JRRCマガジン第113号(文章の添削)

半田正夫

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JRRCマガジン No.113 2017/9/8
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朝夕しのぎやすくなり、秋の気配を感じるようになりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、
今回の半田先生のコラムは、「文章の添削」です。
著作者の意に反する改変等は、同一性保持権の侵害になると規定されています。
では、その具体的な抵触範囲とは。
解釈について、半田先生のエピソードおよび判例を含めお話し下さいました。

◆◇◆半田正夫の著作権の泉━━━

第51回「文章の添削」

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 自分の書いた文章が他人によって加筆・訂正されるのは、誰しも愉快なはずはないと思
われる。もちろん、それが誤字・脱字を指摘されるのであれば、明らかにそれは自分の間
違いであるので、指摘してくれた人に感謝の念をもつのは当然としても、それ以外の場合
に、文章に赤を入れられることについては、たとえそれによって文章がより洗練されたも
のになったとしても、心穏やかではないのがふつうではないだろうか。

 私には、かつて次のような経験がある。大学教授としての定年を間近に控えたある日、
同僚の某教授から、近く行われる大学長選挙に候補者の一人として推薦したいが応じて
もらえないだろうかとの打診を受けた。寝耳に水の話ではあったが、長年お世話になった
大学に少しでもお役に立てれば本望と思ったので、すべてはお任せした。私の所属してい
た大学では、学長候補者選考委員会というのがあって、各学部などから上がってくる多く
の候補者の中から3名に絞る作業を行い、選ばれた3名の候補者に対し、全学部の教員
と一定年限在職した職員とによって構成された選挙総会で投票によって決せられるという
方式が採られていた。幸か不幸か私はこの3名の中に選ばれたのであるが、選挙権者へ
の選考のための資料として、選挙公報が配布されることになっており、候補者はこれに所
信表明を書くことが義務づけられていた。私はかねてからテキスト、論文など公表する文
書には分かり易く書くことをモットーとしているので、この所信表明の文書も平易に書いた
のである。これを見た私の支持者は「学長は格調高い文章を書かなければならない」と
して、これに大幅に手を加えたのである。そのために私の伝えたいところが薄められ、格
調は高いが意味不明の箇所が随所に見られるという文章に様変わりしてしまったのであ
る。私はあくまで格調の低い自分の文章にこだわり、これでなければ候補者を辞退すると
まで主張して、押し切ったのである。選挙総会の結果は、格調の高い所信表明を書いた
他の候補を抑え、圧倒的多数で私が選ばれたという経験がある。文章は他人の心に訴え
かけるもの、格調を高くすることによってそれが薄められてはならないとの信念はこれによ
って更に強められたのである。

 俳句雑誌に投稿して入選した女性が、選者によって改変された上で掲載されたことに異
議を申立て、著作者人格権の侵害として出版社と選者に損害賠償などを求めたという事
件がある。投稿した句は、「波の爪 砂をつまんで 桜貝」、「井戸水から メロンの網目が
 たぐらるる」、「みのうえに 蓑虫銀糸の 雨も編め」という3句であったが、これが選者
により、「砂浜に 波が爪たて 桜貝」、「井戸水から メロンの綱が たぐらるる」、「蓑
虫の 蓑は銀糸の 雨も編む」という句に改められたことにクレームをつけたものである。
この事件において裁判所は、「俳句の世界において、選に際して選者が芸術的な観点や指
導上の見地から必要と感じたときに添削を行うということは、古く松尾芭蕉以来行われて
おり、その点は、我が国近代俳句の創始者といわれる正岡子規以後も同様である」とした
上、新聞・雑誌の投句欄においても古くから選者による添削が当然のこととして行われて
おり、このような俳句界における事実たる慣習に従った本件は、違法な無断改変と評価す
ることはできないとして、訴えを斥けている(東京高裁判平成10・8・4判時1667号131)。
俳句の世界においては投稿した句に選者が添削をすることはふつう一般に行われていると
ころであり、投稿者もそのことを知っていたと思われるので投稿者による同一性保持権の
侵害の主張が認められないとする裁判所の判断も十分に理解できるところである。だが、
添削されることは仕方がないとしても、その結果が投稿者本人の納得のいくものであった
かは別問題である。私は俳句には門外漢であるが、今回の投稿句と選者による添削句とを
比較してみると、前者の荒々しい野性味溢れた瑞々しさが後者によって削げ落とされ、床
の間の生け花のような形の良いまとまり方に置き代えられたような気がしてならない。こ
のような場合でも作者は自分の意に反する結果になっているとして同一性保持権の侵害を
主張できないのかには少しく疑問の感じるところである。

 話は変わるが、新聞には読者からの投書欄があって、毎日のように色々な意見が掲載
されている。読んでみると、すべてが達意のある文章で書かれており、素人でもこのよう
な素晴らしい文章が書けるのだと、一応物書きの一人と自認している私としては忸怩たる
思いに囚われることがある。かつてこのことを新聞社の人に言ったところ、「いやあ、素晴
らしい文章で書いて来る人は少ないですよ。文章が滅茶苦茶でも、書いている内容に光
るものがあるときは、記者がそれを基にリライトしているのですよ。」と言われて納得した
ものである。しかし、本人に無断でリライトすることは同一性保持権の侵害に当たるので、
その点でクレームがつくことはないのかと重ねて尋ねると、「いままで、そんなこと一度も
ありませんよ。」との返事が返ってきた。確かに、投書者にしてみれば、自分の書いたも
のがより精錬された文章として、しかも自分の名で新聞に掲載されるのであるから、不満
のはずがなく、これがクレームのつかない原因ではなかったかと納得した次第である。だ
が、中にはへそ曲がりの投稿者がいて、同一性保持権の侵害である旨主張されたらどう
するのかと更に重ねて尋ねてみると、「全く対応は考えていません。どうしたらいいでしょ
うか。」と逆に問われる結果となった。そこで私は、応募要項に「掲載の際には当社によ
って加筆される場合があります。」との一項目を入れておけば、投稿者はこれを承知の上
で投稿してくるものと推定され、新聞社が免責される可能性が大きいでしょうと応えてお
いたのである。

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