反応機器については罰則の対象
にはならないことに留意が必要です。  
   
5 平成24(2012)年の著作権法改正
 前回の著作権法改正時には信号型の技術的保護手段が主流でした
が、時代の進展とともに新しい技術的保護手段が普及してきました。
これを暗号型の技術的保護手段と総称しています。最近の映画ソフト
や放送は暗号化され公衆に提供されており、その暗号を解除する
ための仕組みが組み込まれた受像器でないと視聴等が行えない
ようになっています(アクセス制限)。このアクセス制限機能には、
いくつかの機能を付加することができるのですが、その一つとして
多くの場合複製制限が付加されています。このように暗号型の技術
的保護手段が主流になりつつあることを踏まえて、暗号型について
も技術的保護手段の定義に含むこととされました。

6 不正競争防止法の改正
 平成11(1999)年の著作権法改正と同時に、不正競争防止法が
改正され、「技術的制限手段」の回避装置等の譲渡等に関する規制が
新設されました(平成23(2011)年に一部改正)。著作権法上の
「技術的保護手段」は、あくまでも著作物等の複製制限に関する
制度整備ですが、不正競争防止法上の「技術的制限手段」はそれ
よりも広く、対象も著作物等に限定されておらず、複製制限だけ
でなく、例えば映像作品の視聴制限やゲーム等の使用制限等の
いわゆるアクセス制限にも対応しています。なお、不正競争防止法は、
著作権法と異なり、利用者の行為についての規制はありません。

7 平成26(2016)年のTPP協定の締結に伴う著作権法改正
 環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)は、平成22(2010)
年から交渉が開始され、平成28(2016)年に署名式が行われまし
た。このTPP協定の交渉については、物の流通だけでなく、サービス
や投資の自由化を図るとともに、知的財産権等の分野も対象とな
っていました。
 わが国では、TPP協定における合意内容を踏まえ、TPP協定の
批准とそれに伴う国内法の改正が平成28(2016)年に行われました
(環太平洋パートナーシップ協定に伴う関係法律の整備に関する法律)。
この国内法改正の一部として著作権法の改正も行われています。
 この著作権法の改正については、5項目ありますが、その一つ
としてアクセス制限の回避等に関する措置が含まれています。
今まで解説してきたとおり、わが国の著作権法ではこれまで
権利者の複製権を守るため、複製制限に限定して一定の規制を行っ
てきました。

 しかしながらTPP協定では、著作物等について許諾されていない
行為を抑制する効果的な技術的手段に適当な保護を与え、著作物等
の利用を管理する効果的な技術的手段を権限なく回避する行為及び
回避装置の製造等について,効果的かつ法的な救済措置を講じる
ことを義務付けています(TPP協定18・68条)。
 このようにTPP協定では、アクセス制限か複製制限かの区別を
していないところから、改正法では、電磁的方法により著作物等
の視聴を制限する手段を新たに「技術的利用制限手段」と定義し
た上で(改正法2条1項21号)、技術的利用制限手段の回避行為は、
同手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な行為その他権利
者の利益を不当に害しない場合を除き、著作権等を侵害する行為
とみなすこととしています(改正法120条の2)。なお、機器規制等
については、技術的保護手段と同様です。
 ところで、この改正法の施行ですが、改正法の施行はTPP協定
の発効の日となっています(整備法附則1条)。TPP協定の発効
には、TPP協定署名国12か国中6か国以上の批准、また12か国の
国内総生産(GDP)の合計額の85%以上が必要となっていますが、
GDPの合計額の60%を占める米国の脱退宣言により発効の見通し
が立っておりません。したがって、この状態が続けば、改正法
がいつまでも施行されないことになります。

 次回は、映画館等における「私的使用のための複製」(30条)
の適用を排除した「映画の盗撮の防止に関する法律」について
解説します。

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   編集責任者 JRRC代表理事 瀬尾 太一

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